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リンゴの唄

  今晩は、DAVID BOWIEの★を聞きながら


 私は、彼が死んだらば、この世が無くなる、少なくとも、私の生きているこの世は、消滅すると信じていました。


 だって、彼によって、生かしてもらえたようなもの……


 彼が亡くなったという報道は、職場で薬を配っている時、テレビのクリップで、知りました。


 私は、足元が消えると、思いました。が、そうはならずに、淡々と薬を配り続けることが、出来ました。

「大人になったから?」

いえ、彼は私を「生かしてくれた」のです。「生きて!あなたを必要としてくれる人も、きっと、どこかにいるよ」と、教えてくれたから……


 今、私は、生きている!あの頃、想像もつかない領域に、目の前の方々を、支える立場に立っている。それって、凄くないですか?自分自身も、維持出来ない、そんな人間が……誰かの役に立っている!


 それもこれも、透析のクリニックで、私に「看護師になって」と言ってくださった患者さん、実習で身をもって教えてくださったみなさんのおかげ。みんなみんな、もう、亡くなりました。


 そう、亡くなりました。そして、私の心に、「記憶」として、残っています。


 先日、病院で亡くなってしまった方、入所からあまりにも早かったので、みんな後悔しています。それは、ここまで生きていらした、その人生を聞けなかったこと。興味本位ではないのですが、その方の「生きてきた軌跡」を、教えて欲しかった。そりゃ、どんなに頑張っても、家族には、なれません。でも、90まで、生きてきたことを、共有したかった。どんな最期を望んでいたのか?最後の望みは?なんか、なんか、私達に出来ることがあったのではと……残念でなりません。



 私のオンコール対応の時に亡くなった方。私を選んでくれたのだと、そんな気持ちがします。兄弟間に問題があり、亡くなったことを伝える夜中の電話、大変でした。


 ショートステイで利用されている時から、問題の多い方でした。仙骨部に大きな褥瘡があり、毎日処置をして、少し良くなって家に帰っても、又入所された時には、悪化している。体温コントロールが上手くいかないようで、しょっちゅう発熱……よくわからないけれど、手が動くのに、まったく自分で食べられず、食介対応……甲状腺ホルモンの病らしいのですが、亢進症なのか、低下症なのか?そもそも、今飲んでいる薬を、初めに処方した病院が不明……DOのDOで、訳わからない……


 何もわからない状態で、突然介護者が亡くなり、引き取る?ことになりました。


 その時には、親せきがいることを、知りませんでした。


 毎日の褥瘡処置、臭いも酷くて……でも、がんばった甲斐もあり~の、食事も取れていたこともあり、どんどん良くなりました。

 処置に行った時、やっていたこと、それは、一緒に歌うこと。「リンゴの唄」です。この歌は、ケアマネさんが、彼女に教えた?思い出させた?唄です。

「この年代の方ならば、きっと、これなら知っているだろう」

と、何度も何度も歌ったらば、一緒に歌ってくれるようになったそうです。

 私達も、認知機能の維持、嚥下機能の維持の為、まあ、ただ、一緒に歌えるのが楽しかったので、やっていたのですが……


 入所してしばらくして、新たな問題が出てきました。


 結局、最後まで、不明のままですが、

「手がパンパンに腫れ、指が開いて反り返り、震え、手首が、強く屈曲……最後の方には、身体ごとガタガタと……」

 あまりにも、痛がるので、入院して色々検査をしたのですが、理由が解らず、痛み止めの処方だけで、退院されてきました。入院する時、彼女が、長女さんで、下に妹と弟がいることがわかりました。


 腫れや震えは、良くなったり悪くなったりを繰り返し、その内に、表情が強張ったままになってしまいました。いつも、怖い顔……とうとう、歌ってくれなくなりました。

「赤いリンゴに~」

と、歌いだしても、口をギュッと結んだまま……

「歌いたくないの?」

と、聞くと、小さくうなづかれます。そう、身体を震わせながら、微かに……


 歌ってくれなくなってから、飲み込むことが出来なくなるまで、僅かでした。


 食べれなくなってきたことを、ご家族に連絡すると、面会に来て下さいました。


 前日までは、食べた、いえ、口に入れられてしまったものにより、ゼコゼコしていたのが、全てを中止して呼吸は落ち着き、何故か震えも穏やかに。面会に来た親戚に対して、目も合わせることが出来ました。

 穏やかな時が流れていました。

 

 「食べれないのならば、点滴とか、出来ないのですか?このままでは、辛くないのですか?」


 丁度、主治医が来る日だったので、話をしてもらうことにしました。


「点滴をしても、スポーツドリンクの薄いやつを入れるだけ。この状態を2~3日伸ばすだけですよ。それを、望むのですか?それに、今、辛そうに見えますか?」

と、主治医。 


 その後、私からも、こうして食べられなくなって、亡くなっていく方の「今」を、話しました。

 

 もう、身体が、栄養を欲していないので、お腹も減らないし、喉も乾きません。それどころか、栄養の入らない状態で、脳内にモルヒネ物質が分泌されて、いい気持になると言われています。神様が、人間を造ったとしたらば、きっと、頑張って生きてきた方のご褒美として、生き切った人には、苦しみの無い「死」を、用意してくれていたのだと、思います。


 「苦しくないのですね?」


そう、姪御さんが言われた時、彼女が、頷いてくれたように見えました。


 その夜、静かに亡くなりました。


 全ての痛みから解放されて


 「リンゴの唄」

リンゴは何にも言わないけれど、

リンゴの気持ちは、よくわかる~


 そう、ほとんど何にも話してくれない方でした。

 でも、あなたの気持ち……

 

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