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サタナエル・サガ  作者: Yuki
第八章 皇国動乱~幽鬼と竜壊者
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第十四話 祝福されざる、邂逅

 シエイエスが妹ブリューゲルと再会を果たした、その同じ頃。


 同じエストガレス王国領内で、ヴァルーサとは西と東に大きく隔てた場所、ドミナトス=レガーリアの国境にあるファルブルク領。


 云うまでもなく王家に連なる大貴族、王位継承権第四位のファルブルク公爵ダレン=ジョスパン・ファルブルク・エストガレスその人の所領である。


 ダレン=ジョスパンは、己の私的目的の失敗と対照的にまずまずの成功裏に終わったバレンティンでの外交公務を終え、エストガレスへの帰途についていた。

 そしてこのファルブルク領で、同行していたオファ二ミスと別れ、己の近衛兵200名のみを引き連れて己の居城ファルブルク城に立ち寄ることに決めた。

 用兵に長けた近衛兵長ドレークだけはオファ二ミスに同行させたが、ドミトゥス王子の手を封じた現時点において、オファ二ミスの命を狙う者はこのエストガレスにはいない。完全に安全と判断してのことだった。

 こうしてついに偉大にして恐怖の主が、所領に帰還することになったのだった。


 普段王都に滞在していることが多いダレン=ジョスパン。現在まで長期に亘りドミナトス=レガーリアに滞在していたのだったが、領内においてはさして変わる所はない。

 最も領民が恐れるのが、主が帰還したときだ。1年に一度訪れるこの機会にどのような災厄が降りかかるか、それが領民たちの最大の恐怖の元であった。


 折り悪く天候は悪化の一途をたどり、雨足は強くなり空には雷鳴が轟くに至っていた。

 ダレン=ジョスパンを乗せた馬車は山岳方面に北上し、ようやくファルブルク城に辿り着く。


 由緒正しいローザンヌ様式で建てられた、高さ60m、周囲1kmに達する巨大な居城だ。

 さすがに、国内序列第二位の大貴族の居城に相応しい威容である。

 ただし――その中で行われている悍ましい各種生物実験の噂を含め、その古めかしいといえる外見は一種不気味さも醸しだしていた。


 ダレン=ジョスパンは馬車を降り、衛兵の開けた正面ドアまで足早に走った。

 それでもこの強い雨のおかげでずぶ濡れになり、水の滴るマントを衛兵に渡し、後で自室まで着替えを持ってこさせるよう申し渡した。


 赤、ではなく一面青い絨毯が敷き詰められた廊下。ダレン=ジョスパン自身の趣味で統一させたインテリアだ。

 しばらく歩き、大階段を上がって、自室の前に辿り着く。

 そこは、一際大きく立派な大扉だった。


 彼の意向で、ここにはあえて衛兵を置いていない。

 プライベートを侵されるのを極端に嫌うゆえだ。

 彼は自分で大扉を開けて中に入り、中から厳重に鍵をかける。


 室内は真っ暗であり、時折窓の外で煌々と光る稲光が唯一の灯だ。


 それを頼りに燭台を手に取り、もう片方の手で火打ち石を手にした――。その時だった。


 ダレン=ジョスパンは突如として背後に、一人の人間の気配と、常人のものではない凄みを秘めた闘気を感じたのだ!


「何者だ!!! そこに居るのは!!!」


 ダレン=ジョスパンは気配を感じた先を見た。そこは、窓を背にした自室の執務机の前だった。

 そのとき、雷鳴とともに強烈な一本の稲光が走り――。

 一瞬、その侵入者の姿を明るく照らし出した!


