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サタナエル・サガ  作者: Yuki
第五章 ドゥーマ攻防戦
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第十一話 決戦の処刑場(Ⅳ)~道を違えし友情【★挿絵有】

 その頃、中央広場周辺建造物の屋上。

 城壁のように連なるその場所を、全力で駆け抜ける女性の姿。


 先程味方のはずの副将フェビアンから、混乱に乗じ暗殺をしかけられた統括副将シェリーディアだった。その背には、クロスボウというは余りに巨大で禍々しい装置に覆われた、“魔熱風(パズズ)”。


 通常のボルト射出・50本までのボルト連続射出・周囲半径5mへの無数の神経毒針の射出・火薬と着火装置を内蔵した榴弾の射出・内部に仕込まれたオリハルコン製刃・ハンドルからワイヤーを伸ばすことで射程が伸びる、先端のウェイトを利用したハンマーといった機能を備える。


 フェビアンをして「ガラクタ」と云わしめたとおり、クロスボウとしては射撃精度に劣り重量も過大であるが、遠距離射撃から近距離白兵戦まで対応した、まさに兵器と呼んで差し支えない代物であった。



 やがてフェビアンが潜伏していると思しき建物にたどり着き、屋上から階段で下階へ駆け下りるシェリーディア。


 そして廊下へ出た彼女が目にしたものは――。


 潜伏先の部屋のドアの外で、右胸から大量の血を流し、仰向けに倒れるフェビアンの姿だった。


「フェビアン……。テメエ、やられたのか。

あの魔導士の(アマ)の火矢の仕業か」


 すでに背の“魔熱風(パズズ)”を抜き放ち、照準をフェビアンに定めながら声をかけるシェリーディア。


 その声を聞き――。

 身体を震わせながら首だけ起こし、利き腕でない左手にクロスボウを持ち替え、シェリーディアに向けるフェビアン。

 驚くべきことに、この瀕死の重傷でありながらウインドラスレバーを巻き、次弾をセットしていたようだ。


 勝ち目はないが、一矢報いようというのか。


「シェリー……ディア……。私は、ここまで、かも知れんが……ただでは、殺られぬ……。貴様だけは、生かして……おかぬ」


 肺が傷ついているのか、ぜえ、ぜえと苦しげに言葉を絞り出すフェビアン。


「テメエ……そんなに、アタシを殺したかったのか。

そこまで、アタシが憎かったのかよ!

いいだろ。お望みどおり打てよ! その前にアタシがテメエを仕留める!!」


 シェリーディアの言葉に、彼女へ狙いを定めようとするフェビアン。

 シェリーディアは彼女が狙うのを待った。

 が、左手は大きく震え、仲々狙いが定まらない。


 それを見ていたシェリーディアの表情が変化していった。

 憤怒に吊り上がっていた表情が緩められ――眉が下がり、憂いを含んだ苦悶の表情へと変わっていったのだ。


 哀れなフェビアンの姿を見て――彼女との過去の記憶が甦ってきたのだ。


 子供時代、貧しい環境で助け合い、共に毛布にくるまり励ましあい、思いやり合いながら旅したこと。

 協力して狩りや漁をしたこと。自分が病に倒れた時、彼女が看病してくれたこと。

 サタナエルに入った当初、常に死と隣り合わせの環境の中、助け合い、良きライバルとして互いの存在を励みにしていたこと。

 

 自然と、シェリーディアのトリガーに掛けていた指が緩んだ。

 そして柔らかい口調で、フェビアンに話しかける。


「な……なあ、フェビアン。考え直す気は、ねえか?

アンタが犯した罪は上官と組織への反逆罪。重い罪だが、被害者のアタシが黙っていればいいし、見てる奴がいたって口添えすれば軽い刑罰ですむ。今のアンタの待遇だって、改善の余地はある。それはアタシ次第だから、最大限力を尽くす。

その上で今まで通り、ここでやって行くわけには……いかねえのか?

