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 香月は何が起こったのか分からずに舞いあがった光の粒を見上げ、目を瞬かせる。

緩慢な動作で光の粒から腕の中の朱雀に目をやると、朱雀が小さく甲高い声で鳴き、体から溢れていた炎を沈めていく。

 焼きただれた手に頬を擦りよせる朱雀に、香月が泣きそうな笑顔を浮かべ、手を緩めた。

「ありがとう」

 腕の中から抜け出した朱雀が小さく弧を描いて、静かな足取りで近づいてくる神竜の腕に止まる。

 朱雀を目で追っていた香月の視線も自然と神竜に向けられ、満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう、神竜」

「勘違いするな、まだそいつを殺さないと決めたわけじゃない。少し時間をくれてやったまでだ」

 香月が頷く。立ち上がり、ふらふらと真樹に近づいていく。

 真樹に触れられる一歩手前で、やんわりと押し返す結界があったが、手を当てて少し力を加えるだけ結界の中に体が入っていく。

 結界はほとんど役割を果たさないほどにボロボロに壊されていた。

 真樹の前に力なく座り込む。傍に寄れただけで安堵の溜息が洩れた。

「香月」

 真樹が顔を歪めて香月の焼き爛れた頬に手を伸ばすが、触れていいものか分からずに手を彷徨わせる。その手を香月が握りしめ、額に押し当てた。

「真樹、俺の話しを聞いて」

 願うように握りしめた真樹の手に力を込め、目を閉じる。

「真樹が洸ちゃんを失いたくない気持ちは分かる。でも反魂の術をするのはやめて。君が洸を失って悲しいように、君が殺した人達にも悲しむ人が居るんだ」

 真樹が体を強張らせのが、握りしめた手から伝わってくる。

 真樹の手がすり抜けてしまわないようにさらに力を込める。焼き爛れた皮膚が擦れ、手から血が滲んだが、香月は手を放さない。放せば永遠に真樹を失う気がした。

 ゆっくりと顔を上げ、真樹を真直ぐに見つめる。

「真樹、悲しむ人が増えるだけじゃない、反魂の術を使えば洸ちゃんの魂は転生することなく、永遠にこの世に縛りつけられる」

 真樹が大きく肩を震わせる。手を引き抜こうとするかのような微かな抵抗を感じたが、香月は手を強く握りしめて放さなかった。真樹が握りしめられた手を苦痛に歪んだ目で見つめる。

 震える声で呟いた。

「……でも、怖いんだ」

 真樹の瞳が揺れる。

「姫が産まれ替わって来るのをずっと待っていたんだ。いつ生まれ変わって来るか解らないそんな中で、ずっと、ずっと一人で待ち続けた。寂しくて、辛くて……」

 真樹が顔を歪ませる。


「……でも、逢いたかった」


 毎日、願っていた。


 逢いたい。あいたい

 姫…………姫……どうして生まれて来てくれない。

 私はずっとここで待っているのに……。


「私は待つことがこんなにも辛いなんて知らなかったんだ。今ここで姫を失えば、いつまた逢えるか解らない。それが堪らなく怖い」

 伏せた瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「だったら尚更ダメじゃないか、真樹」

 香月が片手で手を握りしめたまま、もう片方の手で真樹の肩を抱きよせる。

「俺たちだって、永遠の命じゃない。遠い未来かもしれないけど、いつかは消えてなくなるんだ。洸ちゃんをこの地に縛りつけて一人にするのか?」

 真樹の涙に濡れた瞳が見開かれる。

 腕の中にいる洸を見下ろし、真樹が顔を歪ませた。大粒の涙が溢れ、香月の肩に顔を埋める。

「そんな事…………出来ない。姫に私と同じ思いはさせられない」

 肩を小刻みに震わせながら泣く真樹に香月の瞳から涙がこぼれ落ちた。


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