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サタナエル・サガ  作者: Yuki
第十一章 反逆の将鬼
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第十七話 敗残の皇国と王国にて

 ナユタ、ルーミスとロブ=ハルスの呪われた因縁に決着が付いた、丁度同じ頃。


 エストガレス王国、王都ローザンヌ南に広がる広大な平野部。


 そこには、草原を覆い尽くすほどの大量の、軍勢。そしてそれらが織りなす野営の風景が果てしなく広がっていた。


 その軍勢である、ノスティラス皇国正規軍。

 2週前に同じ場所に野営を張った際には、20万であった、史上最大の意気軒昂たる軍勢。

 それが現在では――。たったの8万にまで減少していたのだ。


 国境線で行われたエスカリオテの会戦における、敗北。


 最大の要因は総大将たる皇帝ヘンリ=ドルマンの敗北だが、軍勢そのものもサタナエルの強力な戦闘者と率いられる軍勢に押されていた。敗走を始めた途端に被害が加速度的に拡大し、惨状を極めるに至ったのだ。


 残った8万の軍勢も、無傷でいるものは少なく、死屍累々の有様。そして時間とともに負傷者だったものが死者に変わっていく、手のつけられない状況であったのだ。


 そんな敗残軍の中で、中央に位置する紫色の巨大な天幕。


 皇国と、皇国皇帝の御旗を掲げた、ヘンリ=ドルマンの天幕だった。


 内部では――中央の巨大な寝台の上に意識不明で横たわる、ヘンリ=ドルマンの姿。


 もはや誰であるのか分からないほどに全身に包帯を巻き立てられ、重体の彼。それに対し、周囲には数名の法力使いが交代で治療看護にあたり、集中治療の様相を呈していた。


 その寝台の脇に、一回り小さな、もう一つの寝台。


 その上に横たわっていたのは――。

 頭部と左目、胸に包帯を巻いて目を閉じる、“三角江ハーフェン”の四騎士サッド・エンゲルスの姿だった。


 その閉じられていた右眼は、徐々に、徐々に開き始めていた。


「う……」


 頭にまず痛みを感じて押さえつつ、ゆっくりと上体を起き上がらせるサッド。

 そしてゆっくりと、周囲を見回す。


「ここは……?」


 一瞬、自分の状況を把握しかねるサッド。その彼の視界に――。椅子に座ったまま自分と寝台にしなだれ掛かるようにして眠っている――ひとりの美しい女性が入ってきた。


「ミ……ミナァン……卿……!」


 その彼女を見て――。思い出した。


 自分は意識を失う前、混戦の中ミナァンを救うべく飛び込んでいった。斬血糸を使って無数のエスカリオテ将兵を切り刻みつつ、ミナァンに襲いかかるロブ=ハルスに挑み――。

 その圧倒的強さの前にミナァンを守りきれず、ジャックナイフの刃が目前に迫った。たぐり寄せられた記憶は、そこまでだった。


「う……ん……。はっ……! サッド!! 気が付いたのか!!! 良かった……!」


 寝台の動きを感じて飛び起きたミナァンが、貌を輝かせてサッドに語りかける。


 サッドは顔面蒼白で震えたまま、ミナァンに問うた。


「ミナァン卿……。俺は貴方を助けられずに敗れ気を失った。

あれから……どうなったんです? 皇国は……皆は一体……!」


 それを聞いて――ミナァンの美麗な両眼から見る見る、涙が溢れ出してくる。


「皇国は……敗れた。完全敗北だ。

あちらで今、絶対安静の状態の陛下が奮闘されたが――。“魔人”ヴェルの前に敗れたのだ。

正直、この後助かる可能性は――非常に低い。左半身を寸断され、左腕と左足を失い、恐ろしく多くの血液を失ったからな」


「……!!!」


「ソルレオン陛下も瀕死の重傷となり、キメリエス殿下とともに連邦王国に敗走中。

イセベルグと私はどうにか無事だったが……。

ドルマン陛下を守ろうと……“魔人”に立ちふさがった、レオンとランドルフは――戦死。

