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サタナエル・サガ  作者: Yuki
第八章 皇国動乱~幽鬼と竜壊者
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第七話 三角江(ハーフェン)の四騎士

 キャティシアに云われてナユタが前方を見やると――。自分達がめざす城の天守閣の玄関口の巨大扉が左右に開いており――。

 二人の男が自分達を出迎えに出てきているのが、はっきりと見えた。

 いずれも、共通したデザインの豪華絢爛たる白銀の鎧に身を包み、それぞれ異なる見事な得物を帯びている。間違いなく、極めて高位の騎士だ。


 一人は、極めて屈強な肉体を持つ大男だった。

 2mを超す巨体、帯びている得物は背中の巨大な闘斧(バトルアックス)

 骨太な顎や頬骨、額。髪は角刈りに短く刈り込んだ短髪。大きな口、鷲鼻、眉毛のない深い目(まびさし)など、全体的に極めて強面ではある。が、その表情はとても明るく快活で、満面の笑顔を貌一杯に貼り付けている。


 対照的にいま一人は、頑健ながらもやや細身の優男風の人物。

 175cmほどの身長、帯びている得物は両の腰に下げられた、ファルカタと呼ばれる湾曲した刀身の二本の片手剣。

 すっきりとした顎のラインに、きめ細かな白い肌。髪はストレートのサラサラな、背中までの長い金髪。整った唇に細く高い鼻、流麗な眉毛とブラウンの瞳。街で歩いていれば間違いなく、一人二人ではない女性から声のかかる美男子だ。おそらく普段は極めてクールな表情なのだろうが、それが目の前に現れたナユタらを目にして明るく輝いていた。とくに――。間違いなく、ナユタ個人を真っ直ぐに見て、それに笑顔を投げかけていた。


 二人の男のうち、後者の男を目にしたナユタの貌も、一気に明るく輝いた。

 しかし、相手は皇帝直属の最高位騎士である手前、その感情をぐっと抑えていた。


 一行は扉の前に着くと、レエテを除いて皆正式な礼の形をとり、王族であるホルストース以外の3名が片膝をついた。

 そしてナユタが口上を述べようとすると、大男の方がそれを手を振って大声で制止した。


「ああ、良い良い!!! そのような堅苦しい挨拶は無用!!!

我らがノスティラス皇国“三角江(ハーフェン)”の四騎士は、民とともにあり、民のために働く理念を掲げし一団! 決して、他者に頭を下げさせることなどない!!

初にお目にかかる。私は四騎士の一人、ランドルフ・シュツットガルト!

そしてこちらは同じく四騎士が一人――エティエンヌ・ローゼンクランツだ!

ナユタどの、貴方とは旧知の仲であると、このエティエンヌから聞き及んでおる!」


 ナユタは笑みを投げかけながら、他の面々にも目配せをしながら立ち上がり、言葉を返した。


「恐れ入ります。では失礼して――。

まずは名乗らせていただきたく。私、ランダメリアのナユタ・フェレーインと申します。

そしてこちらは、ドミナトス=レガーリア連邦王国第二王子、ホルストース・インレスピータ。

さらに、エストガレスはセルシェのキャティシア・フラウロス。

法王庁元司祭、ルーミス・サリナス。

そして――『血の戦女神』と呼ばれる、レエテ・サタナエルにございます。

それでは、さらに失礼しまして――」


 正式な紹介を終えると、ナユタはこらえきれずに目の前の騎士エティエンヌに駆け寄り、思い切り抱きついた。


「エティエンヌ!! 本当に久しぶりだねえ、元気にしてたかい!? 

話には聞いていたけど、四騎士にまでなってたなんて。あたし達の中で一番の出世頭だよ。

孤児院のみんなには会ってる? おばちゃんや皆は元気にしてるかい?」


「ナユタ……元気そうで、本当に良かった。

騎士見習いに取り立てられて以来会ってないから、10年ぶりぐらいかな? 会えて本当に嬉しいよ。

もちろん、お金を渡してあげたいから時々は孤児院にも行っているよ。おばちゃんも皆も、凄く元気だ。ナユタ、君のこと、すごく心配していたよ」


「あいたた……そうか、あんたと違ってあたしは心配かけるだけで、何にも恩返しができてないねえ。……そうか、元気か、会いたいなあ、ものすごく!」


 昔話に花が咲く二人を笑って横目で見ながら、騎士ランドルフはまずホルストースに近づいた。


「ホルストース殿下!! お会いできて光栄だ! 俺は少年の時分にご尊父のソルレオン陛下とは面識あり、大変お世話になった! こうして国を成され、設けられた御子と言葉を交わせることは感無量!」


「どうも、こちらこそ光栄だ、ランドルフどの。俺も親父から聞いて、貴殿らノスティラス皇国の騎士にはかねてから憧れを抱いてた。こうしてお会いできて、俺の方こそ感無量だ」


 そして固く握手を交わし、次に――。ランドルフはレエテの前に立ち、手を差し出した。


「レエテどの!! ようやく、お会いできた!! 同胞のレオンとサッドに先を越された貴殿との面会を、心待ちにしておった!

このハルメニア大陸で唯一人、あのサタナエルに反旗を翻した真の英雄! 将鬼までも破った貴殿の快進撃、俺は心躍らせて聞いておった! 俺は心より貴殿に敬意を表し、応援する!

