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履けなかった、デコった上履き

  とってもオシャレな方でした。

 いっつも、頭に髪飾りをいっぱい着けて……ド派手な花とか、ギンギラな、カチューシャ……「認知症のなせる業」かと、思っていましたら、お若い時の写真も、やはり、派手でした。

 お化粧もしていて、これがまた、派手!結構な色づかいで、いっつも、サンバ状態です。基礎化粧品にも、こだわりがあり、金粉、プラチナ?入りの化粧水を、通販で買っていました。お肌に合うそうです。まあ、いいんですが、生活保護の方です。


 施設入所しているのに、何というか、公共という概念がなく、ここは、自分の場所だし、自分の物と思っています。自分の座る所に、他の人が近づこうものならば、大声で威嚇?します。二人部屋の洗面台を一人で占拠して、アクセサリーや、化粧品の他にも、お気に入りのアイドルの写真とか、可愛い置物を並べていました。同居の方は、諦めているというか、そこを使いません。

 ズバズバものを言うし、怒ると手が付けられなくなる。みんな遠慮して、トラブルを避けているように見えていて、実はとても、愛されていました。根は優しくて、とっても寂しがり屋、わがままだけれど、憎めない。何があっても、結局、

「もう、○○ちゃんだから~」

で、収まってしまいます。


 脚は動かないので、車椅子。つかまり立ちも出来ない為、トイレには行けずに、オムツになっていました。循環器と呼吸器に問題があり、太腿から足の指先まで、パンパンに膨らんでいて、水風船のよう、で、これが重たい。お風呂介助は、二名がかり、しかも、上がってからが、大変!その脚に、クリームを塗るのですが、

「塗れてないとこが、あるよ!!そっと、塗らないと、痛いじゃないか!痛~い!!下手くそ!!」

と、必ず、怒鳴り散らしながら、浴室のベッドを、長時間占拠。が、お気に入りの男性職員がいると、これがまた、打って変わって、もう、ニコニコ。そこは、女性です。といって、彼女のお風呂日に、毎回彼らをシフトに組むわけにはいかず、当たったスタッフは、ただただ、疲れます。


 施設では、全く歩けない方も、車椅子に乗る時は、靴を履きます。フットレストを畳んで、足を床に下ろす時、靴下が汚れるからなのか?まあ、足を床に下ろさない方達も、靴を履かされていますので、理由は単に「見栄え」なのでしょうか?わかりません。

 介護用の室内履きは、ゆったりめに出来ています。それでも、彼女には、きつくて、足の甲のベルトの上下から、水風船が、今にもはじけそうに飛び出してしまいます。ちょっとぶつかれば、パーンと、いってしまいそうです。

 そこで、介護用品のカタログを、彼女に見てもらうことにしました。初めの方のページは、花柄やレースの付いたのや、綺麗な色のが載っているのですが、幅を示すEが上がってくるにしたがって、種類も減り、地味~になっていきます。だんだん、彼女の様子が変わっていき、とうとう、カタログを投げ出してしまいました。

「こんな、婆さんみたいなもの、履けるわけないでしょう!」

と。

嫌だというものを、履いてもらえるはずは、ありません。

「いやいや、写真うつりが悪いのかもしれないから、取りあえず、試し履きだけでもしてみたら?」

と、なだめて、注文すると、履いても痛くないことには、満足そうでした。が、やはり、色。写真通り、地味でした。そこで、

「その髪飾りに合うように、私がビーズを付けるから。それなら、どう?」

と、提案してみました。彼女は、ちょっと考えてから、

「そりゃあ、悪いよ」

と。

でも、どうやら少し、心が動いた様子なので、

「子供のために買ったビーズやスパンコールが、家にいっぱいあるから、大丈夫よ」

と言うと、

「じゃあ、お願いしようかな~」

と、言ってくれて、早速二足購入が決まりました。


 今、その靴は、もう何人もの、脚が浮腫んでしまった、他の入居者さんが、履きました。絶対、彼女にしか似合わないように、ド派手に飾り付けたのですが、意外にも、皆さん違和感なく、履かれました。でも、彼女のように、自慢することはもちろん、見ることもなく履いている方ばかりです。


