6:Bye bye
尚人は何時の間にか目が覚めていた。と言うよりは気づいたときには部屋の真ん中に立っていたと言えばいいのか。
(・・あれ? 何時の間に起きたんだろう?)
考えても 起きた という記憶がない。
ふと自分の体を見ると異変に気づく。
パジャマではなく、昼間の服装だった。さらに、左腕に見たこともないものがついることに気付いた。
尚人は驚きつつも、左腕についているソレをまじまじと見る。
手の甲の上に大きな正六角形が1つあり、さらに肘の方に向けて3つの六角形が並んでいる。そのどれもが腕から2cm程の位置に留まっている。それらはとても薄く向こう側が透けて見えていた。
「・・なんだ・・コレ。」
尚人は現状を把握しようと今までにない速度で思考を巡らせた。しばらくして答えに辿り着く。
(これは夢だ。)
そう思った瞬間、昨日の「夢」が頭をよぎった。電信柱の上にあったヒト影。尚人はハッと窓に向き直り窓の外に広がる暗がりに目を凝らす。
すぐそこの丁字路にある電信柱。そのてっぺん。
ヒトがたっていた。
ヒトはゆっくりとこちらを振り返る。
目が合った。
尚人は自分の心臓が跳ねたのがわかった。
ヒトは電信柱から近くの屋根に飛び移り、屋根伝いにどんどんこちらに向かってくる。
尚人は恐怖心を感じていたが、そいつが近づいて来るのをただ見ているだけしかできなかった。
そいつがついに尚人の部屋のベランダに降り立った。
音も立てずに窓が開かれる。
部屋の中に入ってきたのは昼間に会った鋭い目つきの女の子、オダ マオ だった。
彼女も昼間見たときと同じ格好をしていたが、ただ一つ違った。彼女の右手には漆黒の両刃剣が握られていた。
マオ が口を開いた。
「昨日 開始直後に感じたものはやっぱ気のせいじゃなかった。それにしても、まさかキミだったとは。」
彼女の口の端が僅かにつり上がった気がした。
尚人はまだこの状況が理解できない。夢なのか現実なのかもわからない。だが直感が一つだけ教えてくれた。
キケンだと。
尚人は後ずさる。
それを見て彼女が右手を振り上げる。
「バイバイ♪」
雲一つない空に月が輝いている。
「つぎはどっちかな?」
尚人のベランダの手すりの上に立ちながらマオがつぶやく。キョロキョロとあたりを見回すと何かに気付いた様子で手すりを蹴って家々の屋根を駆けて行き、あっという間に見えなくなった。
部屋の中には人の姿はなく、わずかな光の粒が輝きながら消えていった。
時計の針が揃って真上を刺している。
文章を少しばかり改正させて頂きました。内容自体に変わりはないです。