第五話 黄金の小麦畑(上)<帝国歴570年9月19日>
ニサを追いかけて小隊についたときには、小隊は壊滅状態だった。
馬車の荷台は破壊されひっくり返っており、護衛や商人と思わしき者、馬はワイバーンに食べられている真っ最中だった。
もはや悲鳴すら聞こえない――人の息吹は感じられなかった。
あまりにグロテスク過ぎて当分、肉は食べられないかもしれないやんす。
(「これだけの数のワイバーンで戦線を維持するなんて軍隊でなければ不可能でやんす。Sクラス冒険者や噂の”略奪の聖女”、”血公将軍”くらいしか対処は無理でやんすね」
ワイバーンの吐いた火のブレスの所為で全てではないがあちこちの馬車から炎が上がっている。
ニサの後ろ姿が見えた!!――壊滅した小隊から30mほど離れていた場所で呆然と立ち尽くしているようだ。
(「ふぅ、あのワイバーンの群れに飛び込んでいたら、あっという間に肉塊でやんす。はやくニサを連れて逃げないとやんす」
あっしはニサの肩を掴んでこちらを振り向かせる。
「ニサ、ショックを受けるのは後でやんす!逃げるでやんすよ!!」
綺麗な碧眼は涙を溜め、顔は全力で走った所為か上気しており、金色の髪は乱れていた。
「フ、フィさん、わたし……」
「そういうのはあとでやんす」
と言って手をひいて逃げようとしたとき、ニサの後ろから一匹のワイバーンがこちらに向かってくる!!
「きゃあ!!」
咄嗟にニサと頭に乗ったサフィを横に投げ飛ばしてあっしはワイバーンの方に走る!!
接敵寸前にあっしはその勢いのままワイバーンの顔目掛けて飛ぶ!!
「くっ!」
肩を軽くワイバーンの左翼の爪に裂かれながらもなんとか、顔に飛びついたあっしをワイバーンはむちゃくちゃな動きで振り落とそうとする。
「やっ!!」
隙を見計らって両手に持ったナイフでワイバーンの両目を刺し、そのまま飛び降りる。
「GYAAAAAAAAAAAA!!」
というワイバーンの悲鳴を尻目にあっしの身体は”ずしゃっ!!”と地面に衝突する。
「がはっ」
は、はやく逃げないと、でも、あっしの身体は言うことを聞いてくれない。
(「受身をまともにとれなかったでやんす。これは骨も折れているやんすね」
そもそもあっしが魔物に対して囮になって注意を引き、他のパーティメンバーが敵を討つのが本来のスタイルでやんす。単独で自分よりもランクの高い魔物討伐なんて命がけになってしまって――割りに合わないやんす。
「ひぃ、ひぃ」
声もまともに出ない。
口から血が滴り落ちる。
「フィさん!!」
と言ってニサとニサの頭に乗ったサフィが近づいてくる。
その後ろにはワイバーンの姿が――逃げろと言いたいのに声がでない。
ワイバーンはあっしらをその牙と爪で蹂躙しようとする。
その様子を無感動に見つめていると、
――ワイバーンの巨体が左右に別れてあっしの後ろにある森に音を立ててぶつかっていく――
?一体何が起こっているのか不思議に思っていると――あっしの身体に何らかの液体が掛けら身体の痛みが嘘のようになくなる――これは最上級回復薬?
「冒険者なら、回復薬くらい常備してなさいよね!!」
「アニタ、あの状況なら仕方ないさ」
「まあ、いいわ。料金は戦場だから割高よ」
「やれやれ」と言いながら白い髪に蒼い瞳、顔には傷がいくつもあり、その右手には柄頭に黄金色の水晶があるミスリル剣、軽鎧のミスリル装備の少年は昔みた妖精と話していた。
「他のワイバーンもあたしのトムが全部片付けたから。安心しなさい。」
100体以上のワイバーンを一人で?
いやはや、すごい御仁もいたものだ。
「ああ……また変なのが出てきた」
緑色の髪に、髪と同じフリルのドレスそして黄金の四対の羽を持つ妖精は愚痴るように上空をみる。
そこには――体長30mほどの真っ黒なワイバーンの変異種がいた。