表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/299

終わりのない廊下

  私が働いていた十年程前、精神科の病院では、問題となっている症状が、認知症によるものであると診断されると、退院しなくてはなりませんでした。認知症と、精神疾患は、別物。

 精神科の病院では、若いうちから精神疾患で入院して、そのまま年老いてきた方が、ほとんどでした。急性期は、薬でコントロール出来て、脱したけれど、帰る家が無くなった。両親が亡くなったとか、引き取ってもらえない。いわゆる、社会的入院の方々です。ですから、精神疾患に認知症がかぶってきた方は、いらしたかもしれません。が、新しく入院してきた方が、認知症による問題行動であり、精神疾患ではないと、診断されれば、他の施設を勧められるか、家に帰ってもらうことになりました。


 どこが違うのか?

 本人にとっても、家族にとっても、大変なのは同じ。生活に、支障が出てきます。認知症は、ただの物忘れだけでは、ありません。周辺症状という、、問題行動が出て来ると、精神疾患の急性期のような、とても同居出来ない状態になります。

 一つ言えるとしたら、認知症は、進行性の病。今の所、完治は出来ないし、良くなっていくことは望めない、ということでしょうか。

 でもあの当時、精神疾患の方々も、外で生活できるようになって、退院というのは、極めて珍しい……


 施設にも、精神疾患の診断を受けている方が、いらっしゃいます。「キ~」という奇声や、座った眼差しに、その片鱗がありますが、基本、同じです。飲んでいる薬が違うぐらいでしょうか。同じ高齢者、淡々と介護されています。



 精神科の病院も様々で、実習先の病院には、「認知症病棟」というものがありました。中で、どういう生活を送られているかは、チラッと行っただけなので、わかりませんでしたが、印象に残っている、風景は……


 広いホールに、20程の車椅子を円形に並べてあります。そこには、言葉のようなうめき声を発している人、今にも落ちそうなほどに前かがみになって動かない人、首を後ろにのけぞって眠っている人、等々、座っているというか、くくりつけられていました。そう、お腹と足の間にT字の抑制帯、車椅子の後ろで縛っています。立ち上がらないように、前に転がり落ちないように……


「ほら、見てください。可愛い布で作られているでしょう、刺繍も。これ全て、スタッフの手作りなんですよ」

と、指導者が、誇らしげに説明してくれました。


 狭い廊下を、同じ方向に歩いている人たちがいました。表情はなく、すり足で……

「ここの造りは、廊下がぐるっと繋がっているので、突き当たるという、ストレスがないんですよ」



 老人施設では、全ての拘束が、NGです。車椅子乗車時の胴抑なんて、もってのほかなので、ホールにいるみんなを見守る「係」が、います。でも、広いホール、隅々まで目が届くはずもなく、ガタンという音で、落ちたことに気づくことも、ままあります。

 不穏な動き……予測不可能です。


 赤ちゃんが落ちないようにサークルに入れるのと、高齢者を拘束することは、何が違うのでしょうか?どちらも、危険を回避する為なのですが……

 危険だという学習がまだ出来ていない赤ちゃん、危険だという認識が失われてしまった高齢者。

 拘束、縛る、自由を奪う……尊厳……嫌がっている高齢者を縛り付けて、自由を奪い、管理しやすいように、尊厳どころか、人権まで奪う行為……一つ許してしまえば、きっと、そうなってしまうのでしょうか?



 たとえば、歩けなくなってしまったことを忘れて、立ち上がり、転ぶ。痛い思いをするのは、本人です。が、その痛みと、立ち上がって転んだことが、記憶の中で結びつかない。なので、また同じ事をしてしまう。

 こんな場合、まず、リスクを減らすために、見守り係の傍にいてもらうようにします。立ち上がりそうな素振りでも見せようものなら、

「○○さん、座って!」

「○○さん、転ぶでしょ!」

「○○さん、何度言ったらばわかるの!!」

と、当然なります。

 本人は、なぜ怒られているのか、わかりません。この場合、尊厳って、どうなっているのでしょうか?

 そうそう、言葉による拘束というものも、あるようで……


 椅子の座面にセンサーが付いていて、圧が弱くなると、ランプが点灯するとかして、教えてくれる。で、その方の所に、そっと近づき、座り直しをしたり、気がまぎれる様な言葉かけをして、危険回避!なんて、出来ないかな~



 可愛い布で作った抑制帯……着けられている本人は、気付いているのかな~選べたりするのかな~

「私、今日は、ピンクがいいわ」

なんて。


 抱っこ紐は、もちろん赤ちゃんが選んでいる訳ではありません。お母さんが、赤ちゃんにとって、快適であるように、そして、一緒にいることが、楽しくなるように、可愛く見えるようにと、選んだものでしょう。

 で、抑制帯は、お年寄りと一緒に居るのが、楽しくなるように、お年寄りが可愛く見えるようにと、デコったのかな?


 まあ、可愛いと思った方が、介護のイライラ、軽減するかもね……



 介護施設で、拘束はいけないと決まってから、もうかなり経ちます。ケース バイ ケースにしてしまっては、歯止めが効かなくなる。とは言え、これからの情勢は、ますます厳しくなるでしょう。介護の人員不足、認知症の増加、転んで骨でも折れば、賠償問題です。それ以前に、痛い思いをさせてしまうのです!

 どうしたら、いいのでしょう?


「抑制帯」なんて名称をやめて、「セーフティなんとか」じゃ、ダメですよね……


 きっと、終わりのない廊下を歩いているようなものだと……


どうしたら、いいのでしょうか?広く、ご意見お寄せください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