40
どれだけ時間がたっただろうか、風が吹き香月の銀髪が揺れる。真樹がゆっくりと体を放し、洸に視線を落とした。
香月が握りしめていた手を緩めると、真樹の手がするりと抜け、眠る洸に伸ばされる。
「姫……」
伸ばされた手が、顔に掛かる前髪をそっと払う。洸の手の中に握られていたネックレスの緑の石が何の前触れもなく小さな光となって砕け散った。
真樹の腕の中で洸の体が淡い光を放ち始める。
ピクリとまつ毛が揺れ、淡い光に包まれた洸が、ゆっくりと瞼を上げた。まだ眠たそうに目を瞬かせ、自分を抱き起こしている真樹を見上げる。
真樹が切なげな笑みを浮かべた。
「洸…………」
不思議そうに真樹の顔を見上げていた洸の目元が優しく和む。口元を緩め、笑みを浮かべた。
淡い光に包まれた奇麗な頬笑みだった。
真樹の瞳から涙がこぼれ、頬を伝い落ちて行く。水晶のように透明な涙を流すばかりで、何も言わない真樹に洸は小首を傾げ、ゆっくりと真樹の頬に手を伸ばす。
「どうして泣いているんです?」
頬に触れる手に己の手を重ね、真樹が口元を緩める。微笑もうとして失敗した。何も答えることが出来ずに涙だけが頬を伝い落ちて行く。
「……昔……」
洸が真樹の肩にもたれかかるように頭を乗せ、ぼそりと呟いた。
「私にお守りをくださった方……ですよね……」
真樹が一度だけ目を瞬かせる。拍子に涙が一粒こぼれ落ちた。
「とても小さい頃に貰ったから、今まであなたの顔思い出せなかったんです」
「…………」
「でも、今はっきりと思い出しました。優しく笑う、あなたの顔……」
肩に頭をもたれかけたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
「名前……聞いてもいいですか?」
淡い光に包まれた洸の体から、泡のような光がゆっくりと溢れだし、洸の姿が次第に透き通っていく。
「私……あなたの名前も……知らない……」
閉じた瞼を開けることなく次第に小さくなっていく声に、真樹が震える声で答える。
「真樹」
「しんじゅ……キレイな名前……」
洸が小さな吐息を漏らす。
「しんじゅさん……ごめんなさい…………何だかすごく眠いの……もう目も……開けられない……」
「……ん……」
真樹が小さく頷く。
「ごめん。私が君を無理やり引き留めてしまったから」
「ううん」
洸が微かに首を横に振る。
「会えて……すごくうれしいの……」
洸の細い体から力が抜け、寄りかかっている真樹の腕の中に深く沈み込む。
「よかった、香月さんにここに連れて来てもらって……すごくあなたに逢いたかったの。ねぇ……また逢える?」
真樹が目を見開く。
腕の中にある少女の細い肩を握りしめ、優しく抱きよせた。
淡い光と共に消えゆく洸の体を抱きしめたまま、小さく頷く。
「うん……ずっと、待っているから」
「……ありが……と……う……」
洸は穏やかな笑みを浮かべると、光の粒となって静かに空へと舞い上がり消えていく。
空へと消えていく光を見上げていた真樹が目を閉じる。溜まっていた涙の一滴が頬を流れ落ちていった。
真樹と同様に空を見上げていた香月が静かな声で呟く。
「泣かないでくれ、真樹」
真樹が目をゆっくりと瞬かせると、視線を香月へ向ける。
「俺がずっと傍にいるから……洸ちゃんが生まれ変わって来るまで、俺も一緒に待つから、だから……もう泣かないでくれ」
こちらを向くことなく呟く香月に、真樹が目を閉じる。
「ありがとう、香月……」
「うん……」




