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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

グンマー王国のパンダー

作者: うまひ餃子

 ファンタジーはやっぱり楽しい。



 それは唐突だった。



 “皆さん、こんばんは、神です”



 あまりにふざけた第一声。

 しかし、続いて出た言葉の方が衝撃だった。



 “ローファンタジーで行こうぜ!!”



 前後の発言で上空5000mからマリアナ海溝ほどの落差を持った電波な衝撃に恐らく世界の人々が噴飯したに違いない。なんせテレビからパソコン、携帯電話の画面に連なり、果ては空にはっきりと浮かぶ人型の姿だ。


 恐らく全世界でこれから何が起こるのか理解できていた奴など、ジャップの紳士淑女にしかいやしなかっただろう。


 かく言う自分もテンションアゲアゲなる状態に陥ってしまったものだ。



 “それではみんなお休み。目が覚めた時、君たちの世界はガラリと変わっているだろうけど、負けないでね。ガンバ!”


 

 物凄く物臭で誠意のない応援を最後に、人々の意識が落ちていく。

 この日、世界には文字通り静謐な夜が訪れた。

 

 後にこの日のことは「転換点」だの「災厄の日」などと様々な呼ばれるようになる。



 ◇



 転換点から3年・・・・・・



 「で、出たぞォォォ!」

 「パンダだぁぁぁー!」

 「グンマーの刺客だぁぁぁ!」



 そう言ってディスられているのは俺です。

 しかし、言い掛かりも甚だしい。


 「こっちのシマ荒らしに来たんはそっちやろげぇぇぇ!」


 そう言って密入者にフライングボディープレスをお見舞いする。

 因みにこの技は、「空を飛ぶパンダ。強そう」という構想の元、凡そ30秒ほどで完成した俺の奥義が一つである。


 「ぎやああああああああ」


 先ずは一人。

 おっと、残りの二人が二手に別れやがった。

 小癪な人間め。だが、このグンマー最奥の森の中でこの俺パンダ一郎から逃げられると思うなよ!


 「出番じゃあああ、月光軍団!」

 「ウキー!」


 甲高い鳴き声とともに木の上から網がそれぞれの男に降りかかる。


 「うわぁぁぁ!」

 「なんだよこれ!」

 「確保!」


 男たちが戸惑っている間に捕獲の指令を出すと、頭上から幾つもの影が舞い降り、男たちの動きを封じて行く。


 「さ、猿だぁ!」

 「あ、こいつらもしかして日k「月光です」


 最後までは言わせねえよ?


 「エテ公」


 俺が呼ぶと猿軍団の中でも取り分け精悍な奴が進み出る。

 目元に縦の切り傷を作った二枚目風な猿である。


 「よくやった。お前たち月光軍団には褒美に今日に限りスイートツリーの実食べ放題を許す」

 「キキッ!」


 エテ公は流石お山の大将だけあって落ち着いているが、後ろの団員どもは浮かれ切って手を叩いたり跳ねたりして喜びを隠し切れないようだ。まぁ、猿だし仕方ないよな。


 因みにスイートツリーというのは枝に異なる種類の果物を幾つも実らせる不思議な木のことである。

 そしてそのどれもが上手い。流石ファンタジー、SF(少し不思議)どころの話ではない。

 まぁ、その維持には結構な面倒があるんだけども。


 「捕まえた奴らは森から放り出しておけ。勿論裸一貫でな」

 『ウキッ!』


 猿たちが一斉に敬礼して行動に移り始める。

 ウムウム。見ていて気持ちが良いものだ。



 ◇



 ノシノシと木々の間を抜けていく。

 そんな俺の体は白と黒の毛に覆われている。

 寒くもなければ暑くもない、訳ではなく、夏は暑いし冬なんて地獄だ。 

 嗅覚も人間の時より鋭敏なもんだから目を瞑ってもクソの位置とそれが誰某のものかというのが分かってしまうという罰ゲーム仕様。

 何となく、野生の動物たちの気持ちが分かった今日この頃。


 「バウッ!」


 気付くと山犬が襲い掛かって来ていた。

 

 「何処の世紀末やねん」


 右手を振るうと犬の体が吹っ飛ぶ。

 う~む、何時にも増してオーバーキルだな。


 「シャーッ!」


 と、思ったら今度は頭上から毒蛇さんがこんにちは。


 「では、さようなら」


 挨拶は簡潔にワンパンチ。

 これぞグンマー流。


 そう、ここはグンマー。

 かつて群馬なる土地であった。



 少し時間を遡る。

 転換点から目を覚ますと俺の日常は見事にブレイクでダウンなものとなっていた。

 俺はアパートの自室でカップ麺を啜りながら意識を失った筈だった。

 けれども周囲は見渡す限り木、木、木である。

 俺の部屋は?俺のカップ麺は?俺のへそくりは?などと首をブンブン振り回してもそんなもの何処にもないのだ。


 「クソゲーだろ」


 そう呟いてしまったのは仕方ないと思う。

 とりあえず、現状をどうにかするべく立ち上がろうとした時、ふと違和感を覚えた。

 

