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7

 ほんの少し欠けた月が雲の間から覗いている。

 柔らかな草の上で目覚めた香月は、穏やかな月の光に目を瞬かせた。

 首を巡らせれば、街道から少し外れた林の中だと分かる。近くに外灯も立っているのだろう、林の中を自然のものではない光がぼんやりと照らし出していた。

 草むらに大の字に寝転がったまま、暗い林から夜空へと視線を戻し、ぼんやりと月を眺める。

 ゆっくりと流れていた雲が途切れ、綺麗に月の姿が浮かび上がる。その月を横から現れた黒い影が遮った。

「何しているんですか?」

 唐突に月の光を遮って顔を出した少女に、香月が慌てて上半身を起こす。

「洸ちゃん」

 覗きこんで来た、制服姿の少女がにっこりと微笑み、香月の側にしゃがみこむ。

「こんばんは、香月さん。こんな所で寝ていると風邪ひきますよ?」

「あっ……うん」

 ポリポリと頭を掻く。好きで寝ていたわけではなく、神竜に置いて行かれたのだが……そのことを思い出し、むっと顔をしかめる。香月の表情の変化に気がついたのか洸が首を傾げた。

「どうしたんですか?」

「いやーちょっと、性格の悪い真黒い猛獣に襲われてね……」

「真黒い猛獣ですか」

 洸が眉を潜めて、暗い林の中を見渡す。

「あぁ、ごめん。今のは冗談。ちょっと性格の悪い知り合いに会ってね、ここにおいてけぼりをくらっただけだから」

「はぁ……」

 曖昧に頷く洸に、香月が苦笑いを浮かべる。

「洸ちゃんはこんな夜遅くにどうしてここに?」

 きょとんとした顔で洸が頬に手をあてて首を傾げる。

「……さぁ……どうして私ここにいるんでしょう?」

 本当に解らないと言った感じで、辺りを見渡す。

「私、気がついたらここにいて、歩いていたら香月さんがここに倒れていたんです」

「……」

「あはは。すみません、私変なこと言ってますね」

 頬をポリポリ掻きながら困ったように笑う洸に、香月が何と言っていいか解らず、複雑な目を向ける。

 洸が肩をすくめると立ちあがった。

「私、帰りますね。早く帰らないと母に怒られちゃう」

「送って行くよ」

 香月は慌てて立ち上がると服に付いた汚れを手で払う。たいした汚れはなかったが、葉や枝がパラパラと落ちた。

「いいですよ。一人で帰れますから」

 慌てて手を振る洸に香月がポンと頭に手を乗せ、髪をくしゃくしゃと撫でる。

「だーめ。昨日襲われたばかりだろう? 一人で帰らせるわけにはいきません」

 おちゃめっけたっぷりに片目をつぶって見せる香月に、洸が少し頬を染めて笑う。

 昨日、洸が真樹に襲われたことは神竜に話したが、虫の音だけしか聞こえない暗い林に他の気配は感じられない。気配を消しているのかもしれないと、洸に気付かれないようにチラリと林に目を走らせたが、人影は見当たらなかった。

 まだ護衛を配置できていないんだろうと、香月は心の中で嘆息を漏らす。

(さっきの今じゃ無理……か)

 洸を促し、二人で暗い林の中を街道の方に向かって歩いて行く。

「ねぇ、洸ちゃん」

 頭二つ分ほど背の低い洸が、上目使いに見上げてくる。

「昨日の夜、変な植物に襲われただろ、襲われた理由とか心当たりない?」

「いえ、ありません」

 首を振り、俯いてしまった少女に、余計なことを思い出させてしまっただろうかと香月が頭を掻く。

 そのまま無言で暗い林の中を歩き、街道に出た二人は緩やかな坂になっている道を下っていく。どれくらいそうやって歩いていただろうか、月の周りに漂っていた雲も風にさらわれ、満点の星が奇麗に見え始めた頃、洸がグッと手を握りしめ意を決したように顔を上げた。


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