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二つに分かれた気配の一つに闇の中に引きずり込まれ、いつの間にか気を失っていた香月は、柔らかな髪が頬にあたる感覚で目を覚ました。
香月はこの髪が好きだった。ゆるく波打ち、綿毛のように柔らかな髪。ほんの少しの風で揺れ自分の鼻先をくすぐる。
(懐かしい……)
その感覚に香月の頬が緩む。
「よう……真樹」
「香月」
真上から降り注ぐ明るい月の光を浴びて、白い髪と肌が淡い光を放っているかのように白く透き通る美しい青年が香月を見つめていた。膝の上に香月の頭を乗せ、静かな笑みを浮かべる。香月のよく知る、優しいそしてどこか切ない真樹の笑顔。
白い髪が風に揺れ、ゆっくりと波打つ。
辺りを見渡せば、暗い森の中なのだと解る。周りは木々に囲まれ、ほんの少しだけ開けた空間に香月は寝そべっていた。夜空が垣間見えるこの場所だけが月の光に照らされ、木の枝に覆われた森は暗く静まり返っていた。
虫の音も聞こえない森に香月の声が静かに響く。
「ごめんな、ケガさせて」
真樹の腕に目をやり、香月の顔が陰る。
「腕、大丈夫か?」
真樹の片腕が、肩の付け根からなくなっていた。二つに分かれ、陰陽師を縫いとめた気配の一つは真樹の片腕だった。真樹が小さく首を傾げる。
「これは私が自分でしたことだ。それにすぐに生える、知っているだろう?」
「そうだったな」
香月が少し困ったように微笑み、すぐに真顔になる。
「なぁ、お前どうしちゃったんだよ……昔は人を襲うことなんて絶対にしなかったのに」
真樹の切なげな笑顔が暗く沈みこむ。
「真樹……?」
香月が真樹に手を伸ばしたが、その白い頬に触れるその前に姿が薄れ、木の葉となって香月の視界をふさぐ。舞い散る無数の葉に腕を顔の前にかざし、反射的に目を閉じる。
香月が再び目を開けると、もうそこには真樹の姿はなかった。舞い散った葉の最後の一枚がゆっくりと香月の上へと舞い落ちる。
「真樹……」
香月の声は誰にも届くことはなく、静かな森の中へと消えた。




