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第四話 快晴ときどき曇り<帝国歴570年9月19日>


「そういえば、少年の名前って何ていうやんすか?」


「フィさん、自己紹介したじゃないですか。ポールさんですよ」


 いやはや、思った以上に波乱万丈はらんばんじょうだったのでそんなどこにでもある名前のことは忘れてしまっていた。


 盗賊団のアジトから脱出したあっしらは少年の道案内で近くの町に向かっていた。


「うーん、風が気持ち良いでやんすなぁ」



 天気は快晴……もうすぐ実りの秋が近づいてきているがそんなものを思わせない陽気ようきだ。


 最近はトラブル続きだったので、何事もなく町についてほしいものだ。


 もちろん、ニサとの出会いは幸運の女神さまのきっとお導き――いや、ニサ自体が幸運の女神さまやんすね!!


 ただ、あっしが背負っているリュックからは芋虫の魔物――サフィが顔を出している。


 表情はわかりづらいが日光にあたって気持ちよさそうにしている――ような気がする。



(「はぁ、自分の名前が含まれている所為せいか、愛着がいてきたでやんすが……町中ではリュックから出さないようにしなければいけないでやんす」



 幸い今向かっている町くらいでは荷物検査などは行っていないが、そのうちそでの下を渡して誤魔化すなりなんなりをしないといけないかと思うと溜息ためいきが出る。



(「ああ、それにニサに会う前に受けていたベルベル草の納品の期限が過ぎているでやんす」


 そのことに関しても頭が痛い、冒険者ギルドに報酬の倍の違約金を払わないといけない。

 

 もちろん、期限が過ぎてからの納品なんてご法度はっとだ。


 あっしは頭でがま口タイプの財布の中身の勘定かんじょうをする。



(「うはぁ、違約金払ったら文無もんなしに近いやんすね……どこか住み込みの酒場か何かでウェイトレスでもするやんすかね?」



 そんなことを考えているとあっしらを照らしていたお日様隠れてしまったようだ。



「なんだ。雲でも出てきたのか?」と怪訝けげんな顔をするポール。



 急激な雲の発生は雨の予兆のときもあるので、雨雲あまぐもではないか確認するために空を見上げると――



「あれは……ワイバーンでやんすか?!」



 ワイバーン――成体で体長は5mほどのドラゴンの亜種で蝙蝠こうもりのような見た目にたがわず俊敏しゅんびんだ。炎のブレスを吐く。一体の討伐につきBランク相当の冒険者が必須だ。


 ちなみにあっしはDランクのにわか冒険者でやんす。



 それが100体以上空を飛んでいる――幸いこちらは眼中にないのか……無視してくれているのはありがたい。



「フ、フィさん!あれ!!」とニサが慌てて指をさした方角には小隊がみえる。


 馬車が30以上は見える――あれはキャラバンでやんすね。


 あ、今、ワイバーンたちが急降下きゅうこうかしていったでやんす。



「ご愁傷様しゅうしょうさまでやんすね……さて、あっしらは今のうちに迂回して町に向かうでやんすか」


「そうだな」とポールも慣れたもので迂回ルートを探っているようだ。


 あっしらのような小物は危険に遭遇したときに冷静に対処できるかで生存率が変わってしまう。


 慌てず急がず、されど迅速じんそくな行動をしなければならない。



「こっちから行くといいんじゃないか?」



 さっそくポールがみつけた迂回路はちょうどあっしらの姿が上空から見えないような森の中かつ獣道でもなさそうだ。


 逃げている最中に魔物に襲われるのなんてぞっとする。


 空中の魔物に陸の魔物両方を警戒する技能なんて、三下さんしたなあっしには備わっていない。



「ナイスチョイスやんす、ポール……ニサもこちらに来るでやんす?」



 なんだかニサの様子がおかしい。


 思いつめたような顔をし、その綺麗な碧眼へきがんの瞳も揺れている。



「フィさん……サフィを頼みます!!わたし小隊の人たちを助けにいきます!!」


「ちょ……待つでやんす!!」


 ニサはあっしの静止を聞かずにワイバーンが襲っている小隊にがむしゃらに走って向かっていく。


 っていうかあの子足が速い!!あっしと同じくらいの速さがある。


 や、やばいやんす。ニサがワイバーンに辿たどり着く前に止めるのは難しそうだ。



「仕方ないでやんすね……」



 愛用のナイフを二振りを手に持ち、


リュックから予備のナイフをこれまた二振り腰にさし、


用の済んだリュックはポールに投げ――



「ポール!!サフィを頼むやんす!!」



 ニサの元に向かう!!



 それと同時に頭に何か細長いものが巻きついたと思うと、頭に何か軽い物が乗っかる感触がする。



――サフィがあっしの頭の上に触手を使い、乗ったのだ――



 芋虫型の魔物に触手があることに驚きつつ、あっしは走りながら肩をすくめる。



「どうにも、かっこがつかないやんすね」



 あっしはサフィをポールに託すのを断念して死地しちに向かうのだった。




「あぁー、俺もいくからおいていかないでくれ!!」



 と髪をむしる音をだしながらすぐ後ろをポールが追いかけてくる気配がする。



 どうやらポールはこの状況でひとり取り残されるのに耐えられなかったようだ。


 そんなんじゃ長生きしないでやんすよ?と思いつつ、自分も人のこと言えないなと思うのだった。




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