マモルの推理と『センパイ』の対峙、それと怪異の正体
ぴたり、と手が止まる。うつむいた女生徒が、口元だけでにやり、と笑う。ずるり、とその身体から赤い血が溢れて制服をさらに濡らし、赤色の血だまりがジワリ、と足元に拡がる。女生徒は血に濡れた白い腕を、奇妙に長いその腕を隙間からマモルに伸ばす。女生徒の腕は、マモルとの間にある数歩分の距離を難なく越えて、マモルの身体に触れ――ようとした。その瞬間にマモルは宣言した。
「『新荷冬芽』。これが貴方の名前ですね」
女生徒の顔が上がる。血まみれの顔に、口元だけの笑み。眼は血に濡れ垂れた前髪に隠れて見えない。
「―――アハ、は、ははハハハ」
壊れたように、女生徒の口から声が漏れる。マモルの背に迫ってきた手が次々溶けて消え、次いでマモルの目前まで伸びていた腕もまた消える。
隙間に立った女生徒はマモルを見て、にやにやと口を開いた。
「どうして、わかったの」
かすれたような、ひび割れた声。そしてその目は、やはり前髪に隠れたままで、口元のにやにやとひきつった歪んだ笑みが異様に目立つ。
「貴女のその、制服ですよ」
マモルは目前の異様な姿の女生徒に、落ち付き払って答えた。
「袖口のボタンが、三つですよね。それと、セーラー襟の長さが少し長い。あと、首の学年リボンの色も、今のカラーと少し違います。制服と言うのは、変わらないようでいて、10年くらいで少しずつデザインを変えていくものなんですよ。特に、この学校では、その方針が顕著で、制服のデザインを見れば、それがいつのものかは分かるんですよ。創設200年のこの学校の在学中の死亡例は61例。すべて覚えてきました。制服のデザインとリボンの色で、貴女がいつの時期の人かわかります。その時期に亡くなった女生徒は、自動車のひき逃げで死亡した、『新荷冬芽』さんだけです」
「ふ、ふふ、ふふふ……」
血まみれの『センパイ』――『新荷冬芽』はおかしそうに笑い声を洩らした。
「ユキちゃんの言っていたことは本当だね……この王子様は本当にロリコンかもしれないな」
先ほどの発言は、61例の死亡例――いつどんな人物がどうして死んだのか、それら全て――を覚えているのみならず、10年でマイナーチェンジする制服のデザインの違いをすべて覚えているということだ。それは確かに、少々変態じみた記憶の良さと言える。『新荷冬芽』の発言はそこを揶揄したものだが、しかしマモルはそれよりも、『新荷冬芽』のセリフに出てきた 『ユキ』という名前に反応する。
「ユキくんを……どこにやったんですか」
「悪い魔法使いの言葉は無視してお姫様一筋ってわけだ。さすが王子様だね。くっくっく、心配しなくても、あの子は私が責任もって保護しているよ」
「返してください」
「あは。そんな簡単に返すと思うかい」
「返してもらいますよ」
目線を鋭くして、細雨を腰だめに構えるマモルに、『新荷冬芽』は笑う。
「わはははは、まだ七不思議の攻略も終わっていないというのに、いきなりラスボスは倒せまい。ちゃんと謎解きしてから来るんだね」
言い終わるか否か、そこにマモルは踏み込んだが、それよりもさらに一瞬前に、引き戸は激しい勢いで閉じられた。
ガラッ!!
鼻先で閉じられた戸に、マモルはそのまま構わず斬りつけ、斬り裂くが、割れ落ちた戸の向こうは、何の変哲もない教室だった。
「ならば行くしかないですね」
マモルはひとり呟き、細雨を鞘に納めると、迷いの無い足取りで、廊下を進み始めた。
『センパイ』の正体は、言わずと知れた彼女でした。他のシリーズを読んでいる方なら、第1話から分かっていそうな正体ではありますが。