そこそこの国公立大学で法学部准教授をしている俺のところへ、期末試験直前に、普段より露出度二割増の女子学生(かわいい)がやってきた。
「……あのさぁ」
「は、はいっ!」
「君、ニュースとか見ない訳? 司法試験の問題漏えいがーとか、教授と女生徒の男女関係がーとか、司法試験界隈は大騒ぎな訳よ。そんなときに、『す、好きにしていただいて構いません!』ってなんだよ。司法試験業界に止めを刺せとおっしゃるか」
「け、決してそんなつもりはありません!」
「じゃあなんだよ。問題流出とか、本当にシャレにならない時期なんだよ。司法試験作成に関わりようもない下っ端がやったことでも、時期がヤバすぎるんだよ。いくら独身ったって、業界総出で居なかったことにされるのは、まだ見ぬ嫁さんに離婚届叩きつけられるどころの騒ぎじゃないんだよ」
「問題流出なんて、そんな……。ただ、お忙しい先生には私の答案の採点の手間を省いていただいて、黙って単位を――」
「余計に悪質だわ! 事前に問題眺めながら答案を作成する手間すら惜しみやがった!」
「だって……だって! 転用物訴権だとか、瑕疵担保責任の性質論だとか、もう限界なんです! あいつら小難しいことばっかり言って、初学者苦しめて何が楽しいの!? なんで570条の法定責任説は改正法で消えるのよ! うわぁーん!」
「いや、泣くなよ。その辺、順序立ててやればそんなに難しくないから。あと、民法はまだ改正されてないから、法定責任説でも大丈夫だから。てか、弱点が分かってるなら、克服するために努力しろよ」
「ど、努力なんて一杯しました! うぅ……。教科書を一周読んで、何が書いてるかよく分からなくて、間食多くてついてきたお肉を落とすためにダイエット始めて、普段は着ないような露出の多めな服を買いに行って――」
「いやいやいや、後半完全に諦めてるよね!? 勉強捨ててるよね!? お色気戦法にシフトしたよね!?」
「あぅ……」
「かわいらしくしてもダメだからな! くそっ、二十歳過ぎてるくせにそんなかわいらしい擬音が似合うのが腹立つわ!」
「えへへぇ、それほどでも」
「褒めてねぇよ!」
「あぅ……」
「……ほんとにさ。ちょっと肌出して誘惑すれば単位を取れるって発想がふざけてるんだよ。それは、お前の全力なのか? 大切なのは、一度でダメなら、二度。二度でダメなら、三度。そうやって、コツコツと努力する姿勢なんだよ。工夫して、全力出して、どこまでも喰らい付こうって覚悟が必要なの」
「覚悟、ですか?」
「そうだよ。俺だって、未熟とは言え指導者なんだ。お前が全力で俺の懐に飛び込んでくるなら、いくらでも協力は惜しまないよ」
「全力……協力……」
「テストまであと一週間ある。お前の全力を見せてみろ!」
「は、はい!」
「はぁ、昨日は真正面からテストで不正をしようなんて女子生徒に説教することになって、大変だった。しかし、あの娘も分かってくれて良かった。さぁ、質問に来た時には、約束通りに全力で協力しないとな――ん? ノックか。はーい! どうぞ!」
「先生!」
「あぁ、その声は昨日の……は?」
「全裸じゃ工夫がないかと思って、色々考えたんです! で、色々と考えて、貝殻ビキニに落ち着きました! 昨日みたいな半端な露出じゃない、私の全力です! 今から全力で先生の懐に飛び込みに行きますから、単位取得の協力をお願いします! 私の覚悟、受け取ってください!」
「違う、そうじゃない」