第八話 青天の霹靂<帝国歴570年9月20日>
「おい、やんす!!これを二番テーブルに持っていってくれ」
「あいあいさーでやんす」
何度も名前――フィで呼ぶように言ってもいうことを聞いてくれないマスターのおっさんに諦めの表情を浮かべつつ、あっしは給仕に勤しむ。
「こちら、デガロンバーガーになりるでや……ます」
丸テーブルにあっしの頭ほどのハンバーガーが乗った皿を置く。
ハンバーガーの名前の由来?さあ?青野菜とドデカイハンバーグをパンで挟んでいるだけでやんすし、腹に入ればみな同じと思えば名前なんて飾りでやんすね。
「ありがとさんっと!!」
テーブルの席についていた坊主頭の冒険者風の男があっしの尻に手を伸ばす。
あっしは慣れた動作でハンバーガーを運んだトレーでガードしつつその場を離れる。
「いてえ!!」という男の声が聞こえるが知らんでやんす。
あっしらは無事町に着くことが出来……あっしは冒険者ギルドにベルベル草の違約金を払った。
スッカラカンのあっしらは住み込みでこの酒場で働いている。
まあ、ニサの容姿が採用の決め手でやんすね。
部屋はあっしとニサ、サフィが屋根裏部屋、火精霊とポールが物置となった。
火精霊は納得いかない顔をしていたが……兎にも角にもなんとか生活が出来る体裁を保つことが出来て一安心である。
あっし一人なら物乞いでもなんでもやるでやんすが――ニサにそんなことはさせられないでやんすしなぁ。
(「おおぅ」
ニサも現在、あっしと同じく給仕をしている。
さすがに今は男向けのサービス精神旺盛な葉っぱのドレスではなく、村人ルックにエプロンをつけた格好だ。ちなみに服代はマスターに前借した。
(「いやぁ、ニサにエプロンはオーガに金棒並みに似合うでやんすなぁ……お、酔っ払いのボディタッチを回避したでやんす」
ああみえてニサのガードは固い。心配で同じ時間――夕食どきのウェイトレスを所望したのだが、いらないお世話だったようだ。
「さて、明日は冒険者ギルドの依頼をこなしてニサと甘いものでも食べにいきたいでやんすなぁ」
そんな独り言呟きながら、あっしは需要のないエプロンを翻して夜のメンバーとの交代の時間まで給仕に勤しむのだった。
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次の日、あっしは朝一で冒険者ギルドに行き、自分に合った薬草の採取依頼を受け、近場の森に向かった。
特に道中、魔物に襲われた少女に会うことも大規模な商隊が魔物に襲われた場面に遭遇することなく――依頼分より多くの薬草の採取に成功して帰路についていた。魔物との戦闘はFランクのブルーラビットの二羽だけだった。
もちろん、薬草は根こそぎ採取するなんて馬鹿なことはせず何株かは残している。
「はぁ、最近は常識知らずの冒険者が多くなって困るでやんす。ベルベル草も奥地にいかなくても採取できたのに……どっかの馬鹿が根こそぎ採取した所為で群生地が減って、全く困るでやんすなぁ」
なるべく戦闘系の依頼はせずに採取依頼をメインにするあっしからすると死活問題だ。
戦闘系の依頼は臨時パーティを組んで望むのだが、如何せんあっしのように敵の注意を引いてパーティ全体を手助けする役割は、取り分が少なくなることが多い。あっしは罠の感知や敵の気配察知などに秀でているわけでないのも取り分が少なく一因の一つだ。
「敵の注意を引くのも大切な役割なんすがなぁ……敵の注意を引くのと攻撃をかわすのは得意でやんすのに……盾職のほうが後衛の魔法使いを守る上で重要と見られがちでやんすし……」
我が身のままならなさに辟易しながら――もうすぐ着く町を見ると、
「あれは……何でやんすか?」
あっしが目指していた10階建ての塔がある町は青いドーム上の膜のようなもので包まれていたのだった。