夢からさめて
――あなたは何を求めますか?
「カッコよさ」
即答する。ふさぎ込んでいるダサい自分はもう嫌だ。
誰かにどうやったらかっこいいと思われるかなんてわからない。
だからこそ、自分がかっこいいといえるようでありたい。
好きな人を守ったりだとか、クールにキメたりだとか、スゴ技で圧倒したりだとかそういった風に俺はありたい。
――あなたはそれを使い何をしますか?
「ダサいことはしねー。少なくとも自分がそう思うことは」
心に従う。追い求める。うじうじなんかしてやらないで、走って勝ち取る。
そうしたいと、何度も思っていた。そうできないと、あきらめていた。
……もし、それができるなら。
――ほかに望みは?
「ないね!」
大見得を切る。まくしたてる。負けてたまるか。
「力なんかなくたって、便利な技術がなくなって、何とかなるさ。なんたって俺はてんっさいっですから!」
そんなものはないと心は叫ぶ。だがそんなことは関係ないのだ。これは自分に対しての宣誓。こんな夢の中まで見て愚痴垂れてやるほど弱くいるつもりはない。
「勝ち取りたい――勝ち取るんだ。自分の力で、自分の望むものを!」
語りかけてきた声の主が笑う。……笑った気がした。
「――だってさ、そのほうがカッコいいだろ?」
その言葉を最後に、俺の意識は途切れた。
望むものを選びなさい。そう声を掛けられながら。
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……無茶苦茶な夢を見た気がする。
……そもそも夢だったか? 見る直前寝てなかったような気もするけど。どうにも記憶があいまいだ。もやがかかったように……思い出せないようにされてるみたいな違和感。
ただ一つ、わかることがあるとするならばこの非科学的な模様が描かれた円の上に座ってはいなかったし、女の子のいる部屋にいなかったことは明白なはずだ。
そしてその目の前にいる女の子はわなわなと肩を震わせて、やるせないような顔をしてこちらを見つめていた。
「ま、まだチャンスはある……どこかの英雄かもしれないし、めちゃめちゃやばい能力持ってるかも……」
ぶつぶつとつぶやく彼女にはなんだか話しかけずらい。……というか、彼女が焦っているせいで冷静でいられてるため、何となく起きた事態を看破できているような気がする。
「え、えっとこんにちは? 突然驚かせてごめんなさい。とりあえず質問させてもらっても大丈夫かしら?」
呂律が微妙に回ってない言葉に頷く。
「言葉は通じるのねよかった……んん、あなたは何ができるかしら?」
「何ができるって……抽象的だな。少なくとも戦闘力を期待しないでください」
「……そう。じゃあ質問を変えるわ」
どうやらこちらの言葉も通じるらしい。生存できる環境、通じる言葉。最高だね。
「あなたは、何を願ったかしら?」
その質問で確信した。そして同時に彼女も俺がどういう存在なのかがわかっているのだろう。そして同時に後悔をした。あれがそんなに重要なものだって思わねーよ普通。わかってたら伝説の剣持たせてだとか超常能力をくれとか言ったのに。
「かっこよくありたい」
正々堂々胸を張って言う。嘘つくのはだせーからな。作戦ならまだしも。
それを聞いた彼女はぽろぽろと涙を流す。表情が固まったまま泣いているので正直ちょっと不気味だ。
俺が泣かせたのだから何とかしないととは思うがカッコ悪かった俺に女性を慰めるスキルなんてあるはずもなく、自分も固まってその姿を見続けてしまう。
彼女が大きく息を吸った。
「はずれだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
申し訳ないけど、これが現実なんだよね。
藤堂誠、21歳。おそらく異世界なるものに投げ出されたようだ。