 何だか体が重たい。

 まるで重りを付けているかのように。

 そして、そんな自分の体を見ると気付く訳だ。


 「なんか毛深いな」


 なんか所の話ではないのだが、どうにも俺のパープルな脳味噌がまさかな現実を拒否していたのでやっぱり仕方がないと思う。

 結局、それから半日かけて俺は自身に起こった変化を受け入れたのだった。

 いや~、あの時は熊った熊った。



 その日から俺はあちこちを駆けずり回り、情報を集めた。

 北に進んでは獣に追い掛け回され、南に行っては人に追い掛け回され、西に行っては断崖絶壁に阻まれ、東に行っては苺餃子共を血祭りにあげた。

 だって、あいつら群馬のこと馬鹿にすんだもん。

 曰く、

 「本当に未開の土地になってる(笑)」

 「流石グンマ。笑える」

 「ユニークグンマー種族とかいるんじゃね?」

 などなど。


 終いにゃ俺見て笑いだすんだもの。

 「嘘だろ。喋るパンダとか(笑)」」

 「これ捕まえて見せびらかそうぜ?」

 「グンマーはやはりグンマーだったんだな(笑)」


 こんな失礼な餃子県民には鉄拳教育が必要でしょ?

 無論、殺しはしなかったさ。精々、ボコボコにして森から放り出すぐらいなもんよ。

 優しすぎるだろ?


 それにしてもやはり餃子県民と納豆黄門県民は敵である。




 ◇




 更に七年の月日が流れた。

 え?何故ジャングルパンダさんの俺に時間の流れが分かるのかって?

 そりゃあ、ちょくちょく森に入って来る宇都宮王国やチバラキ連合の輩をしばきまわして情報を吐かせているからに決まっているだろう?

 ああ、前者は元T県、後者はI県とからなる国家の名称だからそこんとこよろしく。



 そうです日本分裂です(笑)

 いや、笑ってる場合じゃないんだけれども、実際、笑うぐらいしかこの辛い現実から逃れることは出来ないのだ。


 転換点より世界は変わった。

 ありとあらゆるエネルギーが途絶え、人は文明を失った。

 らしいのですが、原始パンダな私からすると関係ナッシングなのです。

 OHANASHIした方々からの伝聞だと、ダムには龍のような姿の巨大生命体が、地熱発電所があった場所には炎に包まれた巨躯な影がと、なんかもう「日本オワタな」しか浮かんでこなくて、もうどうにでもな~れと思いましたまる


 以上の様なことから発電の手段を失った我々は電気をこれまで通り使えないのである。

 と言うか既に大抵の電子機器はゴミと化しているのだそうな。

 う~む、勿体ない。


 それでも、東京キングダムやオワリノ国なんかではメカな感じの何かが秘密裏に研究開発されているらしい。なんだその抽象的過ぎる都市伝説は。


 

 

 そんで、他国(この場合海外諸国を指す)との通信手段も途絶えてしまったらしく、国際情勢ナニソレ美味しいの?なレベルなんだそうです。


 だったら、海を渡れば、なんて甘い考えはホットケーキに生クリームとカスタードとチョコソースを掛けるぐらい甘々なのです。やべ、食いたくなってきた。


 ローファンタジーな世界なんだから、当然化け物だって存在します。

 海はモンスターの巣窟です。

 以上!


 簡潔すぎる説明に自分で感動しちゃったよ。

 あれ、目から汗が。トホホ


 内陸県舐めんなよ!

 こっち(グンマ)だって川や池ぐらいあるんだよ!

 そこでさえ、全長数m級の化け物がいたんだ。

 海なんてそれを超えるおっかねぇのがいるに決まってるだろうが!

 三段論法舐めんなよ!


 

 ああ、スイーツ食いてえなぁ




 ◇




 数日後。

 なんか変な集団が来た。

 兎に角格好がおかしいのだ。

 RPGゲーの主人公が初期に着てそうな鎧や剣を装備した男の集団がやって来たのだ。

 一瞬俺は外の世界では「勇者教」なる新たな宗教が生まれていたのかと勘違いしてしまった。


 俺を見つけると何か走って来たので手を振ったら、問答無用で武器を当てようとして来た。

 初対面マナーが野生動物と良い勝負だったので、こちらも無言でぶっ飛ばした。手加減無用なり。

 ボキッとかグギャッって音がしたけど、これは正当防衛です。


 奴らは這う這うといった感じで戻って行った。

 一体何しに来たんだ。



 ビースト・ミーツ・ブレイバーから一ヶ月ほど経って今度は小奇麗な装いの奴らがやって来た。

 立ち振る舞いからそれなりに出来ることは分かったので、とりあえず月光の奴らに糞を投擲させる。

 どうだ、SAN値直葬だろう?


 「なっ!」

 「うぇっ!」

 「クソッ!」


 誰だ、今上手いこと言った奴。

 まぁ、いいや。

 君たち、クソで怯んでいる様じゃ、この森では三日と持たんよ?



 結局、彼らも全身糞まみれになりながら森から逃げて行った。

 貧弱貧弱ぅー!




