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第十一話 姉妹人形(中)(帝国暦570年9月21日)

本日二度目です。


「はっはっはっ!」とあっしは一定間隔で呼吸をし猫背気味ねこぜぎみに街道を疾走する。


 速さは自分の全力の7割くらいで――多少余力を残した方が道中に何かあったとしても対応できることが多い。



(「この調子でやんすと、後4時間くらいで着くやんすかね?」



 門番と別れを告げて3時間は走っている。残りの行程は半分弱だ。


 天候にも恵まれてそんなに寒くも暑くもなく、多少雲が出ており走るにはちょうど良い天候だ。このまま何とか休まずに目的地に行けそうだ。


 正直、採取に行って多少疲れているので多少は休憩を挟んでおきたいのだが、そこはまだ20代なのでそこそこいけるはず……。


(「明日は筋肉痛確定やんすがね……瞬発力はあるでやんすが持久力はないでやんす」とげんなりする気持ちを抑えて走るあっし。



 途中、魔物を見かけたが、それは仮にも軽業師を天職に持っているのでなんなく回避できた。


(「おや、街道に誰か人が――あれは人形?」



 前方の道に二体の赤いドレスを着た人形と青いドレスを着た人形が……立っている?


 距離が近づく……残り20m――(「もしかして新種の魔物やんすかね?怨霊系とか……」


 残り10m――あっしは走る速さを変えず、ちょうど二体の人形の上に伸びている太い枝を把握する。枝を上手く使って乗り越えるか?枝であの人形たちを潰すか……前者が確実やんすね。


 残り5m――あっしはその勢いのまま両腕を大きく振り上げて枝に向かって大ジャンプをする!!「せやっ!!」



 枝を両手で掴むことに成功。



(「よし」と枝の上で一回転して反対側に飛ぼうとすると『ライトニング』という涼やかな声と共に光があっしを包んだ。



「あででででででええええええ!!!」と無慈悲な電撃があっしを襲う。


 赤いドレスを着た人形はいつの間にか持っていた身体のサイズに合わない黄色の宝玉がはまった杖を左腕で持っており、あっしにかざしてそこから電撃が流れてきているのが見える。


(「し、しびれてうごけな……あ」と手を木の枝から外してしまい真っ逆さまに地面に落ちる!受身もとれそうになく頭から落ちる!!




――死亡確定でやんすと思っていたが、いつまでも衝撃がこない?――




「よっと」と青いドレスの人形の冷たい両手にあっしは支えられていた。


 出鱈目でたらめやんすなぁ……二体ともあっしの身長の半分の背丈せたけしかないでやんすのに。


「お姉ちゃん……もしかしてもうおしまいなの?」と銀髪サイドポニーの青いドレスを着た人形は可愛く小首をかしげる。


「そのようね……」と赤いドレスを着た足元まで届きそうな銀髪を流している人形は困惑気味にそう答える。


 しびれたあっしは木の根元に置かれたあと、赤いドレスの人形が何か詠唱をして、五芒星魔法のおそらく木魔法で木のつたがするすると伸びていき拘束される。



(「あ、動けないし、喋れないので拘束無意味でやんす……」と自分が拘束されるさまを呆然と眺めるしかなかった。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 ここは先程二体の人形をラッフィの元に送った地下室。


 道化師はラッフィがあっさり拘束されてしまったのを見て呆然としており、頭を軽く振るった後、気を取り直したように立ち上がる。


「いやはや。中々に彼女の弱さを見誤ってしまったようダーネ。レベルは20くらいの開きはあるものの、運命操作もしているのにこのていたらく……あまりにも冒険者向きの技能構成でなかった所為カネ」


 『何か場をかき回すことをしようか』と道化師が思案していると、道化師の右肩に忽然こつぜんと黒いカラスが現れる。


「あー、そろそろこちらの方の最終調整もしないとなー。異世界のしすてむというやつをいじるのは中々に骨だからネ……ま、こういう茶番も必要ということでひとつ」と言って道化師は目をつむりうわごとのようなことをつぶやきながらおそらく何某なにがしかの作業をはじめる。



 道化師の中からラッフィたちのことは完全に意識の外にいってしまった。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・



「あの……大丈夫でしょうか?」と赤いドレスの人形が心配そうにこちらをみている。よく見ると、碧の瞳は人間のように生気があるようにみえ、胸元むなもとにある赤バラを模したコサージュはこの人形の気高さを表現するのに一役買っている。


「だ、大丈夫でやんすが……殺さないでやんすか?」と電撃の痺れがとれてきたあっしは推定魔物に問う。


「そんなことはしない!!」と青いドレスの人形はその勝気な碧の瞳、腕を組みながら答える。この人形のドレスにも胸元に青バラを模したコサージュがされているがこちらはあまり似合っていない。


「まずは……自己紹介をしませんか? わたくしはテレシア。この青いドレスを着た人形は妹のカトレアです。あとわたくしたちを魔物か何かかとお思いでしょうが……昔はいちよう人間でした」


(「はぁ、自我のある怨霊でやんすかね……」おっと、あっしも自己紹介をせねば――


「あっしはフィというでやんす。出来ればその……急いでいるので開放してほしいでやんすが……」と駄目元で聞いてみる。


「それは駄目!!」と青いドレスの人形――カトレアは身体を震わせて拒絶の回答をする。


「ごめんなさい。必ず開放するとお約束します。申し訳ありませんが今から五日後の朝には町にお送りしますのでわたくしたちと一緒にいてください。……本当にごめんなさい」と王族がするような所作で頭を下げる赤いドレスの人形――テレシア。



(「どうしたものでやんすかね……」と途方に暮れるあっしであった。



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