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第十話 姉妹人形(上)(帝国暦570年9月21日)


 そこは石で出来たどこかの地下室。


 まるで悪い魔法使いが潜伏してそうな狭く暗い一室で水晶をみている男がいた。



「うーん、僕の”運命”に導かれたのは彼女カネ。他に外部との連絡員になりそうな者は使い魔にサクっとってもらうとしてダーネ」


 と独特な口調で話すこの男――緑を基調としたまるでサーカスのピエロの格好、人を常に小馬鹿にしたお面をしており、目元口元以外はまったく見えず、これまた緑色の帽子は髪すらみえない。彼こそ帝国で都市伝説となっている”道化師”であると噂を知っている者は判断できるだろう。



「でも、彼女。よわっちーみたいだし、僕の手駒だと日数かけて、さらに楽しく演出して逃がすのって難しそうダネ」


 水晶には街道を小走りで踏破し、猫を彷彿させる冒険者の女性――ラッフィの姿が映っている。


「そうだ。アレを使おうカネ」と何か名案を思いついたふうにポンと手を叩く。


 

 すると、道化師の前に2つの暗闇よりも暗い暗黒が渦巻くように現れ――身長80cmくらいの人形を2体生み出すと暗闇は消滅する。


 暗闇より生まれたとは思えないアンティークドールが二体お座りをするように床に鎮座していた。



「もう動けるダロ。さっさと送るから彼女の邪魔を……そうダネ。今から五日ほど邪魔してくれればいいヨ。正確には五日後の朝までダネ」


「……」


「……」


 二体の人形は当たり前のように目をつむり沈黙している。



「……」


 一体は赤バラをイメージさせるドレスを来た床までつく銀色の長髪を持つ少女の人形。



「……」


 片方は青バラをイメージさせるドレスを着た肩まで伸びた銀色の髪に、右側のみシュシュをして、いわゆるサイドテールにした長髪の人形より幼い容貌ようぼうをした人形。


「うん? もう動けるダロ? 返事を……「このヤロー!!」……し?」



 いきなり青バラドレスの人形が目を見開き生気が宿った碧色の瞳をあらわとし、人形らしからぬ動きで道化師に牙を向く!



 右手で拳を作り”闘気”を込めて道化師の顔目掛けて殴りに掛かるが――道化師は幻影の様に揺らいで消える。



 目標を失い思いっきり地下室の壁にぶつかった青バラ人形は壁を爆ぜさせ、とても可憐な容姿とは裏腹の事態を作り出す。



 壁に激突後は特に問題なく着地し、「どこだ!!」と童女のような高い声で、青バラ人形は破片が散らばっている部屋を凝視する。



「やれやれ。こんな癇癪かんしゃく持ちの人形はいらないなぁ。一体あれば十分ダネ」といつの間にか青バラ人形の背後に立ち、両手で顔を掴んでいた。



「こんな……あれ?」と先程の破壊が嘘だったかのように元の人形のように動かなくなり腕をだらんとする青バラ人形。碧色の瞳も次第に人形らしくなっていき……。


 赤バラ人形が慌てて青バラ人形と道化師の前に人形らしからぬ所作で駆け寄る。いつの間にか目を開けていた瞳は青バラ人形と同じ碧色の瞳で生気を宿している。



「ま、待ってくださいませ!ど、どうかご容赦をお」と赤バラ人形が懇願して何か言う前に、道化師は仮面越しにギロっ!とその赤い瞳でにらみ、赤バラ人形にプレッシャーを掛ける。



 赤バラ人形はそこから先の言葉が道化師にとって禁句であったことを思い出し、寸前で言葉を止め、「も、申し訳ありません。道化師さま。どうか妹のことはご容赦願います」と床に頭をこすり付けるように頭下げる赤バラの人形。その身体が震えているのは道化師らしかぬプレッシャーがあったのは動かぬ事実だろう。



「これは僕としたことが短慮だっタネ。姉妹人形が揃わない劇なんてつまらないに違いないのにネ」と”アイタっ”と仮面を軽く小突く仕草をする。


「うん、これは僕の落ち度ダネ。二人ともごめんヨー」と両手を使い大仰に頭を下げ、青バラ人形を開放する。


 そうすると青バラ人形の瞳にみるみる生気が戻っていき――先程と同じ生きた人形の雰囲気を漂わせる。


「レア!」と赤バラの人形は青バラ人形に駆け寄り抱きしめる。


「お、お姉ちゃん」と青バラの人形は赤バラの人形の胸に顔をうずめる。


「感動の抱擁はそれくらいしてくれたまえ」と手をぱんぱんと叩き、道化師は本題の話をはじめる。



「君たちはこれから、そこの水晶に映っている女性に指定日数だけ町に着かないよう妨害するようにネ……あ、殺したりしたら駄目ダヨ。成功すれば、君たちを”そのまま”開放してあげるヨ」


「ほ、ほんと!!」と喜色染みた声をあげるのは先程レアと呼ばれた青バラ人形。


「し、失敗した場合はどうなるのでしょうか?」と緊張した声で聞く赤バラの人形。


「あーうん。そダネ……廃棄処分だ。女性を殺すのも失敗。指定日数前に町に辿りつかせるのも失敗ダネ」


 廃棄処分という言葉に「ひっ」と悲鳴を上げる青バラ人形のカトレア。赤バラ人形であるテレシアは妹を想いきつく抱きしめる。


「さあさあ。楽しい劇の開幕ダヨ。さあ、行っておいで!帝国の至高たる姉妹人形たちヨ!!」とそれほど詳しい説明などしてないのに道化師はパチンと指を鳴らすと姉妹人形は一瞬で姿を消す――彼の地へと送ったのだ。そこには魔法など使った痕跡すらなく道化師の規格外ぷりをあらわにしている。



 

「ふーっ、一仕事しタネ。まあ、どっちに転んでも本当はいいんだけどネ。”彼”にはメインディッシュに来てもらったほうが物語として華があるけどネ」



「ああ、主さまと竜神殿にたのしんでもらえるかな。どんな物語を奏でるか、物語綴ストーリーテラーとしても愉しみダネ。うん。」


 自ら作った即興劇を観戦するため、床に座り込む道化師だった。


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