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「いったか……」
緊張が解け、思わず「はぁっ……」と神竜の口から深い安堵の溜息が洩れた。
香月から手を放す。
体の自由を取り戻した香月は、痛む腹部を押さえて神竜から離れようとふらつく足で立ち上がった。肩に止まっていた朱雀が大きく羽ばたいて空へと舞い上がる。
神竜の口から先ほどとは違う呆れた溜息が洩れた。神竜は立ち上がると、おぼつかない足取りで逃げようとする香月の腕を掴んだ。
「動くな。これ以上動けば死ぬぞ」
「俺は妖怪だそ、これくらいで死ぬわけ……っ」
膝から力が抜け、その場に崩れ折れそうになる。
バランスを崩した香月の体を神竜の腕が抱き止めた。
「言った先からこれか」
「う……うるさい」
虚勢を張ってはいるが、明らかに青ざめた顔の香月に神竜が舌打ちする。
腕に力を込め香月の体を引き上げると、腕を肩に回し、傷口に負担が掛からないように慎重にその身を支える。
「放せよ。真樹を誘きよせる餌なんかになってたまるか」
香月が弱々しい力でもがく。
神竜が再び小さく溜息を吐いた。
「すまなかった」
神竜の口から紡がれた言葉に香月は自分の耳を疑う。
「ああでもしなければ引いてはくれそうになかったからな、卑怯なやり方だということは解っている。だが、間違っているとは思わない。これは俺にとってもお前にとっても最善の方法だ」
香月が神竜から視線をそらす。最善の方法だったのかは解らないが、あのまま神竜と真樹が争うことは避けられたことは確かだ。
香月がか細い息を吐く。先ほどから体が重くて、うまく動けない。
「神竜……」
香月の弱々しい声。
「俺、もうダメ……」
「何?」
眉をひそめた神竜の肩にずしりと重みがかかる。香月の髪が銀色から変哲のない茶色に戻って行く。
「おい、香月?」
青ざめた顔は瞼を固く閉ざし、名を呼んでも起きる気配がない。
ポタポタと血の滴る音がやけに耳触りに響き、神竜は顔をしかめた。
「香月! しっかりしないか香月!」
体を揺すり何度も名前を呼ぶが、固く閉じられた瞼が開かれることはなかった。




