エビフライにハンバーグ
今、そろそろかな?という方が、二人います。ずーと、そろそろかな~となってから、低空飛行している方が、更に三人。もう、百歳近い方々なので、いつ亡くなっても、不思議ではありません。その時まで、比較的元気で、大往生という方も、まれにいらっしゃいますが、ほとんどの方は、食べられなくなり、眠っている時間が増えてきて、すーと逝かれます。生き切ったということでしょうか。
そんな中、比較的若くして、亡くなった方の物語です。
その方は、背が高くて、ハンサムな男性。が、怖がりで、弱虫で、頑固。
足がまったく動かないため、特浴……ストレチャーで横になったまま浴槽に入り、ストレチャーから、ベッドに移動して、着替えを行います。その、移る時、体の下にタオルケットを入れて、四人がかりで滑らすのですが、まあうるさい!
「落とさないでくれよ~怖いよ~」
と、いっつも、大騒ぎです。
「落とす訳ないでしょう、もう、どうして信用しないのかな~」
と、言うと、
「信じられるはず、ないよ。やられる身になってみれば、わかるんだ!」
と、理屈をこねます。
そして、週二回の入浴を、なんだかんだ言って、一回パス。そのせいもあって、身体中、湿疹が出て、掻くものだから、ボロボロ。しかしこれが、とても頑固で、
「風呂なんか入るから、こんなになっちまうんだ」
と、言う始末。まあ、一理あるのですが……施設では、ナイロンタオルで、ゴシゴシやっているので。それでも、軟膏だけは、塗らせてくれます。よっぽど痒いのでしょう。
糖尿病なので、検査の為に、採血に訪室すると、
「ぎゃ~吸血鬼が来た!!やだ~」
と、これもまた、うるさい。
「先生が言うからやっているって言うけど、そんなの嘘だ!検査の結果なんて、聞いてないぞ~」
と……
色々うるさい方ですが、問題は食事。時々、まったく食べなくなります。何というか、嫌いなものが続いたとか、調子が悪い気がするとか……要するに、鬱になります。
便秘も又、頑固です。十日出ないことも、日常茶飯事。下剤を内服して、浣腸をしても、出ない時は、出ません。とても、とても、性格同様、頑固です。
食事の方は、さすがに三日食べないと、心配になり、食べたい物はないか?聞きます。そして、
「モンブラン」
なんて、リクエストを、聞き出し、相談員がコンビニへ……
そんな彼が、又、食べなくなり、今度は、エビフライにハンバーグというリクエストでした。
「まったく、そんながっつりしたものを食べたいなんて、どっこも悪くないじゃん」
と、思ったものです。
おりしも、排便マイナス十日目。前日に、浣腸、摘便、更に浣腸して、仕上げの摘便。溜まりにたまったお通じを、しっかり出し切りました。そして迎えたランチ、ロイヤルホストのお弁当が届きました。
リクエスト通りの、大きなエビフライにハンバーグ
「美味しい?」
と聞くと、
「うん、とっても美味しいよ」
と、子供のような笑顔でした。
「私が、しょうがないから、頼んで、持って来てもらったのよ~」
とちょっと恩着せがましく言うと、いつになくしおらしく、
「ありがとう」
と、言われました。
夕食の時は、違う階で薬を配っていたので、彼とは、その時が最後でした。
夜九時、家に持って帰っている携帯に、着信がありました。看護師は、夜勤がありません。その代わりに、施設で入居者さんに何かあれば、携帯に連絡が入り、オンコール対応します。施設に戻ることもあれば、家から指示を出して、朝まで待ってもらうこともあります。
「……さんが、冷たくなっています」
「え、誰?」
「○○さんです」
「え、誰なの?」
私は、何度も聞き返しました。だって、だって……
急いで施設に戻ると、すでに、静養室で、着替えを済ませていました。亡くなっていることを確認して、主治医に連絡を入れて、ご家族にも知らせました。ご家族は、高齢のため、明日いらっしゃることに、なりました。
カサカサに軟膏を塗り、お顔を整えて……ほんとに、冷たくなっていました。
聞けば、夕食はさすがに、ほとんど食べられず、早めにベッドに戻り、ギャッチアップして、テレビを見て過ごされていたようです。そして、夜勤者が、眠前薬を配ったり、夜の給水で回っている時、まだテレビを見ているようだったので、そろそろ寝てもらおうと、声掛けして、亡くなっていることに気づいたとのことでした。
ほんとに、眠っているようでした。
「おい、起こすなよ」
とでも、言われそうなくらい、自然で、やっぱり、ハンサムでした。
「ああ、こんなのがいいな~」と、立ち会ったみんなが、言っていました。
死は、こんな風にも、訪れます。




