ケーキ売りの少女
クリスマスイブ。
それはケーキとチキンを売る日。
売れ残りがでたら敗けである。
年の瀬も迫った24日。ふもっふ
(本来ならば国民総出で祝うべき23日は大半が単なる休日として華麗にスルー)
前日の夜半から舞い降りた冬の妖精達は、その魔法で町並みを白く染める。
(さほどの量ではないため足元はすでに泥濘に代わり景観を損なっている)
街角の広場にはこの日の為だけに用意された生のモミの木によるクリスマスツリー。
(イベント終了後は産廃として無駄に処分され、環境破壊に拍車をかけていた)
大量の電飾を用いたイルミネーションが光輝き、その美しさに人は心を奪われる。
(いったいどれだけの電力を無駄に消費しているのだろうか)
街頭に流れる様々なクリスマスソングが、心をさらに浮き立たせる。
(メジャーなクリスマスソングって失恋ソングが多いよね、山○某のとか)
はしゃぐ子供を挟んで手を繋ぐ幸せそうな家族連れ。
(連れ去られた宇宙人かっての)
恋人達は腕を組み、互いを慈しみながら歩いていく。
(これからお楽しみですか、そうですか)
幸せな人々の笑顔を見送りながら、少女は思う。
「あ”ーーーーー、世界が滅びないかな」
「マキちゃん、さっきから心の声が漏れてますよー?」
後ろから掛けられた声に振り向くと、湯気の立つコーヒーを片手に持った美少女がいた。
しかもミニスカサンタコスである。
このくっそ寒い中の絶対領域が目に眩しい。
同姓の目から見て至極、眼福である。
自然と両手を合わせ、「ありがたやありがたや」と嘯く。
「んもう、何バカな事やってんのよ」
「お約束です」
差し出されたコーヒーに口をつけると、その温かさが身に染みる。
「あ”ーー い”ぎがえ”る”ぅぅ。 ねぇサキ、結婚して?」
「はいはい、いつかねー。 それでマキちゃん、ケーキは売れて……ないね」
「うむ。 見眼麗しいじょしこーせーが手ずから売っているのになぜ売れぬ」
帰宅帰りを狙って16時よりはじめた店頭販売も既に2時間が過ぎようとしていた。
10人中5人は振り返るような輝く笑顔でセールストークを行うも、山と積み上げられたケーキの箱は殆ど減っていない。
「だって、マキちゃんトナカイコスじゃん。 どう見てもイロモノ」
「くっ。まあ、三軒隣が有名パテシェのケーキ屋だからよ。 コンビニケーキじゃ勝負にならないか。 家は今年もあそこのケーキだし」
「マキちゃん、店頭でそんなこと言っちゃダメよ。 まあ、家もあそこのケーキ予約してたけど」
「サキこそ大概だねぇ。 それよりそっちの状況はどうなのよ、チキン売れてる?」
「あはははは、駅前に大佐がいるからね。 コンビニチキンが売れるわけが……」
「「あははははは……。 お互い頑張ろう」ね」
店内に戻る友人を見送ると気合いをいれて営業を再開する。
「ケーキ。 ケーキ如何ですか? 美味しいケーキはどうですか?」
家路に急ぐ人の数は増えはするものの、店頭ケーキには見向きもしない。
このままでは……。
このまま売れ残ってしまったらバイト代が現物支給になってしまう。(※実話)
それだけは避けねばならない。
いったいどうすれば……
なにも妙案が浮かばぬまま、時間は経過していく。
そして、少女の悲しい掛け声は町の雑踏に消えていった……。
ーーー就業時間ーーー
目の前には大量のクリスマスケーキと鶏肉。
ひきつった顔の店長。
「ははは、じゃあコレ、廃棄するのもアレなんでみんなで分けて持ってかえってね」
感情の消えた声と表情で手渡される大量のケーキとチキン。
これがバイト代にならないことを祈るばかりである。
バイト一行の願いは果たして叶うのだろうか。
それは神のみぞ知る。
「「「「サンタさん、ワガママはいいません。 現物よりも現金をお願いします」」」」
これは聖夜というエンジョイする日に、労働という奉仕をした少女達の物語。
ーーー25日ーーー
マキとサキが登校するとクラスメイト達が声を掛ける。
「えっ、マキ……あんたやばいくらい顔がテッカテカよ?」
「サキちゃん、なんか丸くなってない?」
「「ホールケーキ3つと、チキン10個も食べたからねー」」
どうぞみなさん。
素敵なクリスマスをお過ごし下さい。
もしあなたが街頭でクリスマスケーキを売っている可愛そうな少女を見かけたら、手を差しのべてあげてください。
きっと通報されます。
この小説は、2017/12/24-25の期間限定公開です。
2017/12/26日中に非公開設定になります。