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歩き始めて一時間ほど経っただろうか、洸の息が上がり足がふらつき始めた。
森の奥に入るにつれ苔の生えた大きな岩が辺りにゴロゴロと転がり、露出した木の根が増え始める。
体力を消耗した洸が木の根に足を取られて転びそうになることも度々あった。
「洸ちゃん、大丈夫?」
「……はい」
洸が息を弾ませながら、笑顔を浮かべる。
疲れの滲むその笑顔に香月も笑顔を返し、目の前にある半ば土に埋もれた岩に触れる。その岩は大きく香月の背よりほんの少し縦幅がある。
この場所を登るのはきつい気がしたが、かといってこの岩以外の場所は登れそうもない。
洸を抱えて跳躍することも考えたが、木の枝が幾重にも重なり、安全に通り抜けることが出来そうになかった。
香月は岩を見上げ「これなら昇れるか」と呟くと、いったん洸と手を離して岩の上に登った。
岩の上から洸に手を伸ばす。
「洸ちゃん捕まって」
洸が頷き香月の手を取る。香月が力強く引き上げた瞬間、洸の服から何かがこぼれ落ちた。
「あっ……」
小さな声と共に洸の注意が落ちていった物にそれ、思わず香月の手を離してしまう。
一秒にも満たない浮遊感。
たいした高さもない場所から落ちたにも関わらず、地面にうちつけられた体に強烈な衝撃が走る。
急速に薄れていく意識の中で一つの映像が洸の頭の中をよぎっていった。
日が傾く夕暮れの教室。三人のクラスメイトに囲まれ、手を伸ばし何かを必死に取り返そうとする洸。
返してと叫んでも嘲笑い、そして……。




