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「香月」
香月がはっとして振り返ると、こちらを険しい目で見上げる神竜の姿があった。
「そんな怪我で、どこに行こうと言うんだ」
「真樹を探しに行くよ。他の人の命を使って、洸ちゃんを生き返らせようとするのは間違っていると思うから、止めたいんだ」
「だったら、どこにも行く必要ないだろう。お前はここで怪我を治していればいい。真樹は俺が止める」
「俺を囮に使って?」
神竜が息を飲む。
香月は微かな笑みを口元に浮かべ、視線を腹部に落とすと、服の上から包帯の感触を確かめるように腹部をさする。
「傷の手当てしてくれて、ありがとな。さよなら神竜」
そう言うと、神竜が引き留める間もなく香月は身を翻して塀を飛び降りた。
誰もいなくなった塀を見上げ、一人残された神竜は髪を掻きあげ、深い溜息を吐いた。
あの単純な妖怪を上辺だけの言葉で引き留めることも、騙すことも容易いはずだったのに、どこか悲痛な表情の香月に何も言えず行かせてしまった。
神竜は忌々しげに舌打ちすると踵を返し、振り返ることなくその場を立ち去った。
神龍・・・単なるお人好し・・・(T ^ T)




