11
校門を右手に曲がった森田葵を追って、香月も校門を出る。百メートルほど行った先に森田葵の後ろ姿があった。
後を追いかけようと走り出した瞬間、後ろから首根っこを掴まれ、香月は蛙のような呻き声を上げた。
「げ……苦し」
襟首をつかまれ、そのまま後ろ向きに引きずられて行く。
襟首を掴む手を剥がそうともがくが、体制が悪いせいか外すことが出来ない。今にも尻もちをついてしまいそうになりながら、せめて顔を確認しようと首を巡らせた香月は、見たことがある男の黒髪にゲッと呻いた。
「神竜……?」
校門から壁沿いに引きずっていかれ、角を曲がった所で襟首を掴んでいた手が外れる。バランスを崩した香月がその場に尻もちをついた。
「いてぇー」
「お前ここで何してる」
腕を組み、神竜が冷たい氷のような黒い瞳で香月を見下ろす。
一目で神竜が怒っていることが解った。思わず首をすくめてしまう。
「もうお前は関わるなと言ったはずだが」
「でも、次に狙われるかもしれない子がいるって知ってるのに、ほっておけるかよ」
口を尖らせて言う香月に、神竜の目が一層険しくなる。
「あの子にはこちらで護衛を付けている。お前がしゃしゃり出る必要はない」
「人手は多いに越したことはないだろ」
「お前は妖しで、人じゃないだろう」
「細かい所を突っ込むな」
真面目な顔で突っ込んでくる神竜に顔をしかめて、立ち上がる。服についた埃を手で払い、神竜に向き直った。
「それにあの子の周りをうろついていれば、お前に会えるだろ」
怪訝そうに、端正な眉をひそめる神竜。
「お前さ、本当に真樹を式神にするつもりなのか?」
ピクリと微かに神竜の指が動いた。
「俺、そんなことさせるつもりないから。絶対阻止するからな」
宣戦布告のように指を突きつける香月に神竜の瞳が冷たく細められる。無造作に手を伸ばして目の前にある香月の手首を掴むと、香月の後ろに回り込んで捻りあげる。
「いででで」
香月が神竜の手から逃れようともがくが、捻りあげられた腕は痛いだけで振りほどけない。身動きの取れない香月に、神竜がどこまでも冷たい声音で言い放つ。
「真樹はもうお前の知っている真樹じゃない。あれは危険だ」
「危険? 危険なわけあるか、真樹はいい奴だよ。いつだって優しく笑ってこの町の人たちを守って来たんだ。今回だって何か事情があったに決まってる。あいつのこと何も知らないのに偉そうなこと言うな!」
顔を歪めて怒鳴る香月に、昨日の出来事が脳裏をよぎった神竜は、ギリッと奥歯を噛みしめた。昨日のことをどう説明しようかと言葉を探していた神竜の耳に女性の悲鳴が届く。
神竜がハッと声のした方に顔を向けた。
「間の悪い」
神竜は忌々しげに舌打ちし、香月を捕えていた手を半ば突き飛ばすようにして放した。たたらを踏む香月の横をすり抜けて走り出した。
神龍・・・
本当は、もっと冷淡な人の予定だったんだけどな・・・
単なる、口の悪いお人好しにドンドンなっていく(T . T)