そのあと……そのあと……ううっ!!! カール……も、カールがっ!! うう……ああああ……」


 悲しみに耐えきれず、ミナァンは感情をほとばしらせ、泣き崩れてサッドの腕にすがりついた。


 ミナァンの栗色の髪をそっとなでながら、サッドは茫然自失の状態だった。


「皆……皆、死んだ……と……」


 何という、ことなのか。


 確かに――サタナエルと手合わせしてすぐに、サッドの中に予感はあった。


 この連中は、人間ではない。非情さという意味でももちろんそうだが、あまりにも、強さの次元が、棲む世界が違う。


 自分たち皇国も、強い。将を討ち取り、この連中に多大なダメージを与えることはできるかも知れない。

 だが――勝つことは、できないのではないか。皆――命を落とすことになるのではないか。そんな嫌な予感が胸をかけめぐってはいたのだ。


 それは完全ではないものの、的中した。皇国は無残に敗れ、主君は瀕死となり、大切な仲間が――自分の知らぬうちに、尊い命を落としていた。


 “三角江ハーフェン”の四騎士。かつて国家の命運を握る戦いから生き残り、再興を誓った。軍の中枢をにない、5年の間、国防に絶大な貢献をした。その契りを交わした義兄弟たるかけがえのない友、仲間――。


 エティエンヌ、ランドルフ、レオン――。そして義兄弟の長兄、主君としても仰ぐ、元帥、カール。


 皆死んで――自分ひとりが、おめおめと生き残った。

 全く皮肉にも、中央軍から外され単独で、不名誉な暗殺任務に就いていたおかげで。


 絶望と悲しみの波が引いた後、サッドの中に押し寄せたのは、激烈な怒りと復讐心だった。


「ミナァン卿……。俺は、傷がふさがり次第すぐに、エスカリオテに向かいますぜ」


 サッドのその言葉に、涙に濡れた貌をミナァンは上げた。


「……サッド……」


「どうせ、捨てたものとあきらめていた様な命だ。野郎どもにせめて、一太刀浴びせねば気がすまん。

 “魔人”ヴェル、フレア、ロブ=ハルス――誰でもいい。この死の運命をもたらしてきた悪魔の誰か一人でも、俺の命と引き換えに地獄に落としてやる。

力及ばぬかも知れないが――決して、このままでは済ませねえ……!!」


 歯ぎしりを始めるサッドの横貌に、ミナァンの貌色も、即座に変わった。


「その決死行――。私も行かせてもらう、サッド」


「ミナァン卿――そいつは――!!」


「止めても、無駄だ。私もね、お前と同じことを考えていたんだ。全く同じことを。

カールはね……ヴェルに切り刻まれて死んだけれど、『胸から上は』奇跡的に戦車の上に残って、持ち帰ることができたんだ」


「――っ!!! くっ!!!」


「カールの、死後固まった貌の表情。陛下を守れたことに満足してはいたけれど、やっぱり――無念に満ちた表情だった。ここで、敗れて死ぬことに対して。

奴ら――このままじゃ済まさない。必ず、この報いを受けさせてやる。私は、逃げながらそう心に誓っていたんだ。

陛下を守り、ここの撤収をまとめる指揮官には、イセベルグに就いてもらう。もう彼には、そのことは話してある。一緒に、行こう、サッド。私達で、必ず奴らに目にものを云わせる。一人でも多く、奴らを殺す。

そのために、私達はエスカリオテには向かわず、まずレエテとナユタを探すんだ。

彼女らに助力するのが、最も近道だと思うから――」


 ミナァンはベッドのシーツを強く握りしめ、憤怒をたぎらせるのだった。





 *


 同じ頃、カンヌドーリア公国首都、アヴァロニア近郊。


 アヴァロニアは、平野部にあって城塞としては強力といえない都市だが、周囲に森林の多い土地柄だ。

 これが――現在の公国の治安の低下も相まって、旧ドミトゥス派兵士の敗残兵の野盗化、サタナエルやエグゼビア公国の間諜や暗殺者の潜伏など――。良からぬ連中の絶好の隠れ家となってエストガレス王国“女王”オファニミスの悩みの種となっていた。


