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十年以上ショートステイを時々使いながらも、独居でした

 思い出がいっぱいあります。そして、大好きだったお婆ちゃんの一人です。


 初めてお会いした時は、まだ杖で歩いていらっしゃったかな~時々は「足が痛い」と、車椅子で移動することもあったけれど、最後までシルバーカーで歩いていらっしゃいました。

 お食事もお箸で食べれるし、薬も小皿に入れておけば自分で飲んでくれるし、あ、そうそう、夕食後に

「これに入れてくれないかしら?お世話掛けます」

と、200㏄ほど入る水入れを渡されます。そこに、薬を飲むように上がってきている「お白湯」を入れてあげると、嬉しそうにペコリ…夜に喉が渇いた時用だそうです。「人を呼ぶのは申し訳ないから」

 そう、「人に迷惑を掛けたくない」そして、「何か人の役に立ちたい」そんな気持ちの強い方でした。


 「役に立ちたい」は、入所している間、一生懸命製作に取り組んでいることがありました。それは、きらきらするリリアン?の糸のようなものを、四角い穴の開いた柔らかい板?のようなものに刺していって作る入れ物です。初めは、五円玉にその糸を使って作る亀のキーホルダーだったのですが、もう、あらかたの職員に渡してしまい、仲良くなった入所者にもいきわたり(今でも車椅子に下げている方が多いです)、あまり喜ばれなくなったのを感じて、そちらに変更…でも、あれって、結構材料費がかかると思うのですが、娘さんが買ってきてくれると喜んでいらっしゃいました。小物入れや、メガネケース、手提げ…いろいろ作っては皆さんにあげています。その内、入所者さんからリクエストをもらって(今度は何色がいいとか、もっと大きいのがいいとか)作るようになりました。「ちょっとそれは」と、費用の事もあるので、やんわりダメ出しをしたのですが、本人の楽しみでもあるので、娘さんと相談して、「根を詰めないでね」で、OKとしました。


「これ見てよ~指の先が割れてしみるの」

右手の親指と人差し指の先がパックリと割れています。

「ボンド付ける時使う指じゃないですか?ボンド使った後、ちゃんと手を洗っている?」

「は??」

ボンドは乾くと透明になるので、付いているという認識がなかったようです。

「水にぬらしたタオルを置いておいて、ボンドを使った後、そこで、拭いて、で、これを付けてね」

と、ワセリンを小さな容器に入れて渡しました。

 このただのワセリンを

「いい薬をもらった、ありがたい」

拝まれて、入所するごとに

「今日も持ってきました、ほんとにありがとう、いい薬です」

と、言われていました。


 その内に、「目が疲れるようになった」と、この手芸は止めてしまいました。その代わりに行っていたのは「広告用紙で作るゴミ箱折り紙」です。

 これは、施設で毎日作っていた方が亡くなり「困ったわね~」と言う声を聞き、

「それじゃあ私が作るわ」と、ショートステイで入所される時、いっぱい家で作り「お土産」として、持ってきてくれるようになったのです。

 在庫が尽きそうです…


 ショートステイ利用中に100歳を超えました。


 耳は、ますます遠くなってきましたが、お話好きで、捕まるとなかなか話を切れません。


「先生はね~「もう、お歳だから」って言うだけなんです。私が足がこう、むんずむんずすると言っても、浮腫んで腫れていると言っても、「お歳だから~」そう言われてもね~歳だから、もうどうにもならないってことかしら?そうかもしれないけれど、お医者さんに行っているんだから、何とかならないのかと思うのよ。こんなに太くなっているのよ、おかしいでしょ…」

