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 目の前には見慣れない天井。

 一瞬、夢と現実の区別がつかず、真樹を追いかけなければいけないという思いで布団から勢いよく飛び起きた。その瞬間、腹部に走った激痛に布団に倒れこむ。

「イデデデ……あれ?」

 目を瞬かせる。

 倒れ込んだ布団の中から辺りをぐるりと見渡せば、そこは障子越しに柔らかな光が差し込む十畳ほどの簡素な畳部屋だった。

「ここどこだ?」

 呟いてみても答える者は誰もいない。

 激痛の走った腹部に手をやれば、ごわごわとした包帯の手触り。手当てされていることを知り、神竜に捕えられたことを思い出した香月はげんなりした。

「……逃げなきゃ~」

 もそもそと布団から這い出し、障子に手を掛ける。

 音をたてないようにゆっくりと障子を開けた香月は、目の前に現れた景色に目を見開いた。

 明るい日差しに照り出された庭。中央には小さな池と石灯籠。それを挟むように左右に常緑樹が植えられており、青々とした葉を茂らせている。地面には小さな白い石がびっしりと敷き詰められ、降り注ぐ光を反射しキラキラと輝いていた。

 綺麗に整備された美しい日本庭園だった。

「おー……。これぞ日本のワサビ」

「侘び寂びだろ」

 ゴン。

日本庭園には不釣り合いな、頭を殴る鈍い音が響いた。

「いてー、何しやがる」

 容赦なく殴られた頭を抱えて、頭上を見上げた香月がゲッと呻く。

 今、最も会いたくない黒髪の男が冷たい目で香月を見下ろしていた。

「神竜……」

 香月がげんなりした声で名を呟くと、神竜がふんと鼻を鳴らして室内に入って来る。

「やっと目を覚ましたか」

「やっと……?」

 香月が障子の前に座り込み目を瞬かせる。

「俺、どれくらい寝ってたの?」

「三日だ」

 一呼吸分の空白。

「三日ーー」

 香月が目を見開き、素っ頓狂な声を上げた。うるさそうに神竜の眉間にしわが寄る。

「うるさい。とっとと布団に戻れ、傷が癒えたわけじゃないんだぞ」

「俺そんなに寝てた……イデデデ」

 思わず神竜の方に身を捻った香月が腹部を抑えてうずくまる。

 はぁっと神竜は溜息を吐くと香月の傍まで歩み寄り、腕を取った。香月の腕を自分の肩に回し、半ば抱えあげるようにして立ち上がらせる。

「血止めと痛み止めの呪符を付けているが、完璧に痛みを押さえられるわけではないんだ。あまり無理をするな」

「呪符?」

「あぁ、お前を人間の医者に診せるわけにはいかなかったんでな、術医に診てもらった。包帯の下に血を止めと痛み止めの呪符を貼り付けてあるんだ」

「へぇ~、そんなのあるんだ」

 神竜に支えられながら、布団に戻った香月が腹部を摩る。

 呪符もいろいろあるんだなと思いながら布団に身を沈め、あれっと首を傾げる。

(俺、逃げようとしてたんじゃなかったけ?)

 障子の方に首を捻れば、先ほど開け放った障子の前に神竜が座っている。逆光で表情が分かりづらいが、呆れているのはなんとなく分かった。

「お前さっきこの部屋から逃げようとしていたのに、素直に布団に戻るとは……本当にバカだな」

「なん……」

 勢いよく身を起こし、体に走った激痛に顔を歪めて布団に倒れ込んだ。

「いてぇ……」

「下手に暴れられても困るし、お前にはこれくらいの痛みがあった方が丁度いいな……いや、それよりも痛み止めの呪符は剥がしておこうか、そうすれは布団から這い出すことも無理だろう?」

 首を傾げて微かな笑みを浮かべる。

「それがいやだったら大人しく寝ていろ、あまり動けば傷に触るぞ?」

「うるせえ」

 香月が睨む。

「俺はここに長居するつもりはないからな」

「そうか、好きにすればいいさ」

 神竜が肩をすくめる。そのあっさりとした態度に、囮だから逃がさないと言われると思っていた香月は拍子抜けしてしまう。

「いいの?」

「あぁ、構わない。ここから出ることが出来るならだがな」

 二人の間に訪れる静けさ。どこからかピィーヒョロロという(とんび)の鳴き声が聞こえても、何の反応も示さない香月に神竜が満面の笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

「ここには結界が張ってある」

「ふざけんなよ、てめぇー。俺を閉じ込める気か!」

 香月が再び勢いよく身を起こし、とたんに全身に走った激痛に布団に倒れこむ。

 香月の学習能力はゼロだった。

「イデデデ……」

「間違っているぞ香月。閉じ込める気ではない、もう閉じ込めてあるんだ」

 しれっと言う神竜に、香月のこめかみに青筋が浮く。神竜は口元にどう見ても面白がっているようにしか見えない笑みを浮かべた。


神龍と香月の会話何と無く好きです。

コントみたいで(^∇^)

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