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 空には星が瞬き、光を湛えた満月が地上を照らすが、枝の(おお)い茂る森には届かず暗い森が広がっている。その森を香月は一人何の音も立てずに歩いていた。

 足元には落ち葉や小枝が転がっているにもかかわらず、踏みしめても何の音もしない。

 あぁ、そうかと頷く。これは夢なのだと香月は思った。どうりで体は軽く、森を見渡しても何の気配も音もしない。

「真樹?」

 唐突に香月は真樹のことを思った。

 暗い森の中を駆け出し友の姿を探す。左右を見渡し、走り出して幾許(いくばく)もしないうちに開けた場所に出た。そこは白い巨木が立ち、ぽっかりと空いた空から月の光が惜しみなく降り注がれている。

 暗い森から出た香月は目を瞬かせた。

「真樹?」

 木の根元に十二単の女性を腕に抱えた青年の姿があった。女性の服は強く抱き締められているために深いしわがより、着くずれている。

 これ以上近づいてはいけないような気がして一歩後退し、再び森の闇に身を置く。

 どうしたものかと迷いあぐねていると、小さく押し殺したような声が聞こえてきた。

 香月が目を瞬かせる。

 真樹が泣いていた。声を押し殺し、肩を震わせながら腕の中の女性を掻き抱く。

 女性の指がピクリと動き、切れ長の目を薄らと開けた。白く細い腕を上げ、泣く真樹の背を優しくなでる。

「真樹様……」

 か細い女の声に真樹がゆっくりと身を放し、女の顔を覗き込む。

「彩姫、どうして今まで何も言ってくれなかったのです」

「ごめんなさい。でもこれは私が望んだことです」

 そう言うと彩姫は、真樹の頬に伝う涙を着物の袖で拭う。頬を緩め、微かな笑みを浮かべた。

「泣かないでください、真樹様。彩は幸せですよ?」

 真樹が弱々しく首を振る。

「…………私があなたに近づかなければ、あなたが瘴気に当てられることはなかった」

「そんなことおっしゃらないで……」

 彩姫が切なげに微笑む。

「私は、どんなことになろうとも後悔などいたしません。あなたに出会えたこと、それこそが私の全てです」

 真樹の瞳から新たな涙がこぼれ落ち、頬を濡らしていく。

 彩姫が小さく息を吐き、真樹の胸に頬を寄せた。

「真樹様、どうか私をお傍に居させてくださいませ。一瞬でも長く、私はあなたの傍にいたい…………もっと、長く」

 切なく揺れた彩姫の瞳から一滴の涙がこぼれ落ちる。

「真樹様……私が生まれ変わったら見つけてくださいませ。真樹様を忘れたくはありませんが、私はただの人です。きっと生まれ変われば忘れてしまう。だから……」

 溢れだす涙に言葉をとぎらせた彩姫を真樹が抱きしめる。

「あぁ、約束しよう。どんなに姿形が変わろうとも君を見つけて逢いに行くよ」

 彩姫が口元に笑みを浮かべ、瞼を閉じる。

「約束……ですよ……」

 森に身を隠していた香月は二人の会話を聞きながら、洸が話してくれた物語を思い出していた。

 妖しが出す瘴気によってその身を蝕まれ死んでいった姫君……。

 一瞬、彩姫の姿が洸の姿に重なる。

 はらりと一枚の木の葉が香月の目の前に舞い落ちてきた。それを機に、周りの景色が瞬く間に崩れて木の葉に変わっていく。

 月の光に溢れた場所は消え去り、淡い光を放つ真樹以外の全てが黒く染まる。

 真樹は白い手で顔を覆い、暗い闇の中で一人うずくまっていた。

 闇の中を香月は走り出す。

「真樹」

 どんなに走っても真樹に近づくことが出来ない。

 悔しさで香月は顔を歪める。

 諦めきれずに手を伸ばしたとたん、目の前が開けた。目を焼くような強い光。


 次の瞬間、香月は、はっと夢から目を覚ました。

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