19
朱雀が静かに香月の肩に止まる。先ほどのように炎が香月の肉を焼くことはなく、何の熱も感じない。
喉を仰け反らせた香月に身を寄せる。
「去れ、真樹。でなければ香月が死ぬことになるぞ」
香月の側に片膝をつき、冷たい声音で神竜が言う。
真樹の瞳に怒りの色が再び浮かびあがった。
炎の中に埋もれていた枝や根がざわりと蠢き、黒ずんだ樹皮を割って新しい枝や根が姿を現す。
「香月を放せ、陰陽師」
「断る。もう一度言うぞ真樹。ここから去れ、これ以上お前とここで闘うつもりはない」
炎の中から枝や根が蛇のように首をもたげる。
「私が香月を人質に取られたまま引き下がると思っているのか?」
「あぁ、引き下がらなければ香月は確実に死ぬことになるからな」
血が滲むほどに拳を握りしめる真樹に「あぁ、そうだ」と神竜が言葉を付け加える。
「一つ言っておくが、これは香月のためでもある。お前では香月の傷を手当することは出来ないだろう。このまま何もしなければ俺が手を下さなくても香月は死ぬ」
神竜に標準を定めようとしていた枝や根の動きが止まる。
真樹の目が香月の腹部の傷に向けられた。傷口からはおびただしい血が止まることなく流れ、香月の服を赤く染めて行く。
真樹は顔を歪め視線をそらす。
逡巡するような間の後、苦々しげに呟いた。
「………………お前なら、香月を助けられると?」
「あぁ、約束しよう。森田葵がお前の手中にある今、お前を誘きだせる餌は香月くらいだろうからな、信用してもらって構わない」
神竜が肩をすくめる。
「まあ、お前が罠だと解っていて姿を現わせばだがな」
「…………一週間だ」
怒りを含んだ真樹の瞳が神竜を見据える。
「一週間後に香月を迎えに行く。その間に香月の身に何かあれば、死をもって償ってもらうぞ」
「いいだろう」
真樹が香月へ悲しげな視線を向けたが、何も言うことなく唇を噛みしめて一歩後ろへさがった。
その姿がボロリと崩れ、木の葉となって風に舞う。全ての葉が消え去ると同時に、蠢いていた枝や根、炎に焼かれ灰と化したものすらも風に吹かれて消えた。