話は永遠に続きます。


「今日は、どっちだった?ホワイト?ブラック?」

入所を取った看護師に聞きます。

「ん~かなりブラック○○さん、先日家で転んじゃったそうだから、仕方ないかな~」

 そう、入所時、明るい感じか、暗~い感じか、そこで、ショートステイ中の感じがだいたいわかります。

 一時、体調がすぐれないことと、先生が処方を変えたことがリンクしてしまい

「この薬になったから、こうなってきた。ほら、ここ(処方箋)に書いてある」と、処方箋に書かれた副作用を指差して

「だから、この薬だけは飲みたくない」

そうなったらば、ガンと聞きません。娘さんに連絡すると

「そう信じ込んでしまったので、飲まなくてもいいです。飲んで気持ちが病むぐらいならば、飲まない方がいいと思いますから」

ちゃんと娘さんが医師に相談してくれて、次にショートステイを利用する時までに処方を変えてくれました。同じマンションの違う棟に住んでいらっしゃるようなので…


 去年あたりから、足のむくみも取れてきて

「浮腫まなくなってきて、足が楽になったでしょ?」

と言うと、ブラックだったようで

「もう、こんなに瘦せてしまったんですよ…食べているのに、どうしたもんか。悪い病気でしょうか?」

いやいやいや、むくみが取れてきただけだし~

でも、ブラックの時は、どんなに説明しても、耳に入りません。


 私を指名してくることがあります。それは、耳かき


 入浴時に耳に水が入ったと訴えられて見てみると、大きな大きな耳垢で耳が塞がっていました。

「ちょっと動かないでね~」

と、耳用のピンセットで引っ張り出すと、もう耳栓状態。それを本人に見せた所、「耳かきの先生」となってしまいました。なので、入所すると耳かきの予約が入ります。

「今回もよろしくお願いします。もう、耳がチカチカして、ここに来るのを楽しみにしていたんです」

 大体は三泊四日なので、勤務表によっては、ずっと会えないこともあり

「今日、帰る前に医務室に寄ってもらってね」

「なんか用があるんですか?」

「まだ、耳かきしていないのよ」

「……」

これ、大事なんです!

 最後のご利用時も、耳かきしました。顔が大変なことになっていたので、外耳を引っ張ることが出来ず、そっとですが、やりました。


 顔が大変なこと…それは一昨年の秋頃でしたか


 うち(特養)には、週に一度、歯科の先生と衛生士さん達が来てくれています。入所者さんを診ているのですが、ショートステイの方でも、希望すれば診てくださいます。「総入れ歯が歯茎に当たって痛い」ということで、診てもらうことになりました。

「歯茎に当たっているところを少し削ったから、当たらないと思いますよ。それよりも、頬っぺたの所になんかやな感じのできものがあるので、専門医に診てもらった方がいいと思います」

 家族に伝えました。が、

「歳も歳なので、今から治療と言うのも…本人そこは痛くないと言っていますし、ご飯も食べれているので、このまま様子を見たいと思います」

と言うことになりました。私達も、お元気そうとはいえ100歳をだいぶ超えてきたし、そんな急激に大きくはならないだろうと思っていました。


 一年ほどで、外側からでも何か腫れてきたものが口の中にあるような感じに見えてきました。本人には特に痛みは無いようでした。

 今年に入って、ほっぺたに穴が開きだしました。口の中の潰瘍が突き出てきたため、ゲンタシン軟膏を塗り、ガーゼ保護。首のリンパでしょうか、ピンポン玉より大きなコブも顎の下に出てきました。

「痛くないのかな?食事はとれているけれど、入れ歯を入れると痛いから入れないし、食事形態変えなくちゃね」


 その内に、口から鮮血を出すようになりました。

「家では三日に一度ぐらい、夜になると出てくる。ティッシュで拭うんだけど…でもね、痛くはないよ」


 そんな中、長期入所の申し込みがありました。住んでいるマンションの建て替え工事が始まるためでした。


 「ここにずっとお世話になるかもしれません、その時はよろしくお願いします」

本人もその話は聞いているようで

「住んでいたところを離れるのは辛いけれど、ここは、みんな良くしてくれるから…引っ越すならばここがいいと思ったのよ、お願いします」


「口の中、在宅医の健康診断書には「口腔内の潰瘍」としかなっていないし「家族は積極的な治療をしない意向」と書いてある。でもね~今後痛みが強くなってきたらば、それなりの痛み止めを処方してもらうために、ちゃんとした診断をしてもらっていた方がいいんじゃないかしら?」

「カロナール内服だけで、済まないよね、きっと…」

「入所前に家族と相談だね。入所早くしないと、このまま家で亡くなることになるのかしら?どっちがいいのかな?」


 春の入所の時、出血も多く、「痛い」と言われたため、屯用として処方されていたカロナール200mg(本人は一日一回一錠だけと先生に言われたと言って、家では朝一錠しか飲んでいなかった)を娘さんから医師に確認を取ってもらい、三食一錠を付けました。


 亡くなる最後のショートステイで、夜不穏になってしまい、看護師が超過勤務して、話を聞いたと言ってました。痛みと言うよりも、出血が多くて、心配になってしまったようです。

「これ、家だと一人じゃない?ここだから話を聞いてもらえるけど…早くここに来て安心してもらいたいね」


 施設で亡くなる方が出るたびに

「○○さんを入れようよ~」

と、相談員さんに伝えるも

「○○さん、介護度2なんだよね~」

「え!あの歳で2なの?もう、ほとんど歩けなくなっているし~あの状態だよ食べれなくなるのも時間の問題だし…」


 来週の予定表に○○さんの名前がありました。

「もう、ここから入所にならないかしら?」

と、みんな思っていたのですが、キャンセルの報告がありました。家で転んでいるところを娘さんが発見して、在宅医から「動かさない方がいい」と言われたとか…

そして、三日後、亡くなったという報告が入りました。


「あの夜、旦那さんの所に行きたい、迎えに来てもらいたいって言ってたんだよね~迎えに来てもらったんだね」

「お家が好きで、ずっと独居で頑張っていたんだから、家で亡くなれて、良かったんだよね」

「あの声が聞こえないなんて、寂しいね~」


 そう、毎回ショートステイから帰る時、これが最後かも?って気持ちでお見送りしていました。


 それでも

   心残りです。



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