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第二話 名前<帝国歴570年9月12日>


 特に抵抗をしなかったあっしらは木の槍でつつかれながら、盗賊のアジトに連れて行かれた。


(「どうでもいいことでやんすが、目隠しとかしなくていいものでやんすかね?」


 と盗賊団の今後がどうしても心配になってしまう。


 まあ、そんなことより我が身のことをなんとかしなくてはいけないでやんすがね。







 盗賊団のアジトは天然の洞窟だった。


 あっしらは粗末な前方を木の柵で作られた牢屋の中に閉じこまれていた。


 せめてもの救いは――隣をちらりとみる。


 

 座り込んで芋虫くんを大事に抱きしめている金髪の少女だった。



(「うーん、葉っぱのドレスは普通ならエルフくらいしか似合いそうにないでやすんが……これはこれでありでやんすね。まあ、彼女にはどんなものでも似合いそうな気はするでやんすがね」――惚れた弱みでやんす。



 別々にとらわれなかったのは僥倖ぎょうこうだった。



(「それに……荷物などを取り上げられるときに芋虫くんが殺されそうになったときは生きた心地がしなかったでやんす」



 盗賊の凶剣の前に立ちはだかり、「この子を殺すならわたしから殺して!!」と物凄い剣幕だった。


 幸い大した脅威ではない魔物だったので一緒の牢屋と相成った。


「まずは自己紹介をしないでやんすかね?」と言うと彼女はきょとんとした顔をして――


「わたしの名前は……なんというのでしょう?」と言ったのだ。


 ?、何かのトンチでやんすかね……あっし生憎あいにくそういうのにはうといでやんす。まあ、自分の自己紹介をするでやんすか。


「あっしの名前はフィっていうしがない風来嬢ふうらいじょうでやんす」






 いろいろ話したでやんすが、彼女はどうやら記憶喪失らしい。


 まあ、魔物に襲われたのだから同じ女として気持ちはわかるのだが、”肝心の魔物に襲われた記憶”はあるようだ。はて?


 ……問題はこれからのことでやんす。


「名前がないのは不便でやんすね……仮に何か名乗ったらどうでやんすか?ついでにお子さんの名前も決めたらいいと思うでやんす」



「そうですね……」と彼女が困ったように思案する。


 首を傾げる彼女が……とても可愛くて困る。


「えーと、その前に助けて頂いてありがとうございました」


と言ってお子さんを抱いたまま立ち上がって深々と頭を下げる。


 先程ついでに助けたことを話したのだ。


 そうしないとややこしくなる可能性もあったから……仕方ないでやんすよ?


「いやいや……気にしないでほしいでやんす」


 と言ってから、周りをみて盗賊が近くにいないか確認する。


 いないことを確認してから、


「できればでいいでやんすが……ここから抜け出すことが出来たら、記憶が戻るまで旅のお供をさせてほしいでやんす。あっし、これでも10年以上各地を放浪しているのできっと役に立つでやんす」


 一時的に冒険者ギルドの依頼で臨時パーティを組むことはあったが、こういうのははじめてだ。緊張して返答を待っていると――


「是非お願いします!!」と彼女の可憐な両手があっしの旅で荒れた両手を包む。


「よ、よかったでやんす」と顔を真っ赤にして答えるのが精一杯だった。





 


 いつの間にか彼女の名前はあっしが考えることになった。


 子供の名前は彼女が考えるらしい。


 あれ?なにか他にやるべきことがあったような……まあ、人の名付なづけなんて一大事の前では些細ささいなことでやんすね。



 「うんうん〜」とうなっている彼女を見る。



 黄金の小麦畑を思わせる髪、それにんだ碧眼へきがんに胸は……あっしのほうがまさっているでやんすね。


 まあ、大きければいいというものでもなし、彼女には似合っている気がする。 


「……ニサなんてどうでやんすかね?」


 ニサとは今あっしらがいるダルテント帝国の中で一番小麦の生産量がある地域なのだが、ふらりと寄ったときの収穫前の稲穂の海が彼女にマッチしたのだ。


 ああ、その場に立って彼女の笑顔を見れた幸せだろうなと思ってしまう。


「ニサですか……良い名前ですね!そうだ!!娘の名前はサフィにしようと思います!!」


 と牢屋にいることを忘れそうになるような声で彼女は言う。


 なんだか何かと似ている名前のような……あっしが疑問に思っていると――


「わたしのニサの「サ」にフィさんの名前をくっ付けちゃいました♪」


 とまるでめてめてという子犬のような顔であっしを見つめるニサ。


 えーと、それって……結婚した夫婦が子供に付ける時の名付け方ではないだろうか?


「い、いい名前だと思うでやんす」と搾り出すように言ってこ、この子は天然のたらしだと思った。


「ですよね〜」と言う彼女の笑顔は盗賊のアジトである洞窟にいるとは思わせない何かがあった。




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