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 途切れることなく体に当たっていた枝の感覚が唐突に消え、香月の首に手を回し肩に顔を埋めていた洸は顔を上げた。

 頬に冷たい風が当たり、髪がふわりと浮く。

 眼下には森が広がり、遠くの方に空と森との境界線が見える。香月は洸を抱え、重力など存在しないかのように遥か上空まで跳躍していた。

「洸ちゃん、声はどこら辺で聞こえる?」

「えっあっ……あそこ」

 目の前に広がる景色を茫然と見つめていた洸が、香月の声にハッと我に返って森の一角を指差す。

「あそこだね。分かった」

 上昇する勢いが緩やかに止まり、一瞬の浮遊感の後に急激に落下していく。

 再び香月の首に強く抱きつき、肩に顔を埋めた洸の体に無数の枝が当たり折れていく。

 地面に難なく着地した香月は、洸に目をやった。洸の体は先ほどよりも透き通り、否応なしに残された時間が少ないことを知らしめる。背に回した手にほんの少し力を込め、抱き締めると、洸が指差した場所まで最短距離を走り始めた。

 快調に森の中を走っているときに、それは唐突に起こった。

 森を走っていた香月がねっとりとした見えない膜を通り抜けたと思った瞬間、今まで走っていた森とは明らかに違う静謐な空気に包まれた空間に出る。

 目的地が近いのだと分かり、走るスピードを次第に緩め、森の中を見渡しながらゆっくりと歩いて行く。

 香月は肩に顔を埋めたまま顔を上げようとしない洸に優しく声をかけた。

「洸ちゃん、もうすぐ着くよ」

 香月が声を掛けても返事はなく、首に回っていた腕が力なく解ける。

「洸ちゃん!!」

 腕の中でぐったりと目を閉じている洸に香月の顔が青ざめる。

 唇を噛みしめ、洸を抱え直すと再び草木の合間を縫って歩き始めた。


 幾ばくも歩かないうちに、木々で覆い茂った森が開け、広い空間に出た香月は立ち止った。

 目の前には緩やかな下りの傾斜が続き、ぽっかりと何もない空間が広がっている。もしかしたら昔は小さな泉だったかもしれないその場所は、正確には何もないわけではなく中央にせり上がった丘があり、そこにたった一本だけ目を見張るほどの巨木が生えている。そしてその周りを柔らかそうな草が開けた空間いっぱいに広がって、風が吹く度に光のラインを走らせていた。


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