 その姿は、女性のものだった。

 170cmほどの身長。黒い大きな帽子と軍用ジャケット。そして背中に背負った信じがたい大きさの巨大クロスボウ。

 武人として、その異様なクロスボウにも目を惹かれたのはもちろんだが――。

 ダレン=ジョスパンが最も目を惹かれたのは、この女性がもつ美しさと肉体の魅力だった。

 おそらくは20代前半なのだろうが、その年齢に比して童顔で可愛らしい顔だち。

 長い金髪を一本の三つ編みにしている。

 そして軍用ジャケットの下は、 露出度の高いレザーの衣装、スカート、ロングブーツ。覗く肌は抜けるように白く、太腿と腹には鍛えた筋肉が浮かび上がり、その上には豊満な乳房が自己を主張している。


 そして稲光が収まり、室内は再び暗闇に包まれた。


 侵入者である女性――シェリーディア・ラウンデンフィルは、その場を動かず、武器を抜くことなく、ダレン=ジョスパンに向かって話しかけた。


「勝手に部屋に忍び込んだことはお詫びするよ……。エストガレス王国ファルブルク公爵、ダレン=ジョスパン。

アタシは、『元』サタナエル“投擲(スローン)”ギルド統括副将、シェリーディア・ラウンデンフィル。

アンタとぜひ、話がしたくてここまで来た。

帰還の情報はつかんでいたから、城内にあらかじめ忍び込んで屋根裏に身を潜め、アンタの入室とともにここに降りてきたって訳だ」


 さらりと云ってのけはしたが――。ダレン=ジョスパンはこの突然現れた女性の恐るべき実力を肌で感じていた。

 まず、脱退が許されないサタナエルにおいて「元」と名乗ったということは組織から逃亡した以外考えられず、命を狙われ追われる単独の身の上のはずだ。にも関わらず自分の帰還情報を易易とつかみ、タイミングを合わせたその諜報能力。

 そしてファルブルク城は、暗殺の対象になりやすい歴代ファルブルク公爵が身を守るため、国内でも1、2を争う堅牢な造りを施された城だ。その上最強を自負する自分が手塩にかけて育てた居城内の兵士は、簡単に狼藉者の侵入を許すような腑抜けではない。これも易易とすり抜けている訳だ。

 統括副将といえば、サタナエルでも将鬼に匹敵する権限を持ち、副将の中でも突出した実力の者に与えられる限定称号のはず。その名を裏付ける驚異の行動に、女性への興味が極限に達したダレン=ジョスパン。


 彼は手にした燭台に火打ち石で火を付け、部屋の中央のテーブルに置いた。

 太い十本以上のロウソクの火が、どうにか不自由しない程度には広い室内を照らした。


 その上で、ダレン=ジョスパンはシェリーディアに近づきながら話しかける。


「なるほど……さすがは元サタナエル。おそるべき手並みだ。統括副将というのが事実であれば、余にとって大変興味深い話も多く聞けそうではあるな……。

だがそれはそれとして、ただ『世間話がしたくて』ここまで来たわけではなかろう? シェリーディアとやら……。お主の『目的』が何か? それを最初に聞かねば碌に話もできぬぞ」


「ああ……目的は……。アタシをアンタの元に匿ってほしい、てことだ……。

察しはついてるだろうが、アタシは今大陸中のサタナエルから命を狙われる身だ。

自分が司令をやってたドゥーマがああいうことになった責任を問われちまって、死刑になる所を個人的な事情で脱走したおかげでね……。

逃走する中で、ドミナトス=レガーリアで偶然アンタの事情を知った。レエテ・サタナエルを個人的に欲してるんだってね。それはおそらく、門外不出だった一族の秘密を知り、その人外の能力を自分のものにし、サタナエルに対抗しようとしているんだろうとアタシは踏んだ。もともとサタナエル内でも評判の悪かったアンタのこと。いつか良からぬことをしでかすだろうと、組織の中でも散々云われていたしね。