 彼女に、デコった靴を渡した時の顔、ホントに嬉しそうでした。二足とも、胸にギュッと抱きしめて、

「ありがとう」

と、心から言ってくれたと思います。心からのありがとうは、そうそう聞けるものではありません。こちらも、とても嬉しくなりました。スタッフや入居者さんに見せびらかしては、「素敵、似合ってる」なんて言われて、満足そうでした。私が、

「もう一足の方も、履けばいいのに」

と言うと、

「これは、今度の誕生日に履くんだよ、それまでは、みんなに内緒」

と、教えてくれました。


 そんな彼女が、夏の初めに風邪をひいてしまいました。クーラーの風のせいなのか、喉にきてしまい、ただでさえ、気管支の弱い方なので、呼吸が辛くなってしまいました。施設では、取りあえず始めた酸素吸入を、続けることが出来ません。在宅酸素の指示を受けて、帰ってくるかな~と、まずは、入院となりました。そう、すぐ帰ってくるものと思って、見送ったのです。


 予想に反して、なかなか退院の連絡が来ないので、近くに行ったついでにと、面会に行きました。すると、そこには、見違えるほど脚が細くなった彼女がいたのです。徹底した水分管理と、服薬調整で。

「わあ~綺麗になっちゃって!」

と、言うと、

「元々ですから」

と。

枕元には、いつも部屋にあったぬいぐるみが、いっぱい。

「あれ、これって、入院する時、持って行ったっけ?」

と聞くと、

「えへ、彼氏が持って来てくれたのよ」

と。

スタッフが何人も、面会に来ているようでした。

酸素吸入は、していましたが、流量は低く、会話も辛そうではありませんでした。

「もうすぐ、誕生日、その時は、あの靴を履くのよ。靴も写真に入るように、頼んどかなくちゃ」と、帰り際に言われました。

 ほんと、身寄りのない方でしたが、施設に来て、良かったのかしら、なんか幸せそうだな、と、思いました。


 誕生日が後一週間後という時になっても、まだ、退院の話が来ないため、相談員さんが、面会に行くと、本人は、

「もう、帰りたい」

と、言っているのに、病院から、退院の許可が出ません。

「誕生日は無理だけれど、敬老会があるから、その時に盛大に誕生日を、みんなに祝ってもらうから」

と、なだめて、帰ってきたそうです。


 しかし、それから数日して、酸素流量マックスになったと、連絡が来て、何人かで面会に行くと、もう、ほとんど意識が、ない。

「酸素マスクの下から、絶え絶えに、何か言っているみたいだったけれど、聞き取れなかった」

と、後から聞きました。そして、その二日後、亡くなりました。


 「亡くなると、決まっていたのならば、あんなにここに帰りたいと言っていたのだから、意識がある内に、連れて帰れば、良かったね」

と、みんな思いました。

 本当の家ではないけれど、彼女にとって、ここは、家でした。なんだかんだ言っても、わがままを聞いてくれて、馬鹿な事を言って笑い合える、そんな使用人?いえ、同居人のいる、家だったのだと思います。


 時々、あの靴を見て、彼女を思い出します。

 ここに居るみんなにとって、施設は家になっているだろうか?

 受診や遠足の帰り、車が施設に近づくと、

「ほら、もうすぐ、家に着きますよ。帰ってきましたよ」

と、声掛けします。けれど、皆さん、反応がありません。彼女だったらば、私が言う前に、

「ああ、帰ってきたわ」

と、言うでしょうに……理想とは違っていたかもしれませんが、彼女にとって、ここは、家でした。

 未だに、話題に上ります。

 家も、あなたを失って、寂しく思っていますよ


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