表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/299

張り薬は、かぶれるでしょ

  エレベーター前で、一人の入居者さんと、立ち話をしていました。すると、その方が、去っていくと同時に、車椅子で私に寄って来て、

「あの婆さんは、ボケているから、話をしないほうがいいよ」

と、忠告してくださる方が、いました。……まあ、同じ事を何度も話しているのを聞いていて、

「かまっても、しょうがない」

と、その方なりに判断して、私に教えてくれたのでしょう。でもね、そんなこと言ってたら、話してよい人など、この施設にほぼ居りませんから……


 歳も歳です。多かれ少なかれ、若い時よりか、皆さんボケていらっしゃいます。それは、仕方のないことです。言ったことや内容を忘れてしまって、何度も話してしまうとか、こちらの言っていることをいまいち理解出来ないで、何度も聞き返すとか。耳が遠くなっていることや、時々睡魔に襲われるとか、これ全て、老化現象なのです。老化していること、終わりが近いことを受け入れて生活していけば、ボケは何ら怖くない!と、思うのですが……

 そりゃあ、ボケを超越してしまっている方々も、いらっしゃいます。「認知症」と、医師から宣告を受けてしまった方は、背中に認知症治療薬と称するパッチを

「良く効くのよ、この肩こりのシール」

と言って、貼ってもらっています。又は、アリセプト錠やらメマリー錠など、お高い薬を飲んでいます。認知症は、進行を食い止めなくてはいけないものだから、その為のお薬なのでしょうか?でも、薬を使っていれば、それだけで何とかなるというものではない!そう、思うのですが……


 今は、脳トレとして、色々な取り組みが、奨励されています。予防だけではなく、回復にも効果があると。そもそも、一般的な生活動作や、おしゃべりも、認知機能の維持に有効だと思うのです。

 しかし、終の棲家の施設に入所させられた途端、日がな一日、自室で寝ているか、テレビを見ているだけの生活が死ぬまで続きます。え~と、介護度が良い方に変わりでもしたらば、退所なんてことに、なりかねないのですから。

 そんな、刺激のない生活、役目の無い生活では、現状維持は、とても無理です。シナプスが大挙して、音を立てて自滅していくのが、聞こえるような気がします。


 新しい記憶が、刻まれることなく、失われてしまう。それは、どんなにか怖いことでしょうか?自分はここに居るのだ、と、認識したとして、その前に何をしていたのか?ご飯は食べたのか?トイレに行ったのか?これから何をするのか?何もわからない。その恐怖は、想像を絶するものでしょう。時空という地面に、足が付いていない。下は、真っ暗な底なし沼。そんな不安定な場所で、自分を保っていなくてはならない……心細いし、何度も確認したくなるのも、もっともです。

 が、毎日、何十回と、同じことを言われては、健常者は、耐えられません。。こっちは、時間内にやらなくてはならないことだってあるし、忙しいから、かまっていられない!でも、そんなことは、お構いなし。相手のことに配慮できなくなってしまうのも、認知機能の低下のせいでしょうか……もっとも、なあんにもわからなくなってしまえば、それはそれで、対応できるのですが、中途半端は、お互いに大変です。


「目が、ぺたぺたしてくるのよ。なんでかしらね?目薬があるといいと思うの。買ってもらえないのかしら?」


「乾燥しているからだと、思いますよ。目薬は、先生に出してもらっているから、一日二回、私たちがやっていますよ、安心してくださいね」


「え、目薬なんて、やってもらってない……あ、今日はこれからでしたっけ?」

さっき、やったばかりですが、そんな事を言っても、混乱して、いらいらさせるだけなので


「夕飯の前に、やりますよ。心配しないで、待っていてくださいね」

これが、ぐるっと廊下を一周歩いて、また医務室の前に来ると、同じ会話が始まります。



「ほら、腰に貼るスーとするやつ、又貼ってくれないかしら、腰が痛くて仕方がないのよ」


「痛み止めの塗り薬は、寝る前に、毎日塗ってもらえるようになっていますよ」


「え、塗ってもらったことなんかないわ!誰かが部屋へ来て、塗ってくれたのならば、顔を覚えているはずでしょ。知らないわ、来てません。それに、私は、貼るのがいいの!」

湿布は、貼ってもらったことを忘れて、すぐに自分で剥がしてしまい、剥がしたことも忘れて、、又貼って欲しいと要求するので、塗り薬にしました。


「ほら、張り薬は、かぶれて酷いことになって、大変な思いをしたでしょ。だから、先生に相談して、塗り薬をだしてもらったじゃないですか。今晩の夜勤の方に、ちゃんとお願いしておくから、安心してね」


「よろしくね」


 本人にとっては、その記憶が無いのですから、不安になるのは、わかります。そして、こちらの対応が、冷たく感じて、イライラしてしまうのも、わかるような気がします。この頃は、

「忙しいんでしょ!」

と、睨むように言っては、通り過ぎることも、あります……


 これが、家という密室の中で、一対一の会話だったらば、どんなにか疲れることでしょう。仕事だから何とかやっていますが、エンドレスは、本当に、辛いと思います。


「そう、大変なんです。何度も何度も、玄関の鍵が閉まっているかを確認して、とうとう、鍵、壊してくれました。止めようとすれば、怒り出すし……もう、どうなっているのか、わかりません」


 ほんと、どうなっているのでしょうか?短期記憶の無い生活。でも、出された食事は、食べられるし、排泄したことは、忘れてしまいますが、とりあえずトイレには、行けています。

 認知症の方との共存。決して、こちら側が、怒ってしまってはいけません。怒りながら言った話の内容は理解出来ないし、頭に入っていかないので、同じ事を繰り返します。けれど、怒られたという嫌な感情は、なぜか残ってしまうようです。関係性が悪くなるだけで、何の解決にもなりません。

 では、どうしたらば、お互い、楽に暮らしていけるか?


 記憶がないという不安を、すべて取り除いて差し上げることは、とてもできません。「覚えていなくても、何とかなる、大丈夫」と、悟りを開いてもらうしかありません。


 介護する側も、イライラしなくて済むように、認知症だから仕方がないと、我慢するばかりではなく、「認知症のおかげで、上手くいく」も、ありだと思うのですが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