自慢じゃないがアタシは、統括副将としてあらゆるサタナエルの事情に通じている。

組織内のあらゆる戦闘技術に通じ、この複合兵器“魔熱風(パズズ)”を操り、戦力としては将鬼にも匹敵する自信がある。

アンタの目的には最大限に役に立つだろうと思うよ。どうだい?」


 彼女は嘘はついていないし、その目的も分かった。諜報力に加え、これだけ真に迫った分析のできる頭脳も持ち、まさに非の打ち所のない人材だということも分かった。基本的に手を組むことに異論はなかった。

 しかしそれらの表面的な情報よりも――。狡猾なダレン=ジョスパンはこの僅かなシェリーディアの言葉で、彼女が圧倒的実力・能力に比して依存心の強い脆い心の持ち主だということを見抜いてしまった。

 もちろんどこにも行く宛がないことは事実だろうが、これだけの実力があれば単独での生存を選択することも可能なはず。それをしないのは、孤独に耐えることができない性格だからだ。

 ダレン=ジョスパンは、これにつけ込み利用することをためらうような善人では到底無い。


「なるほど、お主の目的も、そのための売りに関しても、よく分かった。

が――。申し出どおりにしても、まだまだ余の不利益のほうが圧倒的に大きい。

サタナエルの情報もお主の実力も魅力だが、大陸中のサタナエル、将鬼、“魔人”を敵に回すほどのリスクを抱え込むわけにはいかぬ。悪いが――手を組む訳にはいかぬな」


 拒否の言葉を聞いたシェリーディアは――青ざめ、目に見えて動揺した。

 サタナエルに対するリスクは分かっている。だからこそ他に行く当てはないのだ。その上実の家族にも拒絶され、大陸でももう、ダレン=ジョスパンしか自分を受け入れてくれる可能性のある人物は居ない。

 孤独に戻るのは絶対にイヤだ――。シェリーディアは必死に食い下がった。


「じゃ……じゃあどうしたら、アタシを匿ってもらえるんだい? これ以上、どうしたら……。

何でも、するよ……。云うだけ云ってみてくれよ。……お願い、だ……アタシをアンタの元に、置いてほしいんだ……。お願いだから、ここから追い出さないで……」


「ではまず、対等の立場ではなく、余に絶対の服従を誓う配下となれ」


「う…………。分かった。

アンタの配下で、いい…………」


「次に……余にいつでもその身体を差し出す、(めかけ)となれ。もちろん、非公式、のな……」

 

 そう云いつつダレン=ジョスパンはシェリーディアに接近し、手を伸ばし――。

 豊満な乳房とブラジャーの間、スカートの中の黒いパンツの中に手を差し入れた!


「―――――っ!!!!」


 シェリーディアは表情と身体を硬直させた。彼女は23という年齢にして、未だ男との「経験」は一度もなかった。

 男に勝る圧倒的実力もあり、周囲の男に恋愛感情を抱く事はなかった。加えて上官が全て女だったことで、おもねるための行為の必要も機会もなかった。

 しかし彼女も子供ではなく、このような事態も想定していなかったわけではない。

 もう、覚悟を決めた。孤独のうちに死ぬよりマシだ。シェリーディアは涙を流し、震え声で云った。


「……わかっ……た。アンタのものに……なるけど……。アタシ、ずっと洗ってなくって……汚い……」


「構わぬ」


 一言呟くと、ダレン=ジョスパンは片手をシェリーディアの背後に伸ばして“魔熱風(パズズ)”を外す。鈍い音をたててそれが床に落下するのを待つことなく、彼女の身体を抱きかかえ、ベッドに押し倒していった。


 そして息も荒く自分の衣服を脱がしていく手を感じながら、シェリーディアは心の拠り所の名を繰り返し心で叫び、必死で恐怖と恥辱と屈辱に耐えていた。


(フェビアン……フェビアン……アタシは耐える、生き残る、生きてアンタの魂に報いるんだ……フェビアン……フェビアン……)


 城の外は相変わらず暴風雨であり――。それを体現するような荒々しい行為が、夜を徹して行われ続けたのだった――。

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