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お母さんに会えましたか?

 243話の方、亡くなりました。


 一歳になる前に、脳性麻痺と診断され、そこから70数年、最期は特養でした。


 思春期ごろから施設入所。両親が抱えきれないほどに大きくなり、介護が難しくなったためなのでしょうか。お父さんがだいぶ甘やかして育てたようで、好きな物しか食べない子?になっていたそうです。

 20代半ばから、特養に来る前の施設に入所。ご家族はずっとそこで暮らせると思っていたそうです。しかし、高齢者となり、施設から老人施設への転居を言い渡されて…どうやら費用は特養より安かったみたいで、なかな家族は同意しなかったようです。本人もずっとそこに居たかったのだと思います。まだ話が出来る頃、「ドライブ」と称して、本人が施設の職員と、うちへ見学に来ました。

 その時、お土産として、持ってきてくれたものが、事務所の受付に今も飾ってあります。ステンシルで作った布切れ…私がコラージュして、額に飾り…入所した時に歓迎している風?に見えるようにと。

 そこから更に一年…入所が決まりました。

 お母さんが老健入所していると聞き、そちらもオンライン面接しました。お母さんは、娘の写真を大切にしているようで「会いたい」と話されていました。

 そこで、二人部屋を用意して、一緒に入所してもらおうとしたところ、ご兄弟から

「そんなことされたらば、○○の面倒を見ようとして、母さんが転んじゃうだろう!」

と、言われ、部屋は別にして、同じ階にと伝えると

「それでも、食事などで顔を見たらば、寄って行って世話をする!」

と言われ、階を変えて、時々面会するようにしたのですが、今度は

「今、家のことで色々と忙しいから、入所の手続きが出来ない」

と言われてしまいました。

ん~ん、費用が増えるのが、ただ嫌なだけ?って思っちゃいました。


 なんだかんだありましたが、とりあえず本人だけ入所することに


 施設からは

「食事のお盆はこの様に高さをあげて、スプーンはこれで。コーラが好きなので、飲み物はストロー付きコップにコーラ。お茶漬け、お菓子、果物…」等々書いてありました。

 でも、スプーンを持ってくれない。食事介助すると

「嫌なことすんな~痛~い!」と大声を出されます。

え~と

「知的障害のため理解力に問題あり、易怒性強い」とも、書かれていて…歯は一本も無く、もちろん入れ歯無し。それで、「ご飯と副食一口大」って…


 面接をしたのは、あの育休を二年キッチリ取って、戻ってきたらば有休40日とリフレッシュ休暇3日を取ってお辞めになった(嫌味…)看護主任さんです。

「可愛い子よ~」

って言ってましたが、どこが?????本人入所時には辞めていたので、突っ込めなくって残念。


 とにかく食べてくれないので、前居た施設に栄養士さんと共に連絡しました。

「そうなんですか~食べてくれないんですね、ここを離れるのが嫌だったようで、きっと彼女なりに反抗しているのでしょうか…うちでは、スパゲッティミートソースとか、カレーなんか、好きで食べていました。確かに、スプーンを持つのも難しくなりつつありましたね。身体も歳ともに曲がって、硬くなってきましたし」


 スプーンですくうという行為が難しそうなので、スプーンの上にご飯を乗せてあげました。数口は食べてくれましたが

「もういい!要らない!やだ~~」と泣き出します(最期まで、涙は出ませんでしたけど…)


 初めの頃は、その声に反応して、多くの入所者さん達が

「なんで泣いているのかね?どこか痛いのかな~かわいそうだね」

などと心配していましたが、その内

「うるさ~い”!」

そりゃあそうですよね、食事中にワ~ワ~騒がられちゃあ、いい気持ちしません。


 同じ部屋の方は、耳が遠かったり、意思疎通不可だったので、特にクレームはなかったのですが、隣の部屋の、そう、壁一つ隔てた所の「お姉ちゃん」が

「夜中も泣いているでしょ、なんか、眠れないのよね」

と、教えてくれたので、四人部屋の対角線上にベッド移動しました。


 入所して初めてのケース会議で

「家族に面会時食事介助をしてもらおう!先ずコロナ抗原検査をしてもらえば、問題ないんじゃないかしら」

と言うことになり、12月の末に、来てもらいました。

「私の言うことなら、ちゃんと聞きます!」

という、力強い助っ人(お嫁さん)