 ◇




 「パンダさんマジパネェっすわ」

 「もふもふ」

 「ミサキ、いい加減にしなさい」

 「もふもふ・・・」


 最近、この森に狩りによく来る男女の三人組と俺はよく駄弁るようになった。


 茶髪で、軽い口調のマサキくん、多分十代後半くらい。

 黒髪ショートカット不思議少女ミサキちゃん多分中学生くらいの年齢。

 ポニーテールで常識人且つ苦労人枠であろうサオリちゃん、恐らく大学生くらいの年齢だと思う。


 ファーストコンタクトは彼らの仕掛けた罠に腹が減った俺が引っ掛かったのがきっかけでした。

 ああ、黒歴史・・・


 「で、話聞いた限りだと、多分前者がクラン“ブレイバーズ”、後者が宇都宮王国騎士の部隊ってところかしらね」


 事情通感を醸し出すサオリちゃん。

 やっぱり頼りになるなぁ。


 「ブレイバーズは複数人でつるんで気が大きくなってる勘違い集団よ」


 なるほど、確かに腕も大したことなかったし、まとまりも今一つだったもんな。


 「で、騎士隊の方を撃退って言うのかしら?とりあえず退けちゃったのはちょっと問題かもね」


 ん、なんで?


 「以前から宇都宮王国はチバラキ連合からの攻撃を受けていたのだけれど、ここ最近和平を結んだのよ」


 うん、仲良きことは素晴らしきかな。

 で、それで?


 「元々それ以外の国境を接する他国とは無難に付き合えていたのが宇都宮王国なの。そして最大の外患も取り除けた。となれば」


 となれば?

 「となれば?」

 「となれば?」

 

 俺に続いてマサキくんとミサキちゃんも首を傾げる。

 これがシナジー効果か!(違います


 「・・・はぁ。資源が豊富で、且つどの国の支配下にもない桃源郷がすぐ隣にあるのよ。あとは言わなくても分かるでしょ?」


 やれやれ顔してるとこ悪いんだがね。

 サオリちゃんや、それは流石に想像が飛躍しているというか、素人が動かす飛行機ラジコン並みに明後日の方向にぶっ飛んでるね。

 ここだって十分デンジャラスでハードモードなんですぜ?

 それこそ絶対に人の手に負えないような輩もチラホラではあるが存在してるし。


 「パンダさん、パンダさんは森で生活しているからあまり実感していないかもしれないけど、もう日本なんて何処にも残ってないの。転換点以前の甘い考えは捨てた方が良いわよ」


 何時になく真剣な表情のサオリちゃん。

 まぁ、俺も化け物に襲われたり、人に狙われたりしたからなぁ。

 何となくは分かっているつもりだったけど、サオリちゃんの忠告は胸に留めておこう。

 なんてったって俺のことを気遣っての諫言な訳だし、上手く還元せねば!

 寒い?おかしいなぁ、今日は比較的暖かい気候だけどなぁ。。。



 

 ◇




 結論から言うとサオリちゃんの悪い予感は的中した。

 何か東から人が大勢やって来た。

 それも明らかに一般ピーポーに当てはまらないような輩がわらわらと、槍やら剣やら弓を担いでえっちらおっちら。

 共通するのは皆、似たような装いをしているということ。

 黄色の防具が見事にシュールである。


 うん、友好的姿勢など皆無だな。

 という訳で、


 「てったい~」


 後ろに向かって前進だ!

 ガチバトルなぞ時代遅れなのじゃあ!


 


 それから数日の間、彼らはやって来た。

 そんな彼らは獣を狩ったり、植物採取に励んだり、頑張っていましたまる


 

 ◇




 バナナマンずは一頻り森を荒らして帰って行きました。

 ぶんめいじんが聞いて呆れるわ。カーッ、ペッ。


 

 ということで、我々グンマーの民は誠意を以てお返しをすることにしました。

 その内容とは・・・・



 お尻フリフリ

 「浜松の方が餃子美味いってホントデスカァ~?」

 「消費量抜かれたってまじどぅぇすかぁ~?」


 「(# ゜Д゜)コロス」


 こんな感じで釣った阿呆を


 「うぎゃっ!」


 落とし穴で捕獲してからの


 「おいっ、やめっ、やめろぉ~!」


 くすぐりの刑。


 「ぶひゃっ、ぶひゃひゃひゃひゃ!!!」


 どうだ。

 苦しかろう。

 だが、これでは終わらぬ。


 後日。

 宇都宮王国辺境の街に、下着一枚で何人もの男たちが放り込まれるという怪異が起こった。

 その男たちの体中には何れも幼稚な落書きがデカデカと書かれ、男たちは決して自身の身に何が起きたのか語ることはなかったと言う。



 そして、この時誰もグンマーに潜む恐ろしきパンダの存在に気付けなかったのである。

 いや、正確には数名居はしたが、


 「パンダさんマジパネェっすわ」

 「もふもふさん・・・」

 「黙っておきましょうね?」


 事実は闇に葬り去られたのであった。






 


 

 


 チバラキ連合の茨姫イバラキとか茨城童子とか、主に茨城ネタが浮かんだりはしました。

 千葉は( ^ω^)・・・

 それにしてもパンダ△

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