我が皇帝の命であることは抜きにして、どのようなことでも、俺に協力させてほしい!!」


 レエテはにっこりと笑って、ランドルフのその巨大な手を握った。


「そういっていただけて、嬉しいわ、ランドルフどの。お気持ち受け取らせてもらい、何かあればありがたくご相談させてもらいたい」


 ランドルフは感激に貌を紅潮させながら、任務に関しての口上を述べ始めた。


「それでは、我が皇帝の伝言をお伝えする! 

そちらのルーミス・サリナスどのの右手の負傷に関し、魔工匠(マスター)への魔導義肢の依頼につきこれを有償にて許可する。

ただし、国宝である魔工匠(マスター)を危険にさらすことは出来ぬゆえ、派遣はまかりならぬ。

そちらからアルケイディアに来訪いただき、郊外の工場にて処置を施せるよう動いてほしい。

これに関しては、現在こちらに滞在する魔導生物ランスロットどのを最大限サポートし、連携できるよう取り計らう所存である。

それらの処置が済み、北ハルメニアに赴かれるまでの間、ハッシュザフト廃城の自由な使用を許可する。

ただし四騎士以外の兵力は、我が立場上貴殿らに貸すことはできない。

身の守りは自力で行うよう尽力されたし。

以上である!」


 ナユタはそれを聞いて、ランドルフに向かって返答した。


「承りましてございます、ランドルフどの。ご無理を申し上げている中、皇帝陛下におかれましては最大限のご協力をいただき、感謝の念に絶えません。

以降はこのハッシュザフト廃城に滞在させていただき、一刻も早く出立できるよう努めます」


 

 *

 

 そして陽は地平線の果てに沈み、夜の帳が降りた。


 一行はハッシュザフト廃城に入り、宿泊することとなった。

 

 四騎士のうち、ランドルフは別の任務があり、廃城を後にした。

 エティエンヌは、元々強く志願していたらしく、この廃城でレエテら一行と寝食を共にすることとなった。


 これまで人目を忍び、森林での野営しか許されなかった一行にとって、この場所は天国に等しかった。

 キャティシアは狂喜して立派な一人部屋や浴室、ベッドの使い心地を楽しんだ。

 レエテは、これまで知識はあってもまともな文明に接したこと自体がないため、大層困惑した。

 何をどうして良いかわからず、ふかふかのベッドも落ち着かないため、床で寝ることに決めた。


 そしてナユタは、エティエンヌと部屋で二人、思い出話に花を咲かせ続けた。


 レエテはホルストースの誘いに応じ、二人で酒を酌み交わすことになった。



 そんな皆が思い思いに廃城での生活を始める中――ルーミスは一人、天守閣の外に出て、暗闇の庭園を月明かりをたよりに歩いていた。


 彼の目的は――天守閣に入る前に目にしていた、礼拝堂だった。


 当然ながら敬虔なハーミアの信者であるルーミスにとって、神に祈りを捧げることは日常的なことだ。

 普段は聖句と聖印を結ぶだけで行っている祈りを、正式な礼拝堂で捧げられることが、彼にとっては何よりの天国であった。


 庭園の先にある礼拝堂は、大きくはないながらも大変よく作り込まれた良質なものだった。

 絨毯はないものの、まだ整った床の礼拝場。そして「|」と「X」で形成される、石造りのハーミアの立派な聖架。

 ここならば聖なる神に礼を失しない祈りが、思う存分に捧げられる。


 ルーミスは目をうるませながら、聖架の前にまで行き、膝をついてまずは聖印を結んだ。


 そして聖句を唱え始めた。


「天にまします我らが父、ハーミアよ……。我が祈りを聞き届けられよ…………」


 そして右手はないながらも心の中で両手を眼前で合わせ、目を閉じて祈るルーミスの耳に――。

 ひとつの低いつぶやきのような声が――入り込んで来た。


「……許さぬ……地獄に落ちよ……神をも恐れぬ『戦女神』に与する罪深き“背教者”よ――。 わが怒りの雷を――受けよ」


 ルーミスは驚愕に、目を見開いた。

 声は、目の前のハーミアの聖架の向こう側から聞こえてくる。


 まさか本当に声が聞こえているとでも――?


 そして――ただならぬ「魔力」を感じたルーミスは、驚愕の表情のまま、大きく後方に飛び退った!


 次いで鳴り響く轟音と、青い一筋の稲妻!


 それはルーミスの居た場所に命中し、床に大穴を開け炎上させた。


 刮目した両眼を聖架に向けるルーミスの眼前で、その聖架の後ろに潜んでいた一つの人影がついにその姿を現した。


 それは、一人の男だった。


 全身を覆う衣装の素材には、見覚えがある。ナユタが身につけているのと同じ、アルム絹だ。

 ただし、その色は、何かに浸けたかのように、真っ黒だ。

 黒い影のようなその姿の中で、フードをはねのけたその頭上にあるボサボサの白い髪が異彩を放つ。それは貌半分を覆い隠し、深い隈が刻まれた落ち窪んだ目は、ギラギラと厭らしい光を放つ。

 口は大きく、頬まで裂け、ニタア……と嗤うその表情はひどく不気味で禍々しい。


「なあんてな……! びっくりしたかい、“背教者”ルーミス・サリナス。

神のお怒りが、ついに自分に天罰として降りかかったんじゃないか、てさあ……。

俺の名は、サタナエル“魔導(ソーサル)”ギルド、イアン・ヴァルケン。

斧槌(ハンマフェル)”ギルド統括副将ベルザリオン・ジーラッハ様の命により、我らは貴様らレエテ・サタナエル一派の掃討に来襲せり!!!!」

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