え??って程に持参された納豆巻きやら唐揚げを食べさせ、施設の食後のデザートまで食べてくれました。

「これで、調子づくといいね」

だったのですが、翌日からいつも通り…介護員さんとバトル、口をギュッと結んでしまいます。


 食事に関しては、家族と相談しながら、出来る限りのことはしました。納豆が好きだということで、冷凍納豆を買ってきて…一週間ほどは食べてくれるも、飽きるのかしら?あれこれ品を変えて提供。施設のおかずはぜんぜん受け付けてくれないので、全部廃棄。「これ、ムダでしょ」ということで、一年ほどしてご飯だけの提供にしました。おかずは、鮭フレークやお茶漬け、唐揚げ等々、介護員さんがオーダーを聞いて用意、それでも

「要らない!やだ~」

って時もあり…

家族と相談して、カップ麵を購入。

「今日はどれにする?」

とお伺いをしてから、お湯を。せっかく出来上がっても、食べないこともあり

「言ったよね!これがいいって。せっかく作ったんだから、食べて!」

と、口に押し込み…ペッて吐出し…ほんと、バトルでした。

 特に新人のおとなしい介護員さんに対しての暴言が酷く

「こっちを見るな!向こうへ行け!」等々

見ていて思わず○ーちゃんに対して

「そんな言い方しちゃあダメでしょ。やってもらっているんだから、ありがとうだと思うよ」

と言うと

「いいんです、食べてくれれば、はいはい、○ーちゃんを見ませんよ、だから食べましょうね」


 栄養士さんから

「エンシュアを処方してもらえないかしら?」

と、打診され…ん~ん、飲み込めないわけでもないし~ただのわがままちゃんに?

(そう、お歳なんですが、本人が「○ーちゃんと呼んで!」と言うので、みんな可愛くもないのに?○ーちゃんと呼んでいました)

好きそうなコーヒー味を処方してもらいました。でもね~私も味見したことあるけど、あれ、まずいよね。まあ、好きで飲んでいるショートステイの方々もおりますけれど…

「ほら、これは、薬なんだから、これを飲んだらば寝かしてあげる」


 入所したての頃は、寝かされるのが嫌で、ホールに行ってかまってもらいたいと泣いていました。で、ステンシルもどきをやったり、マニキュアをしたり…とにかくかまってもらっていれば泣きません。でもね~ここは、そう言う施設ではないんです。介護はしても、レクリエーションまでは手が回りません。前の施設でやってもらっていたこと、出来ないんです。

 なので~ずっと居室で泣いていました。泣いても誰も来ないと、大きな声で怒鳴っていました。


 それが、エンシュア処方された頃から

「眠い、寝かせて」

と、食事が始まると言うようになりました。そう言えば、食べなくて済む?って思っているのか?

なので

「これ飲まないと、寝かせてあげない」

が、介護員さん達の定番に…


 何度も発熱しました。


 食事からの水分が全くないので、飲んでいるコーラのみ。脱水だと思います。カロナール一回飲めば解熱するのですが、その薬も飲んでくれないこともあり、誰が言ったのか、ビービー泣いているので部屋へ行くと

「病院に行くって言われた」

と訴えます。

「行きたくないの?」

「病院は嫌!でも、病院へ行けって言われた~~~~」

「あのね、○ーちゃんはどっこも悪くないから、病院なんか行けないよ。行っても帰ってくださいって言われると思う」

これを、何度繰り返したことか…


 二月の末、同室者がコロナになり、○ーちゃんもうつってしまいました。


 泣き声は変わらないけれど、怒鳴り声が少しだけ小さくなったような、相変わらず食事は数口、水分もコーラ一本500㏄(入所時にはダイエットコーラでしたが、え?ってことで、普通のコーラに変更)


