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ほんの数回会っただけの少女の気配。
こちらにゆっくりと歩いてくるその姿は儚く、枯れ葉や小枝が無数に落ちる地面を歩いていても何の音も立てていない。
きょろきょろと不安げな顔で辺りを見渡しながら歩く少女に香月は思わず立ち上がり、声を掛けていた。
「洸ちゃん!」
自分の名を呼ぶ声に気がついた少女がこちらを振り返る。
不安げに陰っていた顔は一瞬にして消え去り、満面の笑顔を浮かべて小走りに香月に近づいてきた。
「よかった、ここで香月さんに会えて。私、知らないうちにこの森にいて、ここどこだか分からないし道に迷って困ってたんです」
ほっとしたように胸に手を当て、笑う洸に香月は切ないものを感じながら、口元に笑みを浮かべる。
「知らないうちにここまで来たの?」
洸が前に流れた髪を耳元に掻きあげながら、どう説明したものかと、俯き加減に目を逸らす。ほんの少しの間の後、上目使いに香月を見上げてきた。
「笑わないでくださいね…………泣いている人の声が聞こえたんです。女性か男性かも分からなかったんですけど、その声を聞いているとすごく切なくて……私その人を探そうと振り返ったらこの森にいたんです」
香月の瞳が揺れる。「そっか……」っと小さな声で呟き、泣いていたのは目の前に居る少女の死を悲しむ真樹だろうかと思い、顔を曇らせる。
胸が痛かった。
暗い顔で黙り込んでしまった香月に洸が不安そうに顔を覗き込んでくる。
「どうしたんですか? 私が変なこと言ったから……あの、気を悪くしちゃいましたか?」
「ううん、ごめん。何でもないんだ」
香月の中で、悲しみや切なさが熱い塊となって胸の中を渦巻く。
喉元までせり上がって来そうになる熱い塊を無理やり飲み込み、笑みを口元に浮かべる。うまく笑えずに不器用な泣き笑いになっていたかもしれないが、洸はそれ以上何も言わずに小さな笑みを返してくれた。
「ねぇ、洸ちゃん。泣く声がどこから聞こえていたか分からない?」
洸が不安げに顔を曇らせ、森の奥を指差す。洸が指示した方向に香月が顔を向ける。
今まで散々探しまくった森とほぼ何も変わらないうっそうと覆い茂る木々が広がっているだけなのに、洸が肩を強張らせて身を小さく震わせる。
「……実は今も泣いている声が聞こえるんです。近くに行きたいけど、でも近づいたら取り返しのつかない事になりそうで……怖くて近づけないんです」
香月が洸に視線を戻すと、洸は青い顔で手を握りしめている。
香月は洸の不安を少しでも取り除こうと、穏やかな笑みを口元に浮かべて洸の髪を優しくなでた。
「俺が一人で行ってくるよ。洸ちゃんはここで待っていて、必ず迎えに来るから」
「香月さん……」
幾分落ち着きを取り戻した洸の髪から手を離し、香月は踵を返して森の中に分け入っていった。




