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サタナエル・サガ  作者: Yuki
第八章 皇国動乱~幽鬼と竜壊者
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第二十八話 竜壊者レヴィアターク(Ⅰ)~対峙

 大魔道士、皇帝ヘンリ=ドルマンが裏切り者メディチを討った、その二時間後――。

 エルダーガルド平原。


 レーヴァテインが画策したレエテの包囲網は――ついに完成を見ようとしていた。

 

 最大最悪の存在の、到着を以って。


 それは同時に、修羅場と化していたこの戦場を、真の地獄の坩堝(るつぼ)に叩き込むこととなった――。


「――ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ――!!!!!」


 最大音量に達した、人ならざる地獄の使者の咆哮。


 次の瞬間、最後の樹々をなぎ倒す轟音とともに跳躍――。地響きを立てて地に降り立ち、姿を現した、死の巨人。


 あまりの非現実感を伴ったその恐るべき姿は――。その場で戦闘を繰り広げていた戦士・魔導士達の手を完全に止めさせ、強引に視線を釘付けにさせた。


「……何……だ……ありゃあ…………!」


 その一人、ホルストースが目を見開きつつ、恐怖を内包した呻き声を、上げる。


 背丈3m半を遥かに超す、人間を超越した巨体。

 

 森林での迷彩を目的にしていると思われる、エメラルドグリーンに黒い隈をあしらった全身の重装鎧と、禍々しい仮面を備えた兜。

 

 そしてこの存在最大の脅威である、手にした巨大金属塊――。シュメール・マーナの魔神ギャバリオン・ガルムの神器と呼ばれる、戦鎚“デイルドラニウス”。


 この場の全ての者に恐怖を。味方には畏怖を込めた安堵を。敵には絶対の絶望を――。

 それぞれ強い感情を植え付ける、存在――。


 サタナエル“斧槌(ハンマフェル)”ギルド将鬼“竜壊者ドラゴンバスター”レヴィアターク・ギャバリオンは、視界に捉えたレエテに向け、この場における第一声を放った。


「レエテ・サタナエル……!!! 遂二相マミエタナ……!!!

一年前ノアノ時……『本拠』デ大人シク“魔人”二狩ラレ、マイエト共二地獄二堕チテオレバヨカッタモノヲ……!!!

未練ガマシク生キノコリ、我ガ息子同然ノ存在タチヲ、ソノ呪ワレタ手二カケテクレオッテ!!!

殺ス!!!! 肉ノ一片モコノ世二残ラヌヨウ――叩キ、摺リ潰シテクレルワアアアアアァァァ!!!!!」


 大気を震わせる、その大音量の不快なる怒声を受け――。

 レエテは、ビューネイの元からスッと立ち上がった。


 その表情は、目を細めつつ感情を圧し殺しているかのようだった。

 冷静で、かつ揺らぐことのない闘志を感じさせる、戦闘者として最良の状態(コンディション)と見えた。


 今回レーヴァテインに与えた策によってフレアが意図していたのは、ビューネイとの精神を削る死闘によって疲弊しきったレエテを、レヴィアタークに(まみ)えさせることだった。

 結果は、ビューネイが過去のレエテとの記憶の糸から正気を取り戻し、むしろ彼女を守らんとすることにより――。

 却ってレエテの闘志を増幅させ、失敗に終わった。

 今や彼女は、失った家族の為の復讐の意志と、失いつつある家族を守る意志を噴出させる鬼となったのだ。

 

「その言葉、そっくりお前に返してやる、レヴィアターク・ギャバリオン……。

私の怒りは――その一年の間、静まることなく、より強く増幅され続けてきたのだ。

今ついに前にしたお前を!! 私は!!! 殺す!!!

アラネアと、ターニアの魂に報いるため、ビューネイの復讐のため!!! お前を地獄に落としてやる!!!!!」


 言葉を終えると即座に、レエテは攻撃を開始した!


 何の奇もてらいもなく、真正面から、一直線に全力疾走してレヴィアタークに近づく。


「ウオオオオオオオオオ!!!!」


 レヴィアタークが咆哮とともに、すでに振り上げていた戦鎚を、真っ直ぐに振り下ろす。


 ――とてつもなく、速い。これだけの巨大物体が動くのに必要とされる、物理法則を全て無視したかのような神速の振りだ。

 常人では全く視認できぬスピードだ。真っ直ぐに振り下ろす単純な攻撃ながら、その対象に何ら対処をさせずに絶対的な破壊力で葬り去る必殺の一撃だ。


 しかしレエテは、これをその動体視力の範疇に捉えつつ、十分な余裕をもって反応した。

 進行方向と直角、右方向に大きく跳躍してかわす。


 目標を失った金属塊は、まるで天空より隕石が落下するかのごとく轟音とともに大地に落ち、あまりに大きくそれを抉り取った。


 レエテは全力の踏み込みでそのままレヴィアタークの左後方へ回り込み、その場で下半身を落とし、両脚を大地に固定させた。


 左手を突き出し、右手結晶手を大きく右回りにねじりながら引き、たわませた上半身全体に力を込める。それら一連の動きを、以前とは比較にならない速さで完了させる。

 

 “螺突”だ。このまま、レヴィアタークの左脚を破壊し、機動力を奪うのが目的だ。


 必殺の技を、放とうとしたまさにその瞬間。

 突如として上半身全体に受けたあまりに強力な衝撃に、レエテは足を大地から引き剥がされ、身体を後方に吹き飛ばされた。


 大地を抉りながら身体をようやく止めたレエテ。10mほども吹き飛ばされたその場所から、彼女は驚愕の光景を目の当たりにした。


 それは、レヴィアタークが振り下ろしたはずの“デイルドラニウス”をそのまま左後方に引く形で――。3m半に達する長い柄の先端にある鋼球部分を自分の方向に向けて突き出している姿だった。