 週に一回、家族から電話があり、その時「あれを持ってきて」などと話していたのですが(243話)

その頃はもう、ほぼしゃべらず、時々「うん」というだけでした。


 五月に入り、又食介に来てもらいました。その時私は入浴介助をしていて立ち会えなかったのですが、そうめんをほんの少し食べただけだったとか。

 家族が帰る時

「栄養ドリンクを処方してもらったり、カップ麵を購入したり、こないだはマックのフライドポテトが好きだからと買ってきたり、食事の時間をずらして、介護員一人食事介助にゆっくりと付けたり…色々考えてやってきました。でも、本人が拒めば、これ以上どうしようもありません」

と、伝えました。入所した時は「病院での看取りを希望」と書いてあったので…

「感謝しております。ほんとによくやっていただいていると…これ以上は望みません。ご迷惑かけて申し訳ありません。私達に出来ることがあれば…どうぞよろしくお願いいたします」

う~ん…


 エンシュアも飲んでくれないと

「要らないのね、飲まないならもういいわ」

で、切り上げられることが多くなりました。確かに、無理やり飲ませている行為は、「虐待?」って感じに思えてきます。「本人の意思に任せる」と言っても、どこまでが「本人の意思なのか?」

 最後まで聞けなかった言葉があります。

「このまま食べないと死んじゃうんだけど、○ーちゃんはそれでいいの?」

「死ぬ」の意味がちゃんと分かるのか?そこ、疑問ですが

「お母さんに会いたい?」

と聞いたらば

「会いたい」って言うでしょう。

お母さん…○ーちゃんがここに来て1か月程して、老健で亡くなりました。あのステンシルのクリスマスカードは、お母さんに渡しことが出来ず、仏前に飾ってくれたそうです。

 今年の七夕飾り、短冊にだれが書いたのか○ーちゃんの名前で

「お母さんに会えますように」

どういう意味なのか、分かって書いたのかな?


 コーラとカルピスウォーター、ほぼこれだけの食生活で一か月、今月に入り粘液便になってきました。ずっと出っ放しなので、お尻がただれてきて、痛々しい…お風呂の無い日は看護師が陰洗して、軟膏塗布。


「もう直ぐ電話があるし、来週には家族が食介に来てくれる予定が入っているけれど~そろそろやばくない?」

と、医務室でも心配していました。で、電話の時に看護師が代わって状況を伝えようとしたのですが、そんな時に限って、家族の都合が悪くなり、電話中止…


 私が早番で施設に行くと、いつもよりも弱々しく泣いています。泣いているというより、声出しをしているという感じでした。

「どうしたの?」

と聞いても、返事はありません。

上の階で服薬介助をしていると、○ーちゃんの階から連絡が入りました。

「○ーちゃんなんですけれど、コーラを飲んだらば、喉の所でごろごろしてしまい、苦しそうです」

降りてきた時には、ゴロゴロは治まっていましたが、口の中を見ると、汚い!

 ガーゼで口腔ケアをすると、出てくる出てくる、茶色のカスのようなものがいっぱいこびりついていました。青緑の痰も出てきます。一通り綺麗にしてからサチュレーションを測ると96%、コーラを吸うことも出来ます。

「少し頭をギャッチして寝かせてあげてくださいね」

一安心していると、今度はオムツ交換をしている介護員さんからの連絡

「お尻酷いことになっていますけど~どうしますか?」

「あ、今、軟膏処置をしているので、今行きます」

と、陰線ボトルを持って駆けつけると、どす黒い粘液便…血の匂いです。食べれなくなり、亡くなっていかれた方々の最期の便。綺麗に洗い流し、軟膏を塗り、家族に連絡をすることにしました。もう、無理です。


