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突破するマモルとツクヨ、それと怪異『隙間女』

隙間とは何なのか。

「ふん、焼きつくせなかったか」


 不満げに目を細めるライカに、マモルは声をかける。


「本当に校舎全部焼くつもりだったんですか……。ツクヨや、あの人もいるのに」


「心配せずともそこは焼いてはおらん。むしろ道筋をつけてやったくらいだ、今にこっちへ来るさ。感謝して欲しいくらいだな」


「なるほど、さすがは魔女。周到ですね。それに、威力も。……まあ僕としては、小学生だったライカくんが、実はこんな美女だったというのが一番の驚きです。蒼緑堂こども組は、残念ながら解散ですね。ユキ君もきっとさびしがるでしょう」


 場を和ませようとジョークを口にしたマモルはしかし、ライカの剣呑な目つきに思わず沈黙した。


「本気でいっているのか、マモル? だとしたら、ユキがかわいそうだな、くっくっく・・・・」


「え?」


「ユキがこどもだと? カカカ、これだから男はバカなんだ」


「ですがユキくんはまだ……」


「15だって? それがどうした。この国も12には成人したと言うじゃないか。法も時代も関係はない、女は20だろうが10だろうが、レディなのさ。子ども扱いなんざ、もってのほかだ。紳士になりたきゃ、それくらい覚えておけ、鈍感男。いや、分かっていてそうしているんだから、もっと悪いな」


「……ユキくんは、大事な、預かり子です」


「なにが預かり子だ、ばかばかしい。自分の思っていることくらい、自分の口で伝えろ。ふん」


 首を振るマモルに、ライカはつまらなそうに鼻を鳴らし、この話題に飽きたように、いきなり背中を向けた。


「援軍が来たぞ。――あといくつだ、マモル?」


 ライカの言葉の後を追うように、空間に滲みだす様にツクヨの姿が現れた。存在感の薄いその姿は、まだ隠身の球の効果が残っているからだろう。


「これまででちょうど……」


 マモルがライカに答えかけ、口を閉じた。同時にツクヨも動く。ライカだけが動じず、ただ口の端を上げた。

 三人の周りを、無数の白い手が取り囲んでいた。


 まずマモルが動いた。腰の細雨を抜き放ち、ツクヨのそばに伸びてきた腕を何本も、手首から切り落とす。ツクヨは牙をむき出し、大きく一歩踏み出して2本の腕をまとめて噛みちぎった。そしてライカは動かず、ライカに掴みかかろうと殺到してきた数十本の手は、そのままライカの身体を抜けて空振りした。ライカは――ライカの像はそれで歪み、陽炎のように消えた。


「ハッ、その程度で魔女狩りを抜けた魔女を捉えられると思うなよ」


 無数の手の包囲網のその外から、本物のライカは言い放ち、手にした箒を大きく掃った。払われた空間にあった手は風圧に押されたようにして掻き消える。


 マモルとツクヨは間を1m程度開けて背中合わせに立つ。斬り、噛み千切った手のあった隙間から、同じように手が伸びるのを見て、マモルは苦笑する。


「隙間女、ですか。これは……どうしたものですかね」


挿絵(By みてみん)


――有る男性が部屋から出てこない。心配した友人が呼びに行くも、頑なに部屋から出ようとはしない。「動いたらだめだと言われている」と言い張るので、そんなこと誰に言われたのかと友人が聞くと、男性は部屋の片隅、たんすと壁の隙間を指差した。ほんの数ミリのそこには、赤い服を着た女性が居た。女性は、じっと部屋を、男性を、監視していたのだ――


 手は、それぞれに3人を狙って伸びてくる。指も腕も細く、少女のそれだが、血の気の無い肌の白さが夜の暗さの中迫ってくる光景は、相当の怖さがある。

 なにより隙間をその発生源とする七不思議であり、隙間さえ有れば無限にわいて出ることができてしまう。そして――腕を倒してできた空間をさえ『隙間』として生まれ出てくるこの状態は、


