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「真樹」

 香月が静かな声で友人の名を呼ぶと、巨木の前に白い髪の青年が姿を現した。

 閉じていた瞼を開け、青年が穏やかに笑う。

「香月よかった、無事だったんだね……」

 真樹が香月の腕の中で眠る洸に視線を移し、真樹の穏やかだった笑みが、今にも泣きそうな切ない笑みへと変わる。

「洸を連れて来てくれたんだね、ありがとう」

 柔らかな草の下から生き物のようにうねる根が、香月の腕の中の洸に向かって伸ばされる。その根が香月を中心に円を掻くように現れた青い狐火に弾かれた。

 香月の周りの空気が揺らめき、銀の髪と金色の瞳を持つ姿へと変わる。

 姿を変えた香月に、真樹の目が驚愕に見開かれる。

「香月?」

 香月は泣きそうな顔で口元に笑みを浮かべる。

「真樹、もうやめよう。洸ちゃんはもう死んだんだ。他の誰かを犠牲にして生き返らせるなんて間違ってる」

「香月…………どうして……」

 真樹の包む空気が変わる。

 俯いた真樹の体の周りを黒い霧が漂い、地面を割って無数の木の根が顔を出す。きれいに地面を覆っていた草は見る影もないほどに荒れ果て、辺り一面に木の根が蠢く。

「どうしてお前まで、私の邪魔をするんだ」

 俯いた顔を上げ、真樹が咆哮する。

 蠢いていた根がいっせいに香月に向かって伸びた。 

 香月は洸を腕に抱いたまま跳躍し、その場から離れると、木の根も方向を変え香月の後を追う。身を捻り追ってきた根を交わし、地面を蹴って横に飛びのく。

 地面を擦りながら着地し、足元に気配を感じた香月は再び跳躍する。

 地面から新たに這いだしてきた木の根が香月の背をかすめるようにして空へと伸び、大きくカーブを描いて方向を変え、鞭のように唸りを上げて横殴りに香月を襲ってきた。

 空中で体勢を変えることが出来なかった香月は避けることが出来ずに木の根に吹き飛ばされる。背中に受けた衝撃に、思わず洸の体を離してしまい洸の体が弧を描いて宙を舞まった。

「しまった!」

 吹き飛ばされながらも空中で一回転し、体勢を整えて着地すると洸の姿を探す。

 洸の体は真樹によって伸ばされた枝に絡め取られ、手を差し伸べる真樹の元へ、静々と運ばれて行く。

「洸ちゃん」

 香月が駆け出す。その体を地面から生えた根が絡め取り、動きを止めた。

「真樹、洸ちゃんを離せ! 洸ちゃんはもうここに居ちゃいけないんだ」

 香月が絡まった根を振りほどきながら叫ぶが、真樹は香月の叫びなど聞こえていないように、運ばれてきた洸の体を優しく抱きしめ頬を寄せる。

 香月が説得を続けようと口を開こうとした瞬間、香月と真樹の間の土がボコリと膨れ上がり、何かを絡め取った木の根が姿を現した。

 数は三つ。それが行方不明になっている女子高生の死体だと分かった香月は不快さに肌を泡立たせる。

 一体はすでに完全に白骨化しており、残り二体も程度の差はあれどかなり腐敗が進んでいた。

 香月が悲鳴に近い声を上げる。

「真樹!」

「香月……分かっているんだ…………こんなやり方は間違っていると」

 真樹が小さな声で呟き、感情の読めない瞳をゆっくりと香月に向ける。

「でも、私はずっと待っていたんだ。洸が産まれるのを……ずっと、何百年も」

「……!」

 香月が息を飲む。

「どういうことだよ、真樹」

「私にはとても大切な人がいたと、お前に話したことがあっただろう」

 自傷めいた笑いを口元に浮かべ、洸に視線を戻した真樹が静かな声音で語っていく。

「本当に心から愛した人だった。その人が幸せであれば、それだけで良かったのに、私は欲をかいてしまったんだ。傍に居てほしくて姫をさらい、私が出す瘴気で殺してしまった。だから私は誓った、姫が生まれ変わったなら、遠くから姫の幸せだけを願おうと」

 真樹の言わんとしていることが解り始めた香月が目を見開く。

 真樹の感情の窺えなかった瞳が揺れ、透明な涙があふれ出す。腕の中の洸を抱きしめ、血を吐くように叫んだ。

「なのに、たった十六年で死んでしまった! これから先も幸せに笑って生きるはずだった洸をこいつらが殺した!」

 木の根が三つの遺体を地面に叩きつける。激しい怒りをぶつけた真樹に、香月が肩を震わせる。

 恐る恐る口を開いた。

「洸ちゃんは、姫様の生まれ変わりなのか?」

「あぁ……」

 簡素な答えが返ってきた。

 幾分落ち着きを取り戻した真樹が深い溜息を吐き、洸の体に回していた手を緩める。

「香月、お願いだからこれ以上邪魔しないでくれ。私は洸の未来を、奪った奴らの命で取り戻そうとしているだけなんだ」

 香月は俯き、拳を震わせる。真樹の気持ちは痛いほど分かった。香月とて長い年月を生き抜いてきて、見送って来た死はいくつもある。

 失いたくない気持ちも、失った悲しみも知っていた……でも……それでもと思う。泣きそうになる思いを押しこんで、ゆるぎない瞳で顔を上げた。

「それでも、駄目だ」


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