 叩き潰すだけではない“デイルドラニウス”の性能。何よりも、全力で振り下ろしたはずの得物を、相手の動きに合わせて瞬時に逆方向の攻撃へと対応させる、人間技と思えぬ技巧。

 その巨体から想像もできぬ繊細かつ強力な技を放ったレヴィアタークに、改めて戦慄を覚えるレエテであった。


「コノ儂ヲ侮ルナヨ……。一年前ノアノ時、儂ハ確カニマイエ・サタナエル二不覚ヲ取ッタ。

コノ儂ガヨモヤノ力負ケヲ喫シ、ソガールヲ容易ク吹キ飛バシタソノ返ス手デ、生マレテ初メテ力ズクデコノ腕ヲ折ラレタ。

ダガソレハ、アクマデアノ化物ガ相手ユエノ話。

オ主ゴトキガ相手ナラバ不覚ナド取ラヌ。ソガールヲ斃シタト聞イタトキハ驚イタガ、所詮ハ策ヲ弄シタ上デノ勝利。コノ儂ニハ通用セヌ」


 レエテは、レヴィアタークのその言葉を、事実として実感していた。

 そして今はソガールの時と違い、自分は一人、策を授けてくれる仲間もいない。このままでは目前の怪物に太刀打ちする術はない。

 どうする――? 一筋の汗を流しながら立ち上がったレエテは、攻め入る術を見いだせず停止せざるを得なかった――。



 *


 一方、戦闘を再開していたレーヴァテインとエティエンヌ。


 エティエンヌもまた、レエテと同じく敵に攻め入る隙を見いだせず膠着状態に陥っていた。


 相手はしかも、自分を見下し手加減している状態。レーヴァテイン最大の武器である魔導を封印した状態であるにも関わらずだ。

 回転斬りを主体とした今のレーヴァテインを斃すには、決定的なカウンター攻撃で地上に叩き落とすしか方法はない。しかし現状、全て受けきられるか流されて上方の岩場に逃れられており、彼も大分消耗してきていた。

 

「どうしたのー? エティエンヌ! 何か攻め手が鈍ってきたみたいに感じるけど?

もうあきらめちゃったの? あたしは、あんたと遊べていますごく楽しいんだけどなあ!?

あたしは、あんたの綺麗な髪や貌に触れるまで、攻撃の手をゆるめる気はないけどお!?」


 レーヴァテインの挑発に、力ない皮肉の笑みで答えるエティエンヌ。


「あきらめてはいない。が、己の不甲斐なさに失望はしているよ。ナユタの力になれない、この僕の力不足にね」


「へえー!? 何、あんた、あの柄の悪い性悪女のこと、もしかして好きなの!?

あははは、趣味悪ううううー!! ――と同時に、とんでもなく気分悪いわ。

気が変わった。もうコレ以上のお遊びは終わり。次の一撃で、あんたを地獄に落とす!

そしてあの性悪女の絶望に歪んだ貌を拝んでやるわ!」


 大きく機嫌を損ねたらしいレーヴァテインが、ついに封印していたその魔導を発動する。


 その身に一気に宿したのは、青白い、炎だった。


 以前連峰のダーレイ山で魔導を見せたときは、ナユタの模倣の域だったゆえか、同じ紅蓮の炎だった。が、それからさらなる鍛錬を積んだと見え、己のオリジナルの炎を纏うに至ったようだ。


 そしてそのまま全力で身体を反らせ、一気に力を解放し、青白い炎をまとった金属の回転体と化し、エティエンヌに襲いかかる!


蒼炎回転殺(リーラマパリーダ)!!!」

 

 見て、分かった。その魔導は、自分よりもはるかに上。耐魔(レジスト)で防ぐどころか軽減も不可能だろう。

 死を、覚悟した。主君に、四騎士達に、孤児院の仲間たちに、そしてナユタに。

 心の中で、侘びていた。不甲斐ない自分ゆえに、先に逝くことを。


 圧倒的な熱量を感じ、まさに斬殺されるかという、その瞬間。



「エティエンヌ!!!!」


 声が、聞こえた。それも――彼にとって、最も聞きたかった、その声。


 声と同時に、彼と、死の炎の輪との間に、放たれた。救いの力が。


魔炎煌列弾(ルシャナヴルフ)・螺突の型!!!!」


 竜巻のように螺旋を描く爆炎が、レーヴァテインの形作る炎の輪を打つ。

 同威力の魔導により弾き飛ばされたレーヴァテインはどうにか岩場の上に着地し、憎悪に満ちた邪悪な表情で、その魔導の主に殺意の視線を向けた。


「ナユタ・フェレーイン……てめええええ……!!!」


 そう、そこで魔導発動の構えをとっていた救いの手の主は、まさしく――アルケイディアから全力の行軍をもって戻った、ナユタその人であった。

 そしてその後方には――馬車を飛び出し、駆けてくる二人の人物――。

 弓を構えたキャティシアと、なかった筈のその右手に新たな魔導義手を装着した――ルーミスの姿であったのだ。


「ナユタ!!!! 皆も、よく無事で!!!」


 エティエンヌの喜びの声に、ナユタは笑みを浮かべた。


「遅くなったね、エティエンヌ。このあたしが来たからには、もう大丈夫だ。

おい、レーヴァテイン!!! あんたとのコルヌー大森林以来の因縁、いい加減ここで決着をつけてやるよ!!!

そしてキャティシア! あんたはホルストースを! ルーミス! あんたはレエテを、援護しに行ってやってくれ!

目にものみせてやるよ、サタナエル。“血の戦女神”レエテ一派。その全力の反撃をもってしてねええ!!!!」

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