「きりがない……ですね」


 目前に迫る手をまた斬り裂き、返す刃で横手から迫る腕も斬り落としながらマモルは呟く。その背中で、また狼の形態に戻ったツクヨは、唸り声を上げながら次々と腕に食らいついて行く。


「ふん、こんなものに付き合ってられん。――マモル!」


 ライカは迫りくる手を再度箒で掃き払い、そのままその箒にまたがった。そして、ふわりと空中へ浮かびあがったかと思うと、マモルとツクヨの上空に移動して、マモルを呼んだ。


「なんですか、ライカ」


 迫る腕を斬り払いながら問い返すマモルに、ライカは人差し指を向けた。


「お前の願いはかなえた。そこに来い」


「え? ――熱っ?!」


 マモルは突然左手に痛みを感じ、思わず細雨を取り落としかけるが、慌てて握り直し、自分の手を見ると、手首の手の甲側に、丸く、火傷跡ができていた。


「これは……」


「魔女の出番はこれまでだ。じゃあ、せいぜいがんばることだ」


 ライカはそれだけいうと、箒にまたがったまま上昇し、天井にぶつかるかと思った瞬間、その姿は煙のように消えた。


    ※


「あはははは、やっぱり強いね、専門家は! だけど魔女さんが居なくなって、どうするのかな? ねえユキちゃん、どう思う?」


「えと……」


 笑い声を上げる『センパイ』に、ユキは引き気味に視線をさまよわせた。映像の向こうのマモルやツクヨも気にはなるが、今のところ二人とも危なげはない。それよりも――


「『センパイ』……大丈夫なんですか」


 『センパイ』の姿は血まみれで、その上両腕を肩から消している今、どうひいき目に見ても無残の一言だ。その姿のまま、本当に楽しそうに声を上げる姿に、ユキは思わずそう声をかけていた。


「あは。心配してくれるのかい。なあに、これからが本番だよ、楽しんでくれ」


 自信が血まみれになっていることに気がついているのかいないのか、血色に赤く染まった顔で『センパイ』は笑う。怪我の深さに反比例して、異様にテンションが高いことも、ユキは心配しているのだが、『センパイ』は一向に気にかける様子はない。


「一人減ってもまだ二人、これはなかなかいい勝負になるかもねえ! 本腰入れて相手してやらないと」

 そう言うと、戸惑うユキの目の前で『センパイ』はその姿をまた、霧のように薄くした。


    ※


「ツクヨ、突破します。ついて来てください」


 細雨を片手で振るい、迫る手をけん制しながらもう片手で提げたカバンを探る。取り出したのは紙四手

の付いた縄だ。輪状に結ばれている。それをかぶるように広げ、そのまま手の壁に突っ込んでいった。縄の周囲で手が弾かれ、突進するマモルに触れることができない。が、手が弾かれるたびに紙四手や縄に亀裂のような傷ができていく。強行突破でマモルが手の包囲から抜けたときには縄は粉々になって消えた。


 マモルと、その後を追って包囲を抜けたツクヨの前には、長い廊下が続いている。後ろから手の群れが追ってくる。ツクヨは再度その姿を消し、マモルは廊下を走った。廊下はどこまでも続くかに見えたが、右側に並ぶ教室のドア、その一つが、視界の先で音も無く開くのを、マモルは見た。そうしてそのドアに立つ人影を認め、マモルは数歩の間をおいて、その前に立ちどまった。ほんの少し開いたドアの隙間から見えるのは、長い黒髪を暗闇に乱し、赤く濡れた制服姿でじっとうつむいた女生徒の姿。開いている幅はごく細いというのに、何故かその全身はよく見えた。先ほどの背後霊によく似た背恰好。長い襟、色あせた胸元のリボン。背から迫る手がマモルに追いつき、その身体を掴みかかるその瞬間、しかしマモルは落ち付き払って、告げた。


「あなたの正体は、わかっていますよ、『学校の七不思議』」


隙間とは何だったのか……

次話、正体明かし。

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