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TEN  作者: A
2/12

2:She turned around

呼吸をする度に、澄んだ空気が鼻腔を通り抜ける。

大分低くなってきた朝陽が時折 建物の間から 顔を照らす。


僕はお母さんに連れられ歩道を歩いている。

登校する周りの子供達の物珍しそうな視線を感じるが、次の瞬間には何もなかったかのように友達同士のお喋りに戻る。




学校に辿りつくと周りの子共達とは別の昇降口に向かう。

手提げ袋から取り出した上靴に履き替え、お母さんの後ろをついて廊下を進む。


”職員室”と書かれたプレートが掲げられた部屋の入り口のドアが空いている。

中を伺いながらお母さんが挨拶をすると、一人の男性がすぐに気付いてこちらに来た。


40歳ぐらいだろうか。

優しそうな笑顔と明るい声が印象的だ。

清潔感のあるスーツもお母さんには好印象のよう。

おそらく担任の教師だろう。


ドアのすぐ外でお母さんは男性教師と暫く言葉を交わしていたかと思うと、「よろしくお願いします。」と深く頭を下げた後、僕に「じゃあね。」と手を振り昇降口へと戻って行く。


その後ろ姿を見つめていると、視線に気付いたお母さんは振り返ってガッツポーズをしながら「頑張れ」って口を動かしていた。


振り返ると男性教師と目があった。

今のお母さんとのやり取りを見られてたのかと思うと、どこか恥ずかしくなってきてすぐに目を逸らした。


彼はそんな僕の様子を見て微笑んでいた。





男性教師は朝の簡単な会議があるとのことで、10分ほど隣の小部屋で待つよう言われた。


小部屋に入ると窓からは校庭が見えた。

少なく見積もっても100m × 50mは余裕であるだろうと思えた。

校庭の向こう側には大きな木が立っていた。

おそらくメタセコイアだ。



しばらくぼーっと外を眺めていると、後ろでドアの開く音がした。


「お待たせ。じゃあ 先生と教室へ向かおうか?」


「はい。」


僕は先生の後を追って部屋を出た。





「はーい。 みんな席ついてー。」


教室に踏み入れると同時に発した先生の声で、子供達が各々の座席に戻る。

手に持っていた名簿やプリントを教卓に置きながら次の指示をする。


「委員長、号令お願いします。」


「はい!」


最前列の男の子が返事をする。


「起立。礼。」


((おはようございまーす。))


「着席。」


先生は、皆が着席したのを確認すると話し始めた。


「先週から皆に伝えていたとおり、このクラスに今日から転校生が加わります。」


言い終わらないうちから彼方此方で子供達が騒ぎ始める。そのざわめきが大音量になる前に先生が二度手を叩いて制す。


「はい。じゃあ入ってきて。」



静まった教室に、ガラガラとドアを引く音が響く。



ドアをくぐると、耐え難い程沢山の視線が僕に向けられていた。

緊張で覚束無い足取りながら、なんとか教壇の中央に立つ先生の隣まで辿り着き、みんなの方へ向き直る。


先生は僕に簡単に自己紹介を促した。


「か、神奈川から来ました。と、とうどう なおと です。よろしくお願いします。」


"藤堂 尚人(とうどう  なおと )"と黒板に書き終えた先生がみんなの方を向き拍手をする。


子供達も続き、教室が拍手に包まれる。


藤堂(とうどう)くんはお父さんの仕事の都合でこちらへ引っ越して来ました。新しい生活もそうですし、転校自体初めての事だそうなので不安なことが沢山あると思います。ぜひみんな新しい仲間として迎え入れてください。」


再び拍手が起こる。


「さて、じゃあ藤堂(とうどう)くんの席はあそこで!」


先生はそう言って窓際の一番後ろの席を指し示す。


教壇を降りて、座席の間を



僕が席に付くや否や、前の席の女の子がこちらに振り向く。

肩程で切りそろえられた彼女の髪が、勢いのあまり一瞬ふわりを浮き上がる。


「あたし、オオバ カズハ! よろしくね♪」


突然の出来事で「うん。」としか返せなかったけれど、カズハは満足そうに笑って前に向き直った。

彼女の座る椅子の後ろには ”6年2組 5番 大庭 和葉” と丁寧な字で書かれたシールが貼ってあった。





「「ご馳走様でしたー!」」


給食を食べ終えた子供達が昼休みに何をしようかと騒ぎだす。


藤堂(とうどう)くん。」


急に名前を呼ばれたことに驚きながら振り返ると、そこには1人の男の子がいた。

白いシャツに、爽やかなミディアムヘア。

人懐っこい笑顔を浮かべている。

たしか朝礼や授業の号令をかけていた子だ。


「・・えっと。」


「いきなり話しかけてごめんね。 僕の名前は 斎藤 秀光(さいとう  ひでみつ)。このクラスの学級委員をやらせてもらってるよ。よろしく。」


そう言って差し出された彼の手を、僕は「よろしく。」と言いつつ握り返す。


「ところで、昼休みを使って校内を簡単に案内しようかと思って声をかけたんだけど。もしよかったら・・どう?」


「えっ、せっかくの昼休みなのにいいの?」


彼は笑顔で頷いた。


「ありがとう。お願いしてもいい?」


「任せて。じゃあ早速行こうか?」


そう言って教室を出る秀光(ひでみつ)のあとに続いた。

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