 現在まだオファニミスの基盤は脆弱だ。まして国全体が突然荒野と化してしまったかのような戦後の状況、国内で最も被害を受けたのが他ならぬ王都ローザンヌであることもあって――。オファニミスが王都に帰還して正式に戴冠できるようになるのは当分先。それまでは少しずつ復興を進めながら、女王に降りかかる火の粉を確実に振り払わなければならない。


 その後者の重要な施策に関して――。オファニミスの持つ最強の武力となった、“夜鴉(コル=ベルウ)”の占める役割は非常に大きなものだ。


 王都から散り散りになっていたエストガレス軍特殊部隊に招集をかけ、なんとか数百人規模の部隊の体裁を整え、対策と警備に当たらせているものの、手が回りきらないのが正直なところだ。


 ことに――野盗や、エグゼビアの間諜程度なら通常の特殊部隊員でもなんとか対応できるが、

サタナエルが相手となると――。これに確実に対抗できるのは、“夜鴉(コル=ベルウ)”の中でもシェリーディアとダフネの二強だけに限られる。


 

 この日も、朝から彼女らは出動していた。首都西側の森林で、兵士数十名を一瞬で殺戮した化け物に関する通報を受けて。駆けつけてみると、やはり潜伏したサタナエルの一員だった。

 エスカリオテでの大戦の準備の報どおり、大半はそちらに招集されているのか、かなり数は限られてきたが――。まだまだサタナエルは、王国から完全に手を引いたわけではなさそうだ。


 シェリーディアとダフネは森林の中を並んで歩いていた。ダフネの左手には、布に包まれたサタナエル兵員の男の首がぶらさがり、その全身は返り血で真っ赤であった。シェリーディアも、もちろん同様だ。


「まったく……キリがないな。サタナエルというのは、一体どれだけ人員を抱えているんだ?

私達はこれから、何人倒さなくちゃならない? 100人か? 1000人か!?」


 苛立って首を横にふるダフネに、シェリーディアは肩をすくめて云った。


「もう、そこまで人員は残っちゃいねえと思うぜ。アタシが居た、レエテ出現前の完全な体勢時で、ギルドの人員は300人とちょっとぐらいだったはず。それから今まで、各ギルドがレエテ達やアタシ達に叩かれて数が激減してるのに加え、西の大戦で被害を受けるようなことがありゃあ……。もう20~30人ぐらいしかギルド員は残らないかも知れねえ。

もっとも、そうなった事例は過去にないから、奴らが何をしでかしてくるかは分からない。王国に狙いを定めて集中砲火を仕掛けることがあれば――今の状況どころじゃねえが」


「それは――その状況は、何があってもご勘弁願いたいところだな。

それでシェリーディア。今日の約束は忘れていないな? お前がレエテから盗んだという “螺突”。あれを私に教えてくれるという約束を」


「ああ……忘れちゃいねえよ。アンタはアタシと『剣の師匠が同じ』だけあって、筋がいい。教え甲斐もあるしな。

その代わり――明日は、アンタのほうが抜刀術の講義の続きをしてくれる予定だからな。忘れないでくれよ」


「ああ――」


 ――ダフネは、返事を返そうとしてすぐに、声を消した。


 そして音もなく腰を落とし、一つしかない目でシェリーディアに目配せする。


 云われるまでもない。シェリーディアは彼女より若干早く、気づいていた。

 すでに無音で、背中の“魔熱風パズズ”を抜き放っている。


 誰か、居る。茂みのどこからか、彼女ら二人を見ているのだ。


 しかも――突き刺し射抜くような、その鋭い視線。只者ではない。

 

 もしかしたら、自分たちを凌駕する、強者の可能性もあるほどだ。

 

 目で合図しつつ、シェリーディアとダフネは互いに背中を預けて構えをとった。


 360度、どこからかかってこられても、準備は万端だ。


 只者ではないが、しかし複数でないことを彼女らは確信していた。


 敵は、確実に、一人だ――。



 そしてその時は、突如として訪れた!


