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その、タイミング

  施設で、日々問題になっているのは、「便が出たかどうか?」。看護師の仕事の半分は、このことで費やされているといっても、過言ではありません。

 前に書いた、エビフライの男性も、お稲荷さんの男性も、排便コントロールで、看護師は、ほとほと悩まされました。

 問題は、便秘だけではありません。頻回なのも、柔らかいのが一気に出るのも、介護士さんサイドから、不満が出ます。そりゃあ、夜中に一人で全衣交換、シーツまで換えるなんて、「何とかしてくれ」と、言いたくなるのも、無理はありません。本人だって、とても辛い思いをしますし、お尻だって、ただれてしまいます。そのせいで、一切の下剤を拒否される方も……きっと、とっても嫌な思いをしたのでしょう。


 施設では、排便ノートというものがありまして、日々の排泄表から、丸二日出ていない人を、介護員さんがピックアップしてくれます。そこに、どの軟便剤を追加するか?どの下剤をどのくらい、いつ内服するか?浣腸?レシカル坐薬?摘便?と、記入していきます。そして、その結果を見て、適量や間隔を決めたり、主治医に上申して、定時薬として、処方してもらったりもします。それが、何十人となると、ほんと大変です。


 精神科領域の方は、特に排便に関して、こだわりが強い方が多いように感じます。確かに、精神科の薬は、身体に蓄積させないようにと、便秘は禁忌となっています。だから、ほとんどの方は、下剤を併用しています。


 精神科病院に勤めていた頃、眠前の薬を配る時、ラキソベロン内用液を、自分から何滴と指定してくる方がいました。だいたい、一回10滴ぐらいで効果のある薬なのですが、その方は、30から始まり、翌日は40、50と、要求されます。排便が本当に無いのかは、自分でトイレに行く方なので、確認の仕様がありません。たとえ、排便があっても、その方にとってすっきりしないから、「便秘している」と、訴えているのかもしれません。

 しょうがないので、ラキソベロン内用液の容器に、砂糖水を入れて、それを使うことにしました。すると、まあ、不思議!40滴で「いっぱい出ました」の報告が続きます。出し渋っていた40滴を、気持ち良くもらえることに、満足されたのでしょうか?これも、ある意味、副交感神経優位の効果でしょうか?人間の身体は、不思議がいっぱいです。


 老人施設でも、精神科領域の方の方が増え、同じようなことが、起こっています。それに加え、排便したのを忘れてしまうという、現象が起こります。

 たまたま、トイレから出てきたところに遭遇すれば、「出ました」という報告をもらえるのですが、時間を置いたらば、そりゃあ、無理です。

「最後のお通じは、いつですか?」

と、尋ねても、

「去年の、えーと、何月だっけかな?」

なんて、答えが返ってくる世界です。

「ここに泊まってから、一回も出ていない」

と、言い張る強者までいます。まあ、その方の場合、入所して数年たっているのに、

「昨日来たばかりです」

と、挨拶されるし、

「明日は家に帰りますので」

ですけれど……

 ほんと、お風呂での、「パットに便付着」なんて報告が頼りです。


 看護師や介護士になると、もう、ご飯を食べながら、排便の話が出来ます。人間、「食べて、出して、寝る」最後は、その繰り返しになります。「出して」が滞ると、食べられなくなりますし、眠ってくれなくなります。「出す」は、とても大事な営みなのです。

 ですから、

「肛門が、便で開いていて、どうにもなりません」

なんて、コールが来ると、お昼ご飯を食べている途中でも、摘便に、行かなくてはなりません。ハア~


 若い方でも、便秘で困っている方は、多いと思います。身体がだるくなったり、お肌にボツボツができたり、イライラしたりと、いいことはありません。しいていえば、食欲がなくなることぐらいでしょうか……でも、痩せません。

 高齢者の場合、便秘と侮っては、いけません。生死に関わることだって、あるのです。例えば、イレウス・腸閉塞を起すこともあります。

 なにしろ、自分の腹圧では、押し出すことができません。座れればまだ何とかなるのでしょうが、横になっていたのでは、無理です。あなたは、寝たまま排便できますか?下痢でない限り、不可能だと思います。しかも、羞恥心があって、交感神経優位、すなわち、緊張している状況では、排泄は更に難しくなります。副交感神経優位の、落ちついた、安心できる空間でないと、排泄できません。よっぽどの認知機能障害でない限り。

 それに加えて、便意が分からなくなっている方も多いです。。たとえ直腸に便が溜まっても、

「排便しなさい」

という指令が、脳に行かないのです。

 そうこうするうちに、便は大腸の中で、水分を失い、カッチカチになって、ますます、出すのが困難になってしまいます。ですから、排便コントロール、その援助は、老人施設の看護師の、とても大切な仕事です。でも、看護師の仕事として、片付けられてしまうものでもないと、思うのです。

 通じが良くなる食事、水分量、腸に刺激の行く運動、生活リズム、そして、排便の姿勢やタイミング……栄養士さんや、介護士さんとの協力無しで、薬だけに頼るのは、やめるべきです。


 

 ショートステイを利用されている方の中にも、排便に関して「面倒」な方が、多いです。だいたい、家で便を出さずに

「入所中に、出しといて下さい」

と言う家族。まったく、

「済ませてから、泊まりに来てください」

です。なんだと思っているのでしょうか?まあ、どのご家庭でも、排便のことでお困りなのは、お察しいたします。

 オムツを付けていても、その中にきちんと納まるとは、限りません。歩けるからといって、トイレでキチンと済ませられるとは、限りません。それどころか、違うものを流してしまって、詰まらせてしまうことも……ほんと、大変なのです。



 そんな皆さんのことを見ていて、感じることは、

「下の始末が出来る内に、死にたいな~」

 なかなかハードルが高い、叶わぬ夢でしょうか?せめて、

「トイレに行きたいと思うタイミングで、座らせてもらいたい」

と、願ってやみません。

 

 タイミングを逃しては、便意が、永遠の彼方に、遠のいてしまいます。

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