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ヤバイよ、ヤバイよ、

  ここ最近で、一番泣けた方の「死」を、書こうと思います。


 亡くなってすぐは、とても書けませんでした。すぐは、自分の悲しみの記述だけになってしまいそうで、そう、悲し過ぎました。


 泣けた……それは、その方が、とても辛い死に方をしたという訳ではなく、又、感動的な死に様だったという訳ではありません。ただただ、寂しくなってしまったのです。


 大好きな方だった……というのも、何だか違うように思います。とにかく、すっごく、寂しくなってしまいました。


 施設の仕事を終えて、医務室の鍵を閉め、その鍵を置きに行くと、テレビを見ている彼が、

「先生、もう帰っちゃうの?気を付けて」

と、言ってくれます。

「一緒に帰る?」

と、軽口をたたける……そんな方でした。


 朝来ると、

「おはよう」

と、一番に声を掛けてくれます。

「ヨシヲさん、お尻掻いていないでしょうね?」

と、言うと、

「先生、やっていません、ヤバイよ、ヤバイよ」

と、言うので、

「指、見せて!」

と、確認すると、爪の中に、血痕が……

「こら、掻いたでしょう!」

と、言うと、

「先生、ごめん、ごめん」

と。

「もう、午後からの処置で、タバスコだな~」

と、おどすと、

「ヤバイよ、ヤバイよ」

と……彼の口癖でした。


 入所された時は、怖い人だと思っていました。なにしろ、全身に模様が入っています。そのため、お決まりのC型肝炎。若い頃に事故に遭い、そこまでのハクは、付いていませんでしたが、一般人ではありませんでした。

 初めは、恐る恐る、怒らせないようにと、様子を見ていたのですが、とても痛がりで、小心者、やたらと、媚びて来る、要するに、チンピラだとわかり……

 とにかく、ヨイショしてきます。私達看護師に対しては、「先生」だし、何かにつけて、「美人だね~いい女!」なんて、さらっと言います。

 色々と、こだわりもありましたし、要求も多く、待てない人でしたが、必ず、感謝の言葉を添えてくれます。そこが、憎めないし、許せてしまうポイントでした。


 横になっている時、ほとんど仰向けの為、お尻に圧がかかるし、紙おむつの蒸れもあり、仙骨部、肛門の後ろの骨の出っ張っている所が、ただれてしまいました。軟膏を塗って良くなるのですが、治りたてが痒いらしく、孫の手で掻いてしまいます。お尻にくっきりと、孫の手の幅で、掻き傷が……で、孫の手は取り上げましたが、今度は、不自由なはずの手で、掻いてしまいます。せっかく、毎日清拭して、軟膏を塗っているのに~と。まあ、痒いものは、仕方がありません。でも、正直言って、本当に、タバスコでも粗塩でも、すり込んでやりたい!!……けれど、謝られてしまうと、何とかして治してあげたいと思ってしまう……そんな、チャーミングな方でした。


 お風呂介助の時は、昔の武勇伝を、聞かれるままに話していました。自慢話をする訳ではなく、興味を持たれて、聞きだされている、そんな感じでした。

「ヨシヲ、それって、すごいね!」

なんて、言われると、嬉しそうでしたが、

「でも、ここがいいや、もう、俺はダメだ」

なあんて、弱気な事を……で、若い女の子に、頭をなでなで?ただ、タオルで拭いてもらっているだけなのに、

「ああ、逝っちゃうよ~もう、逝っちゃった」

なんて……大爆笑です。


 そんなヨシヲさんが、腹痛を訴えられました。便秘によるものだと、下剤を飲んだり、浣腸したりしましたが、良くなりません。ひたすら、

「先生、病院に行かせて」

と、訴えられます。痛いというお腹の位置も、ころころ変わるし、ご飯も食べているし、で、気のせいだと言ったのですが……あまりにも、しつこいので、取りあえず受診させようかということになり……実は、カルテを見返したらば、腹部動脈瘤疑い……こりゃ、ヤバイ……と。


「ヨシヲ、病院行って、もしも入院なんてことになったらば、ここを出て行かなくてはいけなくなるよ!いいの?もう、会えなくなるよ」

と、みんなが言いました。それなのに、

「俺も寂しいよ、でも、ごめん、ごめん、病院連れてって」

と……


 明日、受診という日の前日、帰りがけに、声を掛けました。

「じゃあね、明日私は、休みだから」

と、言うと、

「先生、さよなら、さよなら、ありがとね」

と、言うではありませんか。まあ、明日受診して、追い返されるのがおちだと思っていましたが、なんか神妙に話してくるので、思わず、手を握ってしまいました。

「ありがと、ありがとね」

それが、最後でした。


 入院してからも、

「今頃、ヨシヲは、どうしているかね?若い看護師に媚びて、極楽かな~帰りたくなくて、仮病使ってるんじゃない?」

なんて、毎日のように、話題に上がっていました。そう、

「面倒くさい奴だから、そろそろ、送り返されてくるよね」

と、話している矢先のことです。


 早番で、鍵を取りに行くと、いつも見ない介護員室のテーブルに、目が行ってしまいました。そこにあった、走り書き

「○○さんの家族より、○○時に、亡くなったという連絡がありました」

 意味を考えるよりも前に、涙が。涙が止まらない……こんなにも、涙が流れるものだと、知りました。


 後で、亡くなった様子を、聞きました。

 夕食を済ませて、ベッドで、テレビを見ていたそうです。そして、そろそろ、消灯ということで、、テレビを消しに行ったらば、もう、亡くなっていた。


 死因は、わかりません。けれど、思うのです。

「なんだかわからないけれど、ヨシヲは、自分の死期を感じていた。きっと、ここに居たかったけれど、ここで、死ぬ訳にはいかない、迷惑掛けたくないとでも、思ったのかな。ここが好きだったから、みんなが好きだから、寂しいけれど、去っていったのだ。最後は、男気を見せたかったのかな」

と……


 こう考えるのは、思い上がりかもしれません。身勝手な解釈かもしれません。きっと、そうなのでしょう。でも、そう考えでもしなければ、この寂しさは、耐えられません。


 ヨシヲ、寂しいよ。今でも、みんなの話に出て来るよ。まあ、死んでしまってから惜しまれても、ね、

「生きている内に、もっと、いい思いをさせてくれれば、よかったのに!」

って、そうだよね、いくら亡くなってから悲しんでも、手遅れだよね……それでも、言わせて


「ヨシヲ、あなたに会えなくなって、寂しいよ!」


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