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昼下がり。
教室を包み込む暖かな空気が給食による満腹感と相俟って眠りを誘う。
あちらこちらで睡魔とたたかう姿がうかがえる。
尚人の前の席でもさっきから和葉が コクン…コクン と舟を漕いでいる。
尚人は頬杖をつきながら昨夜の事を思い出す。
「ところで尚人くん。明日の放課後、会えないかな?」
「放課後ですか?」
「うん、今日紹介出来なかったメンバーを紹介しておきたいんだ。それに・・」
政之が少し困った顔をして微笑みながら言う。
「これはただの夢じゃないかって思ってるでしょ?」
思っていた。いや思ってる。
どう考えたって夢とした方が理屈が通る。
教室の反対側。
廊下側の1番後ろの席に視線を移す。
鋭い目つきの女の子が、退屈そうに前髪を弄っている。
織田 麻央。
朝教室に入った時に目が合い、素っ気なく「おはよう」と一言だけ言われた。昨夜あんな出来事があったのに、まるで何もなかったかのような素振りだった。
そんな彼女の様子も昨日の出来事は夢ではないかと思わせる要因の一つだった。
気になった尚人は昼休みに昨夜のことを尋ねてみようと思ったが、何時の間にか彼女の姿は教室から消えており結局聞けず終いだった。
「それじゃあ次の段落、エハラくん読んでみようか。」
指名された男の子が起立して教科書を朗読し始める。
尚人は鉛筆で机に伏している和葉の背中を突つく。
ビクリと身体を震わせ顔をあげた彼女に尚人は小声で伝える。
「教科書82ページ 6行目から。」
「え?」
読み終えた男の子が着席する。
「次の段落は 大庭さん読んでください。」
「は、はいっ。」
「それじゃあ、みんな気をつけて帰るように。それと、家庭訪問のプリントをご家族に渡すの忘れないように。」
担任の言葉と共にホームルームが終わり、生徒達が雑談混じりに続々と教室を出て行く。
「尚人くん!さっきはほんっとにありがとねっ!」
「あ、うん。」
尚人は黒板の上に掛かっている時計に視線を移す。
14時45分を過ぎたところ。
「・・・16:00にジョウホク公園 噴水の前か。」
「え?何?」
「え?あっ、いや 何でもないよ。」
知らぬ間に声に出ていた事に赤面する尚人を
和葉が不思議そうに覗き込む。
「じゃあ、僕もう帰るね。」
逃げるようにランドセルを背負いながら尚人が言う。
「え?一緒に帰ろうよ?みっちーも誘って3人で。」
「ゴメン。寄るところがあるから。」
そう言って尚人は教室を出た。