23
神龍が、口元に微かさ笑みを浮かべたまま首を傾ける。
「お前にとっても、そう悪いことばかりではあるまい?」
「あん?」
「ここにいれば術医の手当てが受けられるし、俺が知り得た真樹の情報もくれてやろう」
「教えてもらっても出られなきゃ意味ないだろうが ……」
「確かにそうかもしれないが、知らないよりはましだろう」
見下ろす神竜に香月は渋面を作り、子供が拗ねたように背を向けてしまった。
神竜が肩をすくめる。
「傷に触っては何だ、今日はこれぐらいにしておこうか。何か軽く食べられる物を後で持ってこさせる」
立ち上がりかけた神竜の耳に、聞き逃してしまいそうな小さな声が届く。
「…………は……」
「何だ?」
座り直し、そっぽを向いたままの香月に聞き直す。香月が再びぼそりと呟いた。
「……森田って子は……どうなったんだ……?」
「あの子は……」
神竜が苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめる。
「……連れさらわれた」
香月が首だけを捻ってこちらを振り返った。
神竜が溜息を吐く。
「未だにどこにいるのか見当もつかない。まあ、見つかったとしてもあれだけ血を流していたからな、生きてはいまい」
香月が顔をしかめる。
道路に倒れていた森田葵はかなりの深手を負っていた。神竜の言うように、生きていない可能性の方が高かった。
「護衛にあたっていた術者二名が重傷。真樹がどこにいるか分からないこちらとしては、奴が何か事を起こさない限り打つ手なしだ」
「何だよそれ……」
香月が痛みに顔をしかめながら体を起こす。
「じゃあ、何もしないでこのまま……」
香月の顔が曇る。
シーツを強く握りしめた香月の脳裏に、さらわれかけた洸の顔が浮かんだ。
「洸ちゃんはどうしたんだ?」
香月の言葉に神竜が眉を潜める。
「洸ちゃんは大丈夫なのか?」
「いや、その洸という子についてなんだが……」
神竜が懐から写真を一枚取り出し、その写真を香月に見せる。
髪を肩で切りそろえた、どこにでもいる普通の女子高生が写っていた。
「この子か?」
写真を覗き込んだ香月が頷く。
「うん。この子だよ」
「そうか……」
神竜が何事かを考えるように眉間にしわを寄せ、写真に視線を落とす。香月は微かな不安を感じ、堪らず声をかけた。
「神竜、どうかしたのか?」
神竜が伏せていた目を上げた。深い漆黒の瞳が香月を見つめる。
「本当はもう少し後で話すつもりだったんだが……この子は一カ月前に死んでいる」




