人殺し
あれから数日が経った…。
警察の事情聴取何かもあり俺に殺人の容疑がかかったが
柚葉の証言もありなんとか無罪となった。
だが平穏な生活に戻れる何て事はない。
あれから学校にも行かず部屋から出てもいない。
俺は…人を殺したのだ。
自分の命を優先してお婆さんを蹴り
お婆さんの命を奪ったのだ…。
命は重い…そんなことは当たり前だ。
俺はそんな重いものを背負ってしまった。
トントントン……。
部屋をノックする音。
「隼人、お客さんが来てるよ。柚葉ちゃん。心配してるよ、会って話してみない?」
ドア越しに母親の声がする。
腫れ物に触るような母親の態度…。
息子が殺人者になりかければ当然だろう。
「……ありがとう、母さん。部屋まで通してもらえる?」
正直会うのは気が進まないが断る理由が思いつかなかった。
何を言われるのだろう。
柚葉も「あの光景」を見てしまってから
心にトラウマを負ってしまいカウンセリングを
受けていると親から聞かされている。
それに対しても罪の意識が増幅していく。
トントントン……
本日二度目のノックが部屋に響いた。
同時に柚葉の声が聞こえてくる。
「隼人?入ってもいいかな?話したいことがあるの…」
その声は酷く沈んでいるように感じた。
重大な決意を秘めているかのように…。
「入ってきていいよ。散らかってるけど…」
ドアが開いて柚葉が入ってくる。
荒れた部屋……。
泣きながら子供のように暴れた部屋を見られて少し居心地の悪い気持ちになる。
柚葉は一瞬驚いた顔をしたが
控えめにお邪魔しますと呟き俺と目がを合わせた。
ドアが閉まり数秒の居心地の悪い沈黙が流れた。
「とりあえず座っていいぞ」
沈黙に耐えきれなくなりとりあえず座るように勧めると
ん…っと短く返事をし俺と向かい合う形で座った。
………そしてまた沈黙。
言い難い話なんだろう。
罵倒されるのも覚悟しておくべきだ。
俺のせいで柚葉にトラウマを負わせたのだから。
「あの…さ」
柚葉が話を切り出した。
そのまま深呼吸をして柚葉は話しだした。
「ごめん…あの時に隼人に全部任せないで私も一緒に行けば隼人が辛い思いすることもなかったしあのお婆さんも助かったかも知れないのに…全部隼人に任せて一人で背負わせてほんとごめん…」
泣きそうな顔で柚葉が告げる。
そっか。
柚葉はそういう奴だった。
背負い込んでたのは柚葉も同じだった…。
こいつは優しいんだ…。
そんな奴に俺は辛い思いをさせ背負わせてしまった…。
「柚葉は何も悪くないよ…俺の方こそごめん…。人殺しの瞬間なんて見せて辛い思いさせて。ほんとごめん」
謝ることしか出来ない…。
……柚葉は何も悪くないのだから。
「違う……やっぱりそう思ってたんだね」
「えっ?」
否定の言葉に俺は戸惑った声が出る。
柚葉は悲しい顔をして意を決したように勢い良く話しだした。
涙を流しながら……
「違うよ……人殺しなんかじゃない…。隼人は…隼人はあの人を救おうとした!他の人がただ見てるだけだったのに隼人は行動した!あの中で隼人は一番正義の味方だった!隼人は人殺しなんかじゃない!」
予想外の言葉に涙が溢れてくる。
俺を軽蔑され罵倒されることを想像していた。
でもそれどころか柚葉は俺を人殺しじゃないと…
正義の味方だと言ってくれた…。
その瞬間何かが弾けたように涙が止まらなくなった。
柚葉が俺を抱きしめる…。
人の感触…温かい、凄く温かい……。
「一人で背負わないで……」
とても優しい声色で
だけど怯えたような声で柚葉は言う…
「ありがとう…柚葉…ありがとう…」
ただお礼を言うしか出来なかった。
俺も柚葉もダムが崩壊したように泣き続けた…。
二人はいつまでも泣きながら抱きしめあった。
『新しい希望は新しい絶望の始まりだよ??正義の味方さんは正義を守れるのかな?』
聞こえた声を俺は聞こえないフリをした。