 茂みの中から現れた影、そして同時に放たれた、横一閃の強光フラッシュ


「ぬうああああ!!!!!」


 自分の側に現れたその光――いや、「斬撃」を、死に物狂いで見極め、刃を会わせるシェリーディア。


 巨大な金属音ののち、地上に降り立った不吉な影。


 ほんの一瞬、眼に捉えられたその姿を、シェリーディアは認識できた。


「――アスモ――ディウス――!!!」


 そう、その只ならぬ襲撃者は――。


 刀法、抜刀術の開祖にして、シェリーディアの――そして弟子となっていた時期は別ながら、ダフネの共通の剣の師である男。


 剣聖アスモディウス・アクセレイセスに他ならなかった。


 シェリーディアの表情は、鬼気迫るものになった。

 ファルブルク城でこの男と遭遇したドレークの情報によれば、現在は、サタナエルに与する敵である。

 元々世俗の事情に全く興味のない男であったが、唯一金にだけは比較的強欲だった。

 サタナエルに雇われているのだとすれば――。これほど脅威となる存在はいない。


 凄まじい反応速度で爆炎ボルトを放ったシェリーディアの攻撃は、虚しく空を切り、剣聖の居た地面を爆炎で覆うのみとなった。


 すでにその姿は、反対側のダフネのもとにあり、彼は鞘に収めたブレードの柄に手をかけていた。


 同じくブレードの柄に手をかけるダフネと、抜刀術の正面対決となった。

 その状況は――。通常ならば、相手になるものなどいない。だが――眼前の男は、唯一の、「例外」だった。


「魔影流抜刀術 “神閃”!!!!」


「鬼影流抜刀術 “昇陽の閃”!!! 」


 交錯する抜刀の軌跡。しかし、勝敗は放つ前から決していた。


 最大奥義で応戦したダフネに対し、アスモディウスは比較にならない速度で抜刀を完了していたからだ。


 目視できないまま鞘に戻ったブレードの柄に手をかける、アスモディウスの前で――。


 上方に向けてブレードを抜き放ったままのダフネは、胸から血を噴き出しながら崩れ落ちていった。


「ダフネえええ!!!! 畜生っ!!!!」


 必死の形相で身体を反転し、刃で応戦しようとする、シェリーディア。


「赤影流断刃術 “落陽の閃”!!!!」


 刃をまとわせた“魔熱風パズズ”の剣に、爆炎をまとわせつつ放つ、戦友ダフネから授けられた“鷹落の閃”の改良版だ。


 そのスピードとプレッシャーは、アスモディウスに本気を出させたようだった。


 すかさず刃を抜き放ち、完全に炎刃に合わせて受け切る。


 鍔迫り合いに持ち込んだシェリーディアは、貌をじり、じり、と近づけてアスモディウスに問うた。


「よお……! 久しぶりじゃねえか、剣聖……。ドゥーマにフラッと現れて、迎えたアタシに技を教えてくれて以来……1年ぶり、てとこかなあ……。

あれから色々あって……アタシは今サタナエルじゃねえんだよ……。そのアタシにとってアンタは今、『敵 』で間違いねえんだよなあ……?」


 アスモディウスは、鋭い眼光を返し、云った。


「司令……お主ハそれがしが技を授けた者の中では最高の筋を持っておっタ。それゆえ惜しいガ……。それがしはお主ノ、敵ダ。

それがしは今ダリム公に雇われ、その依頼でダレン=ジョスパン抹殺に動いていル」


「!!!」


「お主らが今ダレン=ジョスパンの配下であることハ、それがしには知れていル。よって、吐いてもらウ。奴は今、何処に居るのダ?」


「誰が……てめえなんぞに教えるかよ!!!!」


 叫ぶが早いか、シェリーディアは刃に込めた爆炎を始動させる。


 だが――それを見抜いていたアスモディウスは、おめおめその瞬間を待ちなどはしなかった。


 彼はその前の僅かな隙を突き、恐るべき圧力でシェリーディアを突き飛ばしていた。


「ぐっ!!!」


 距離をとられたゆえ、爆炎は完全に空を切った。それが晴れた先。

 

 完全に、予測し反応はしていた。なのに、間に合わない。


(どんだけ馬鹿げたスピードだよ……これじゃあまるで……まるで……「あいつ」みたいじゃ……)


