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透析室より  2

  透析室で仕事を始めて、間もなくの頃

「何をやっているんだあ!!」

と、患者さんから急に、大きな声で怒鳴られました。私は、何が何だかわからないままに

「すいませんでした」

と、謝ったのです。と、

「今、自分のやったこと、何が悪かったのか、言ってみなさい」

と、今度は、チョットだけ優しい声で言われました。それでも、十分過ぎるほど怖くて、頭真っ白で、

「すいません、わかりません……教えていただけますか?」

と、半ば震えながら答えると

「あなたは今、私の透析をしている管のある側から、お茶を注ぎましたね。もしもこぼしたら、どうなるか。考えてください」

と、ジッとこちらを見て、言われました。でも、その目が、怒っているのではなく、教えてくれているのだと感じ、ほっとしたのを覚えています。

「注意が足りませんでした。まだまだ、知らなくて、至らないことをしてしまうかもしれません。どうか、これからもよろしくお願いします」

と、頭を下げると

「よし」

と、お弁当を開けて、彼は食べ始めたのです。


 それからも、度々怒られました。そして、色々な話をして下さいました。私の尊敬する、大好きな人です。私が看護学校受験する、きっかけになったのも、彼の言葉です。

「あなたに、看護師になって欲しい。勉強してきなさい」

と。

 彼はその頃、透析歴ん十年という、つわもの。すでに退職して、透析患者さんの為に、活動していました。

「こないだは、国会の前で、みんなと座り込みをしたんだよ」

「えらいやつらと、話してきたんだけれど、どいつもこいつも……」

なんて話を、透析室でして下さいました。又、透析導入したばかりで、不安いっぱいの患者さんやその家族の悩みを聞き、援助する活動もしていらっしゃいました。

「こんな小さな身体のどこに、こんなにも凄いエネルギーが詰まっているのだろうか?」

と、いつも感心していたものです。


 人工透析をするためには、シャントという、針を毎回入れる血管を作ります。なにしろ、身体中の血液をグルグル出し入れするのですから、太い血管にしなくてはなりません。そこで、動脈と静脈を、皮膚の下でつなぎます。長年にわたり、透析をしている方は、腕の血管が太く盛り上がって、うねうねと見えます。所々、こぶのような、血管瘤ができたりもします。そして、もしも、穿刺せんし、針刺しの失敗を繰り返したりして、そのシャントをダメにしてしまえば、又、手術をして、新しいシャントを、別の所に作り直さなくてはなりません。


 そんな中、彼は、いつも、新人看護師さんの実験台を買って出ます。腕を腫らして、冷やしながら、続けたこともありました。私がその腕にびっくりして、

「わあ~、ひどいことになって……」

と、やられた彼を気遣うと、

「やる方だって、怖いと思うよ。でも、頑張ってもらわなくちゃね。透析看護師を育てることも、患者の役割だから、まあ、痛いけど」

と、片眼をつぶって、笑って下さいました。


 お亡くなりになったと、聞きました。最後にお会いしたのは、五年ほど前でしょうか。お身体は、ますます小さくなっていらっしゃいましたが、その声は、素敵なままでした。

 私は、透析看護師になれませんでした。けれど、あなたのおかげで、取りあえず看護師として働いています。

 お疲れ様でした。ご冥福をお祈りいたします。

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