001 プロローグ
小さな僕は、大きな街に住んでいてチンピラ一味の下っ端だ。
僕たち一味は典型的な4人組のザ・チンピラ。
リーダーはスキンヘッド。
モヒカン頭の2人は実の兄弟で、モヒカン部分の髪を兄が赤色、弟が黄色に染めている。
そして一番下っ端の僕は普通の黒色の短髪。
全員やせ形で、恰好も典型的なザ・チンピラだ。
リーダーとモヒカン兄弟の3人は悪そうな目つきでシャツを着ずに地肌に黒の皮ジャケットを羽織り、首元には銀のネックレス。
そして、黒の皮パンツに黒靴。
加えて、リーダーはフィンガーレスの黒グローブを身に付けている。
僕は最近チンピラ一味に加わったんだけど、強制的にみんなと同じ全身黒で統一した服を用意された。
リーダーから渡されたこんな実用性の無い服……どこに売ってたのだろう?
でも、渡されたので着るしかない。
なので、僕も彼らと同じく上半身は地肌に黒皮ジャケット姿だ……前面のチャックは閉じないので、自分のぷよぷよした柔らかいお腹が丸見えで恥ずかしい。
でも、そんな事より僕はチンピラになれた事がとても嬉しい。
チンピラは、弱いのに偉そうに街を闊歩する。
それがチンピラだ。
身長150センチにも満たない細身の僕も、みんなを真似て一番後ろをついて歩いた。
チンピラというのは、喧嘩が弱いのに道ばたで大声で喧嘩を売る。
それがチンピラだ。
相手の強さや背景を何も分からずに、何も知らずに……特に考えも無く喧嘩を売っている。
僕が読んだ本の色々な物語に出てくるチンピラもそうだし、実際にチンピラ一味の彼らもそう。
物語には欠かせないのがチンピラ。
主役を際立たせるのがチンピラ。
僕はそんなチンピラだ。
石造りの建物が多いこの街で、チンピラが喧嘩を売る相手は様々。
中にはとんでもなく強い人も居るけど、そういう人はもれなく超手加減してくれる。
強い相手との喧嘩の手順はこう……まず、先頭を歩き一番勢いのあるリーダーのスキンヘッドが1発でやられると、その後モヒカン兄弟の2人(赤と黄)が大声を張り上げ、リーダーの仇を打とうとするけど返り討ちに遭う。
お決まりの喧嘩パターンだ。
そして、3人がやられた後。
一番小さな僕が腰を抜かして地面にへたり込んで助けて下さいと言う。
これもお決まりだ。
これがチンピラだからね。
強い人はそんな僕の姿を見ると、それ以上は何もしてこない。
僕たちに背を向けスタスタと歩いて去っていく。
チンピラよりも強いけど弱い人は、最後に残った僕を気が済むまで殴ったり蹴ったりもする。
当然の権利だと思う。
だって僕はチンピラだからね。
チンピラが理不尽に喧嘩を売った訳だから。
悪いのはチンピラ。
なので、僕は素直に殴られる。
痛いんだけどそれがチンピラだからね。
でも、心配はいらない。
チンピラは殴られ上手だから大丈夫。
いくら殴り飛ばされても、次の日には傷も癒え普通にチンピラをしている。
これが僕が大好きなチンピラだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
石の路面に石とレンガ造りの建物が多いこの古い街は、とても大きくて毎日賑わっている。
街の名前なんて僕にはどうでもいい。
この街は国の交易の中継地点として様々な物で溢れ、街の西側には南北を貫くように川幅がかなり広い川が流れている。
対岸の建物が小石程度にしか見えない、大きな川で隔てられた街の西側は砂漠が広がり、東側は緑が広がる独特の環境だ。
砂漠側にはキャラバンが隊を成し、緑地側には馬車が列を成す。
内陸から海まで伸びた大きな川には様々な船が行き交い、船を曳航する飼い慣らされた海獣も多く見かける。
更に、街の近くには複数の未制覇の大きな地下ダンジョンがある事により、街中には冒険者の姿も多い。
街が大きくて冒険者の数が多いと、必然的に冒険者関連施設も比例して多くなる。
通りには冒険者ギルドに武器屋や宿屋等が軒を並べていた。
強い冒険者は子供たちにとって憧れで、勇者の活躍は伝説的な物語となり、そのまま歌劇団の演目にもなり、吟遊詩人が楽器を片手に勇者の快進撃を唄い踊って語り継がれる。
とても人の力が溢れるこの街で、僕はチンピラだ。
僕はいつもの3人の後ろをついて歩いて、今日も4人組のチンピラ。
チンピラは機嫌が良いと鼻歌を歌う。
3人バラバラの鼻歌だ。
僕も真似して、昔見た歌劇団の演目で聞いたうろ覚えのメロディをフンフンと鼻歌で歌いながら街を闊歩する。
でも次の瞬間、チンピラは機嫌が悪くなり喧嘩を吹っかける。
それがチンピラだ。
通行人と肩がぶつかったり、生意気そうな奴を見かけるとそうなる。
毎回喧嘩に負ける訳でも無い。それがチンピラだ。
なので、チンピラより弱い相手には勝つ。
それがチンピラだ。
そうしてチンピラは負けた相手から金を奪い日銭を稼ぐ。
稼いだ金は酒に使うし、時には女に使う。
時には服や靴も買う。
散髪はこまめにする。
髭も剃るし、毎日風呂にも入る。
今日も街のチンピラは元気で、僕はチンピラだ。
でも……そんな僕は、隠している事が1つだけある………僕はチンピラでなければ、何だって出来るんだ。