アタシは、アンタを殺したくは……ない。

頼む、投降してくれ……。そうすれば、法力使いを呼んで、まだアンタを助けてやれる」


 それを聞いたフェビアンは――。

 口許を歪め、心底、バカバカしいと云わんばかりに、冷たく乾いた笑いを苦しげに漏らした。


「クックッ……クック……。何を云い出すかと思えば、くだらん。

金輪際、お断りだ……シェリーディア。貴様の……情けなぞにすがって生を乞うなどと……。

貴様は、昔から……そうだった。私が一人でいたり、困っていたりすると……寄ってきて先回りして世話をやいた。私の母さんの事まで。断っても……断っても。

周囲は……それであいつはシェリーディアがいなければ何もできない、と……常に謂れのない陰口を叩いた。下に見られた。

それが……私にとってどれだけの……死に等しい苦痛か、考えたことは……ないだろうな! どう思ってるか知らんが……完全なる自己満足だ、貴様のは。

サタナエルで、私は努力し誰にも負けない最高の技術を……身につけた。戦果も上げた。

なのに貴様は……私に真似できない他のもっと多くの技術で……さらなる戦果を上げた。

それで、また……比較される。あいつは所詮……とな。

もう沢山だ……貴様に敗北し続けた上、今、私は……とうとう任務にも失敗した。

ゆえに……貴様を殺し、私も……死ぬのだ」


「……そ、そんな……アタシは……アタシは 、アンタのこと……」


「うるさい!! 殺せえっ!!! でなければ私が殺す!!!」


 叫び声とともに定まらず発射されたフェビアンのボルトは、シェリーディアの頭部をはるかに逸れ――同時にトリガーを引き射出されたシェリーディアのボルトが、フェビアンの額を完全に貫いた!


 力なく頭を床に倒し、頭部から脳漿と血を流し――フェビアン・エストラダは息絶えた。



 “魔熱風(パズズ)”を降ろし、戦闘態勢を解いたシェリーディアは――。

 その眼から大粒の涙と――小さな嗚咽を漏らしていた。


挿絵(By みてみん)


「フェビアン……。バカヤロウ。何でこんなことになるんだよ……。

ここ何年も、憎んでたし殺してやろうって思ったし、気づいてなかったけど……。

心の底では、アンタはずっとアタシのかけがえのない親友だったんだ。本当は一緒に居てほしかったんだ。

今の今まで、気づかないアタシが一番のバカヤロウだ……。ゴメン……ゴメンよ、フェビアン……ううう」


 あまりに高いプライドと、それがゆえの劣等感(コンプレックス)のために、平行線をたどることになってしまった親友。

 

 シェリーディアはフェビアンの遺体に近づき、ボルトを引き抜いて、彼女の開ききった両眼をそっと閉じた。

 手にかけたことはとても辛いが、哀しみに浸っている場合ではない。


 シェリーディアは袖で涙を拭うと、完全に戦闘者としての表情に戻り、“魔熱風(パズズ)”に次弾を装填した。

 

「……レエテ・サタナエル。そしてその仲間ども。

今のアタシにとって、テメエらは標的としてだけでなく……仲間たちすべての仇。

この統括副将シェリーディアの全力をもって、テメエらを皆殺しにする!」



 *


 レイドを討ち果たし、彼女にとって最初の復讐を果たしたレエテだが、戦闘はまだ継続していた。


 立ち上がった彼女が確認すると、舞台下ではルーミスとナユタがドゥーマ兵、あるいはサタナエル“斧槌(ハンマフェル)”ギルド兵員の残り一名


 彼女が加勢に行こうとしたそのとき――。

 広場の周囲から鬨の声があがり、何と――千人以上ものドゥーマ兵が殺到してきたのだ!


 通路から溢れんばかりに押し寄せる増援の兵。

 手に白兵戦武器や弓を構え始める。

 通常人の兵士など相手ではないレエテらであっても、この数は危険だ。

 一気に劣勢に追い込まれた。



「ナユタ!!! まだなのか!!! 先に聞いていた『秘策』の到着は!!」


 ギルド兵員と闘いながら、ルーミスがナユタに向って叫ぶ。


「もうすぐさ――2、3分でいい!! 持ちこたえてくれ!!」


 ナユタが叫び返した――まさにその時だった。



 複数の大音量のラッパの音が、城壁上の兵士達によって一斉に鳴り響かされた!

 その緊迫感あふれる音のフレーズは、「敵襲」もしくは「戦時の味方の救援」に相当するものと思われた。


 それを聞いたナユタが、目の前の兵士10人以上を炎に巻きながら、会心の笑みを浮かべる。


「来たよ!! ランスロットの奴、時間通り狼煙を上げてくれたようだねえ!

ノスティラス軍のお出ましお出まし、てねえー!!」


 ラッパの音で、兵士たちに急速に動揺が広がった。

 進軍が止まり、城壁を見やったり顔を見合わせたりしている。

 おそらく率いているのは大隊長クラスだろうが、判断をしかねている様子だ。


「おおい!!!! ドゥーマ兵ども!!! あたしたち賊ごときにかまってるヒマはないだろう!

他国の軍勢だよ!! あんたらは奴らと『何か』をやるために待機してた部隊だろうが!!