「魔影流抜刀術 “白波”!!!」


 下段から襲いかかる超々速度の斬撃は、反応していたシェリーディアの防御も虚しくすり抜け、彼女の両の腿を切り裂いていた。


「ぐあっ!!!」


 

 たまらず地に膝をつくシェリーディア。そこに近づき見下ろし、ブレードの切っ先でシェリーディアの顎を突くアスモディウス。


「勝負あっタ。死にたくなくば教えヨ。ダレン=ジョスパンは今、何処に居るのダ?」


「死んでも、教えねえ……絶対に、だ」


 アスモディウスは、シェリーディアの両眼をじっと見た。


 剣聖の鍛錬を極めた眼は、彼女の絶対の意志をすぐに感じ取った。


 アスモディウスは薄く笑いを浮かべ、ブレードを引いて鞘に収めた。


「――?? どういう、ことだ!?」


「お主は、言葉どおり奴の居場所を漏らさんと分かったから諦めタ。それだけダ。

お主、女として奴に惚れておるナ?」


 それを聞いたシェリーディアの貌が、こんな時にも関わらず、見る見る真っ赤に染まった。


「ち……ちが……!」


「試すまでもなく、そちらのダフネも同様に漏らさんであろウ。軍に入隊する前、何年も鍛えてやっタ。気性は知っておル。まあ互いを人質に取れば漏らすかもしれんが、それハそれがしの流儀に反すル」


 ダフネがアスモディウスを振り返って云う。


「アスモディウス師……」


「模倣を許さぬそれがしの技を、オリジナルの流儀としてそこまで昇華させよっタ器を消し去るのと、金のために得る情報。どちらが優先か考えるまでもなイ。

もとよりそれがしは、奴を探し回るよりモ――。サタナエル本拠にて奴を待つのが最上と考え始めておったところであっタ」


「ほ……本拠に……?」


「左様。奴はそれがしと方向性は違うようだが――力の、亡者ダ。この大陸で一番、というようなものではなイ。己の中で渇望する、どこまでも手の届かぬ遠き天上の、それダ。奴を調べるうちにそれが分かってきタ」


「……」


「サタナエルの追い詰められた状況も、知っタ。今あの本拠に入れバ――。おそらく世界でも史上稀に見ル、真の修羅の戦場に出会える予感がしていル。ダレン=ジョスパンも間違いなくそこに吸い寄せられて来ル。正直金も魅力だガ、その渦中に身を置きたい欲求もそれがしの中に芽生えておル。どちらの利も得るため、それがしは征くのダ。

お主らも――それだけの技を身に着けた修羅の一人。目指してハ、どうダ? 修羅の戦場を――フフ……」


 それだけ云い残すと、アスモディウスは背を向けて風のように、去っていった。


 取り残された、彼の弟子であった剣豪女性二人。ダフネがどうにか立ち上がり、シェリーディアに手を貸して立ち上がらせた。


「傷は、浅い――。最初からアスモディウス師は、我々を殺す気はなかった。

まさかあの言葉を云うために? さすが、武を極めた超越者というべきか――。常人には理解できない思考をお持ちなのかも知れない……」


 シェリーディアは、微笑みを浮かべて、アスモディウスの消えた方向を睨んだ。


「……いいや、案外、真実を突いた言葉かもな。

アタシたちの力は、今こんなところで遊ばせていていいものじゃない、てことかも知れねえ。

エスカリオテの戦況を確認する必要はあるが、サタナエルを、滅ぼせる絶好のチャンスという可能性はあるんだ……。

それにあいつの云うとおりダレンは、たしかに目指すだろう。本拠を。

今ダレンはファルブルク城の地下に密かにこもってるが……それが終われば、力のはけ口を求める。そんな気はしていた。だから……。

いや……いいや。今はいずれにせよ、オファニミスに状況を報告し、情報収集と出立の準備に動く」


 シェリーディアは、複雑な表情を見せつつも――。


 おそらくザウアーから情報を受けたであろう、出迎えのビラブドの声がする方向へ、ダフネとともに歩みを進めていったのだった。

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