 相談員さんから連絡してもらったところ

「今日は嫁の都合がつかないので、予定通りの食事介助の日に行きます」

もう一人、遠くに住んでいる兄弟(毎週電話が来る方)にも、連絡してもらいました。今度はかなり危険な状態だとちゃんと伝えてねと、お願いして…夕方来てくれることになりました。


 昼ご飯は、ハーゲンダッツを介助してみたところ、なんとか三口、後は、カルピスウォーター少々。


 今日は来れないと言っていたご家族が、二時前に来てくれました。

「仕事だったのですが、今日は休みました」

居室からベッドごと静養室に運び、面会。

「あらら、こんなに瘦せちゃって~食べなきゃダメでしょ」

これが第一声…

 話は聞こえているみたいですが、返事は出来ません。あのうめくような声出しを続けているだけ。時々白目をむいてしまう…

 少し家族だけにしてから、ご家族を呼んで今の状況を話しました。

「もう長く食事らしい食事を取っていらっしゃらないので、タンパク質の不足から、手足が浮腫んでしまっています。免疫力も低下して、お尻がただれてきました。血便が出ているのは、腸も同じようにただれて血を流しているからだと思います。幸いサチュレーションの低下はないので、呼吸は苦しくないと思われますが、回復は難しい…」

「そうですか、食べてくれないんですものね」


 エンシュアよりは飲んでくれていた、ビタミン強化の飲み物をストロー付きコップに入れ、ストローを口に入れると、じっと家族の顔を見ながら、吸ってくれました。

ダメだろうな~と思っていたのに、ちょっとびっくりしました。

「あ、がんばれがんばれ、えらいぞえらいぞ、その調子だ!」

ご家族が応援する中、三分の二ぐらいは飲んでくれました。たぶん、力を使い果たして「ありがとう」を伝えたかな?ここに来てから「ありがとう」なんて、二回だけ(赤い靴とハートのポシェットを作って渡した時)しか、聞いていませんけど…


 その後は、話しかけてもらって、静かな時間が過ぎました。


 「4時に来るんじゃあ、私達はもう、帰ります。近いので、いつでも呼んでくださいね」

 もし、夜間帯亡くなった時は、翌朝の連絡ということで、了承いただきました。


 4時ちょっと前、もう一人の兄弟がやってきました。


 「具合が悪いと聞いて、来ました。途中でスイカを買ってきたので食べさせて良いですか?」

「もう、固形物は飲み込めないと思います。今スプーンをお持ちしますので、潰して果汁をあげてください」

「あら、そうなんですか?○ーちゃん、スイカ好きだよね~」

すでに、ボーとして来ていて、あまり反応はありませんでした。

 果汁をスプーンで口の前に持っていくと、息を吹いています。認識が出来ていないのでちょっと怖かったのですが、舌の上にちょっと垂らしてみました。

「こんな感じでお願いします、むせてしまうので、数滴で」

とお願いして、私の早番は終わりました。

 静養室からは

「ずっと居てあげるよ、ここにいるよ」

という声が聞こえていました。


 亡くなったのは、私が施設を出てすぐ、もしかしたらば、着替え中?って言う時間だったようです。ラインで知らせてくれれば?って思いもしましたが…まあ…


 家に帰る電車の中でラインが送られてきました。

「兄弟に手を握られたまま亡くなりました」と…


「赤い靴を履かせてハートのポシェットを持たせてあげてね。袋に入っている服は、「お母さんが着ていた服だから、喜ぶと思う」と、お嫁さんが言っていたものなので、それでお願いします」

と、打ちました。


 マニュキュアも塗り直してくれたそうです。家族も「会えてよかった」と…



 お母さんに会えた?


 ここで、ただ食事介助をされてオムツ交換されて、移乗したり入浴したり、身体中痛い思いだけ…そこから解放されて、大好きなお母さんに会えたんだもんね。そう思いながらも


 あんなにもストレスだった彼女の泣き声、聞こえてこない。


 これ、寂しいものがあります。


 

 

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