手料理
ダンッダンッ
僕はまな板の上の肉をぶつ切りにしていく。
「こんな感じかな。」
うまくきれたのではないだろうか。
他の材料で練習したかいがあったというものだ。
初めの頃は無駄に力を込めて叩きつけていたし、この部屋の壁が薄くて防音性に優れていないものであったなら、隣人からの壁ドンをいただいたことだろう。
見ればわかると思うが今、僕は料理を作っている。作っているのだが生憎自分は料理が得意なほうではない。そして得意ではないことを進んでするやつは少ない。もちろん僕はその少数派に含まれない。じゃあそんな僕がなぜ料理をしてるかっていうことになるのだけども…
「…………。」
…どうやらリビングの彼女はまだ眠っているらしい。テレビの中のニュースキャスターだけがその場で声を発していた。どうやらここ1週間で行方不明者が続出しているらしい。
そう、この彼女こそが僕が似合わないことをしている原因であるわけだ。つまるところ僕は彼女に「手料理」を食べさせたいのだ。くだらない思い付きから始めたことだが、これが案外楽しくてついのめり込んでしまった。
彼女はさぞかし驚く事だろう。それだけの準備は整えた。調味料、道具、材料なども一式揃おかげで財布はスッカラカン。懐が寒くてしかたがないがもうそんなことはどうでもいい。
もともとのレシピに僕なりのアレンジを加えて作ってみる料理。この日のために何度か予行演習はしているが、最初の一回目では素人がアレンジに挑むことの難しさを思い知ったものだ。
それでもついにここまでたどり着いた。
…おっと、考え事をしながら料理は作るもんじゃないな。危うく一緒に「自分の」手を切るところだった。さっさと作ってしまわないと。ソファーで寝ている彼女をみやる。
あまり長い間彼女を待たせることはできないし。
切り終わった肉に火をとおしながら、練習に使った材料達のことを思う。
二日前のものならともかく流石に1週間前に仕入れたものは冷暗所とはいえ痛んできている。
世の奥様方が冷蔵庫の中の食材を余らせて腐らすのを内心馬鹿にしていたのだが、いざ自分がその立場になると忘れてたんだから仕方ないじゃないかと自分を擁護する思考でいっぱいになる。そもそも食材には使わない部分ていうものは多かれ少なかれ出るものだ。 そうだ、やっぱり僕は悪くない。・・・・・・
まあ、仕方ない仕方なくないはさて置き、さっさと処分しないといけないのは確かである。
まさしく料理は片付けまでということだ。
よしできた!
味見もしたけど最高のできだと言えるだろう。
彼女に料理を味わう余裕があるうちに持って行ってあげるとしよう。
起きたかい?
君にこの手料理を食べてほしいんだけど…
自分じゃスプーンも持てないだろう?
だから
さあ、口を開けて
ありがとうございました。