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ホントに、天使になってしまいました

  先日、二日続けて、お看取りがありました。しかも、ほぼ同じ時間……


 お二人共、スタッフにとても愛されている方でした。好き嫌いはありますが、存在感がある、ですから、とても寂しくなりました……


 独身女性で、遠い親戚しかいなく、「死亡時の連絡」となっていた方から、お伝えします。


 

 入所された時、膝から下が、ボロボロでした。細い脚に、内出血班がいっぱいで、所々皮がむけていて、出血痕があります。足の指の色も、とっても悪い。車椅子にすっぽりと乗っかっていて、動かない。何を聞いても、そっぽを向くばかり……目脂で汚れた顔。


 それが、毎日、脚の処置をして、ご飯を食べだすと、色白のお顔は、正に天使のようでした。しかし、その性格は……とにかく、ああ言えばこう言う、いわゆる汚い言葉で、威嚇してくるし、手が出る。凄い力で、つねってくるし、超が付くほどの天邪鬼!!


 初めは、短期入所で、様子を見ていたのですが、こちらの堪忍袋がキレる前に、少しトーンダウンしてきたのか、私達が慣れてきたのか……落ち着いてきたということで、本入所になった方です。


 入所された時、自分で眉を描いていました。それが、段々とアーティスティックになっていき、残念な感じに……でも、自分でやっていることなので、自由にしてもらっていたところ、いつからか描かなくなってしまいました。面白かったのに……という気持ちで、聞いてみました。

「眉、描かないんですか?」

すると、ちょっと怒ったように、

「もういい!やっても、しょうがない!おばあちゃんだもの」

と。

「あら、女は幾つになっても、身だしなみ大切だって言ってらしたじゃない?自分で描くのが難しいのならば、描きますよ」

と言うと、少し考える様な時間の後、

「もう、いいよ、ありがとう」

と、初めて、ありがとうなんて言葉を聞きました!なので、気持ちが高揚してしまい、

「じゃあ、亡くなった時に、私が描いてあげるね、やらせてくれる?」

と言ってしまいました。亡くなったらば……

「うん、お願いするよ、きっとだよ」

ゆびきりげんまんしました。

 ろくに化粧しない私は、それから、バックに眉墨を入れて置きました。


 90半ばを過ぎていました。段々食事量は減っていき、傾眠状態の時には、まるで食事が取れません。それでも、食事介助は、三口まで。それ以上は、口を開けてくれないだけではなく、ペッと、吐きかけられますし、食事でベタベタの手で、振り払われてしまいます。お気に入りの小さなスプーンで、お皿からお皿へソフト食を移動させて、混ぜては口元の手前まで持っていき、エプロンにダイブ……食事量?

 エプロン二重にして何とか服への被害は防ぐのですが、手や髪がベッタベタ。フィンガーボール??で、手を洗い、濡れタオルで、髪も拭かなくてはなりません。幸いなことに、毛が薄くて、すぐ乾きましたが……


 そんな状態でも、話しかけると威勢のいい、なかなかの返しが来ました。


「まったくもう、こんなに痩せちゃって!」

と、オムツ交換の時に、介護員さんが言うと

「ふん、デブデブ……や~い」

で、

「ヤセヤセ!」

と、返されて、、更に

「デブ、デブ、デ~ブ!」


「足の指、腫れているから、お薬塗りますよ」

「痛~い。バカ!下手くそ!わざとだろ!」

「だから~蹴飛ばさないで!」

「足動くから、大丈夫!もういい、バ~カ!」


 でもね、そう言っている顔が、何ともかわいいんですよ……困ったことに……

 ツンデレ……ファンがいっぱいいました。けど、

 とうとう、その時が来てしまいました。



 寝ている時、舌が丸まって、喉を塞ぐようになってきていました。いびきのような呼吸。それでも何とか、サチュレーション90ちょいをキープしていたのですが、飲み込むのも難しくなっていきました。

 一日の水分量が300以下と言う日が続き、遂に、0……

 そこからは、とても早かったです。


 私の三連休明け、それまでも度々、飲水・食事量の低下はあったので、持ち直していらっしゃるかな~と期待していたのですが……


 最後の夜、彼女の大ファンが夜勤でした。隣のベッドが空いているからと、仮眠をそこでしたそうです。添い寝?ゴソゴソしていたので、

「どうしたの?」

と、聞くと

「喉が渇いた」

と言われたため、彼女の大好きなリンゴジュースを、自販機で買ってきて、ストローを口に入れると、始めは吸えなかったらしいのですが、ちょっと押し出すと、その後自分で吸えたとか……50㏄ほど飲んで、満足されたのか、眠りについたそうです。


 朝、昼と、振り子の車椅子で、ホールに。けれど、飲み込むことは、出来ませんでした。もう、ストローを吸うことも、出来ませんでした。


 でも、午前中は、血色良く、少し痰がらみあるからと、吸引しようとしたらば、凄い勢いで振り払われました。

 14時ごろ、痰がらみで、サチュレーション低下してきているからと、吸引。その刺激で、目を覚ましたので、又聞きました……

「どうしますか?病院に行きたい?それとも、ここでいい?このままだと、死んでしまうけれど……病院に行く?」

頭を振ってくれました。

「ここにいたい?」

頷いて、くれました。


 16時少し前、訪室した時、様子が変わっていました。顔色が……薄目を開けているのですが、声掛けに反応無し。サチュレーションは、まさかの20パーセント!吸引して、引けたのですが、戻りません。40パーセント前後で行ったり来たり……足の裏にもチアノーゼが出だしました……

 何度も止まりそうになる呼吸、ちょうど早番の帰宅時間だったこともあり、集まれる人に声をかけて、皆で名前を呼びました、呼び続けました。夜勤明けの二人にも、ラインを送りました。


「ダメだな~○○ちゃんは、天邪鬼だから、みんながいる時には、死ねないんじゃない?」

「そうだね、いなくなってからにしようって思っているよ、きっと」

そんな中、私は、申し送りの時間になり、

「ゴメンね、お仕事だから、行ってくるね」

と、退室。


 申し送りの途中で、静養室にベッドが運ばれてきました。私が出て、ほんの数分で、最後の息を引き取られたそうです……


 約束を果たそうと、眉墨を取り出しました。


 お化粧の上手なスタッフに渡し、お願いをしました。口紅も、頬紅も……とっても綺麗でした。ホントに、羽が生えているようでした……


 死亡診断書、心不全


 葬儀屋さんが来る前に、夜勤の二人が来ました。


 手には、リンゴジュース。枕元で、いっぱい話しかけながら、一緒に飲んでいました。三人で……



 葬儀屋さんの到着が遅れて、帰りは真っ暗になってしまいました。

 帰り道、歩く方向の斜め上に、一つだけ、きらめく星が……

「可愛いから、もう、星になったんだね」




 


 

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