とっとと城門を開け、『ノスティラス軍を迎えに行きな』!!!!」


 ドゥーマ兵に向って、あらんかぎり叫び声を上げるナユタ。


 なぜこの女が事情を知っているのか……? 疑問は生じたが、云っていることは事実であり、確かにここでこうしている場合ではない。


 大隊長たちは、一斉に指示を出し――大挙して集まっていた千人を超す軍勢は、総員を上げて城門に向かい、去っていったのだった。


 

「間に合ったようだな、ナユタ。

オマエの云っていた、『ノスティラス皇国 ミリディア統候アイギスの軍勢』到着が」


 ルーミスの言葉に、ナユタが答える。

 すでに、彼らの手で、サタナエル組織勢力は掃討を終えていた。


「ああ……事前の情報収集が身を結んでくれたおかげさね」


 そう――ここドゥーマの市民と軍属、ドゥーマ伯のエストガレスへの不満は頂点に達していた。元々のものに加え、コロシアムの件でラディーンの名声が地に落ち、ドゥーマ伯の侯爵昇格と王都ローザンヌ招聘が白紙にされたことが決定打となって。

 すでに祖国を裏切る意志を固めていたドゥーマ伯は、ノスティラス皇国南部領ミリディアの統候、アイギスと(よしみ)を結びドゥーマを明け渡す準備を進めていた。アイギスはアイギスで、美味しい所をもっていこうと、皇帝ヘンリ=ドルマンに報告もせず独断で事を進めていたのだ。

 そこを利用し、今日のこの瞬間に合わせて彼らの合流、反乱が行われるよう調整するのがナユタの作戦であったのだ。

 合図として森林地帯でランスロットに狼煙を上げさせたり、軍の内部やノスティラスに密書を送るといった具体策を実行していたのだった。


「……しかし、大いに疑問は残る。

それだけのことを行うのに、外部の人間のオマエや、ランスロットの力だけでは到底無理だよな?

それに――最大の疑問である、この男のこと――」


 ルーミスが、ちらりと見やったのは――。

 左膝を負傷し、舞台上に座ったままこちらを見ている謎の人物――“ドゥーマ伯”の方だった。


 “ドゥーマ伯”は、にやりと笑い、口を開いた。


「その疑問には、俺が答えなければな。

俺は、お前達一行を捜索していたドゥーマ市街で、二週間ほど前にナユタを見つけ、接触をはかった。うまく貌を隠していたようだが、人相書きをもとに、見つけ出すことができたんだ。

そしてそこから共に今回の件に対して策を練り、一週間ほど前に本物のドゥーマ伯を捕縛監禁し、俺が成り代わったのだ。

そこからは、ドゥーマ伯として軍に指示を出し、お前達の目的であるサタナエルとも接触して思う様に策を進めることができた。

それが第一の疑問の答えだ」


 ルーミスは鋭い口調で、問うた。


「第二の疑問は?」


「……そう、第二の疑問である、俺の正体、はな――」



 “ドゥーマ伯”が口を開こうとした、その瞬間!


「危ない!!!」


 ルーミスが叫び、“ドゥーマ伯”を抱えて飛び退る。

 同様に、レエテがナユタを抱えて飛び退る。


 そのコンマ01秒後に――。


 舞台の上に、同時に無数のボルトが降り注ぎ突き刺さったのだ!


 ルーミスとレエテの反応が遅れていたら、全員がボルトに貫かれていた。



 彼らが一斉にその方向――上空の建物屋上を見上げると、そこには――。


 “魔熱風(パズズ)”を構える、シェリーディアの姿が、あった。


 

「レエテ・サタナエル!!! さっきは邪魔が入ったが、今度はきっちり、この統括副将シェリーディアが仕留めてやる!!!

そしてその仲間ども!!! テメエらのおかげで部下は全滅し、このドゥーマに残った組織の者はアタシ一人だ。

だが今アタシは絶対有利なポジションを確保し、今見たとおりの破壊力も有している!!!

大人しく投降するならテメエらの命は助けてやるが、どうだ!!??」

 

 宣言されるシェリーディアの脅し。

 決してハッタリでないことは、今の攻撃で分かる。

 一体どうやって、あの一挺のクロスボウから、ほぼ同時に10本以上のボルトを放ったのか――。



 冷や汗をかきながら、ナユタは皆に云う。


「すまないね、皆。

あの化物を仕留め損ねたのはあたしだから申し訳ないんだけど、あたしは――城門へ行かないと。

ドゥーマ兵の奴らがミリディア候の軍勢と思ってるアレは……実は『違う』んだ。

あたしが、あの軍の総大将と話をしなきゃいけない。

だからレエテ、ルーミス。あんたらにあの化物の相手を託していいかい?」


 レエテ、ルーミスは一も二もなく頷いた。

 そしてレエテが口を開く。


「わかった、ナユタ。あなたは行って。

あいつは私を殺す気だし、ちょっとした因縁もあるの。必ず倒すから安心して」


 ナユタはニッと笑い、すぐに城門へ向けて駆け出していった。


「頼んだよ! 絶対に、死ぬなよ!」


 それを合図に、レエテが駆け出す。

 ルーミスは、“ドゥーマ伯”を舞台の陰に隠す。

 

「あんたは、しばらくここへ隠れていろ。すぐに戻る!」


 そして駆け出すルーミスを、“ドゥーマ伯”は微笑みながら見つめていたのだった。

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