ジャブからのグータッチ
54話、リンゴ売り~の時に亡くなったもう一人の方を書きます。亡くなる前日に、グータッチをした方です。
私が入職した時には、既に車椅子でした。入所された時には、歩いてたらしいのですが、あちこち骨折してしまい、車椅子自走。会話は出来ますが、とてもぶっきらぼうで、表情乏しく、と言うか、いっつも怒っているような……こちらの言っていること、たぶんわかっていると思うのですが、「やめて」が、通じません。
認知症の域を超えている?と、精神科に通っていました。
車椅子になってからも、自分から転倒して鼻から大出血とか、ベッド柵にゴンゴン頭を打ち付ける、手が届けば、他の方を車椅子から引きずり倒す等々、ベッドのマットレスは引きちぎられてボロボロでした。異食もするからと、マットレスは外されて、傷を負っても、カットバンもつけられない……
受診したきっかけは、破壊的な多動だけではなく、食事拒否だったそうです。
食器を投げてしまいます。仕方がないので、食事を離して、食介にしました。食べてくれる時もありますが、口を開けてくれなかったり、ペッと吐き出したり…で、かなり痩せていきました。
気持ちが落ち着く薬を処方されて、何とか食べてくれるようになりましたが、亡くなるまで数年間、「自分で食べる」は、とうとう試されませんでした。……スプーンなど、凶器になりますので。
定時受診していた精神科、私が付き添ったのが、最後になりました。
まずまず食べるようになってくれたこと、自分を傷つける行為が減ってきたことを伝えると、
「年齢も年齢なので、もうこれ以上薬を増やすことは、やめましょう。精神疾患というよりも、認知症が進んできているのかもしれません」
と、説明されました。
施設に戻り、介護員さん達には、
「この年齢では、この量が限度だそうです。後は、歳を取るにしたがって、動きも緩慢になっていくので、問題行動も減っていくんですって」
と、伝えました。
まあ、車椅子自走して、他の人にぶつかっていったりという、力ずく技は、減っていきましたが、
「○○さんは、永遠ちゃうか~」
と……
医務室には、○○さんに引っ掻かれたり、噛みつかれたりの負傷者が、やってきます。
「良かったね、目に入らなくて……」
でもね、○○さんだって、手首に内出血痕……
その内に、どういう訳か、食介する分、全て食べるようになりました。これでもかというほどに、お腹が膨らみ……口癖
「ご飯下さい」
で、
「何が食べたいの?」
と聞くと、
「チャーシュー50枚」
と、決まって答えられます。
しばらくは、仕方がないことと、色々対策を検討しながら、介護されていました。が、夜勤は、一人でオムツ交換に当たることも出てくる為、「介護拒否を何とかできないものか」と、精神科受診の話が又持ち上がりました。
その頃、車椅子を変え、もう自走は出来なくされており、なので、ストッパーをガチャガチャずっと動かしていました。その音、かなり耳障り……何しろ、疲れを知らない……で、
「意味もない動きを繰り返しているのは、可哀想」
と。それにプラスして、夜間オムツ交換の時、寝ていてくれればいいな~という主訴で、精神科病院受診となりました。
初診には、お嫁さんが付き添ってくださいました。精神科は、聞き取りがとっても細かい。家族構成から、生い立ちなど、お嫁さんも知らない事まで。本人は、もう、答えられないし……でも、表情から、そうなのかな~と推察……
そこで初めて知りました。
とても仕事熱心で、頑張り屋で、一家を支えていた○○さん。旦那さんが大好きで、亡くなった時、鬱状態になり、一気に認知症が進んできてしまったこと。
心なしか、○○さんのお顔が、優しく見えました……
何とか、お昼ご飯の後、少し眠ってくれている間に、オムツ交換。夜間も途中ぐっすりと眠れる時間が出来、負傷者は、減りました。
ストッパーのガチャガチャは、車椅子を変えることで、解決。でも、そのせいでか、やることが無くなり、指が拘縮してきました。攻撃性は、残っていましたが……
しばらくして、あんなにも、食欲旺盛だった○○さんが、食事を残すようになりました。
昔のように、拒否しだしたのか?でもまあ、このお腹だから、半分も食べれていればいいのかな~と、初めは思っていました。が、どうやら気分の問題ではなく、食べるという行為が難しそうです。食事形態を変えても、飲み込みが悪くなっていきました。
散々、動きを止めるようにと言ってきた介護士さん達が、
「元気がない、どうにかして」
と。
「どっちなんだい?」
でも、なんだかんだ言って、この方も、ここの人として、愛されていたということなのでしょうか?
ご家族に、食べれなくなってきたことを伝え、主治医と話をする予定を立てました。
その日の前日、ご家族から連絡がありました。
「食欲がなくなってきていると、連絡をもらいましたが、明日、先生と話をした方がいいのですか?」
はあ~です。こちらは、「食べることが出来なくなってきている」と伝えたのに、どこで変換してしまったのでしょう?
もう一度、今の状況を伝え、これからの対応を先生と相談するよう勧めました。
「何が食べたい?」
と聞くと、かすれた声で
「チャーシュー」
と言ってくれます。
「何枚?」
と聞くと
「……枚」
「50枚だよね」
と言うと、頷いてくれたような……
主治医からの説明で、ご家族は納得され、施設でのお看取りとなりました。
ほとんど、水分も取れなくなり、口腔ケア、最初は噛みつかれましたが、次第にやらせてくれるようになりました。
そういえば、食べれなくなる少し前、布団を掛けた時だったか、
「ありがとう」
と言われたことがありました。
「ダメだよ、○○さんがそんなこと言っちゃ。それじゃあ、まるで、死ぬ時みたいだよ」
と。
そう、弱っていたんだ……
最後のグータッチ、嬉しかったよ




